筑波大発の水中ドローンスタートアップFullDepthがDrone Fundなどから3.4億円を調達

地球上の表面積の7割を占める海は、生命の起源や地震活動のメカニズムといった多くの謎の手がかりを秘め、水産物や鉱物、エネルギーなど資源の宝庫でもある。だが海中の実態については、ほとんどが明らかになっていない。

「陸上に比べて海の理解は遅れている。マイクロプラスチックによる汚染や地球温暖化などの問題にも関与する海のことを、もっと分かるようにしたい」そう語るのは、水中ドローンを自社開発し、サービスを提供するFullDepth(フルデプス)代表取締役の伊藤昌平氏だ。

筑波大学発のスタートアップである同社は5月27日、約3.4億円の資金調達を明らかにした。第三者割当増資は4月、Drone Fundをリードインベスターとし、Beyond Next Ventures三井住友海上キャピタルおよび筑波総研の運営する各ファンドを引受先となって実施済みだ。

FullDepth(旧社名:空間知能化研究所)は2014年6月の創業。2016年3月にエンジェルラウンドで資金調達を行い、深海探査機の開発に着手した。試作機による実証実験を進め、2017年6月にはシリーズAラウンドで1.9億円を調達。2018年6月には、自社開発の水中ドローン「DiveUnit 300」の製品化を実現し、同機の保守・運用、保険、取得データの蓄積・活用までをパッケージにしたサービスを提供開始した。

サービス開始から2019年4月末までに約50カ所、延べ約65日にわたり、ダムや防波堤といったインフラの点検や、水産設備の保守管理などで活用されているという。

DiveUnit 300は水深300メートルまで潜航可能な小型の水中ドローン(ROV)。バッテリーで駆動する本体は船上のPCとテザーケーブルで接続され、内蔵カメラによる映像をリアルタイムで確認することができる。

DiveUnit 300は人の手で水中に投入できる

同社が開発したクラウドサービスを使って、遠隔地でも映像や各種センサーによる取得データの確認が可能。機体の操作指示もリモートで行えば、現場へ足を運ぶ人数を減らすことができ、コスト削減にもつながる。

モニタリングの様子

また、今まで潜水士が潜るには危険で調査ができなかったような場所での調査も可能にした。潜水士が一度に潜れる時間の限界(水深20メートルで1人30分、1日2回までなど)もあるため、かさみがちだった点検工期も、いったんドローンが広域をチェックして、必要があれば人が詳細に調べる、といった切り分けもできるようになり、大きく削減できるようになった、と伊藤氏はいう。

前回の資金調達では製品化実現に向けて投資を行ったFullDepth。今回は「顧客の課題解決のため、製品の量産を図るとともに、組織を強化する」と伊藤氏は調達資金の使途について説明している。

また、海に囲まれた日本は「水中のインフラや養殖いけす、定置網などの水産設備については進んでいる」と伊藤氏。これらの調査・点検に関するノウハウを持って、海外展開も始めたいと述べている。

同社は、水深1000メートルまで使用できる実証実験機「Tripod Finder」も保有している。今後、深度を深める開発に取り組まないのか尋ねたところ、伊藤氏は「まずは1プロダクト(DiveUnit 300)の量産に集中して、これでできることを増やす。クラウドを使ってデータを蓄積することでできるサービスも検討している」と回答。

具体的には、Google ストリートビューやスマートフォンのGPSによる行動解析データと同様に、海中の深度や温度といったデータを、水中ドローンを潜航させて取得・蓄積することで、何らかのサービスにつなげたい、ということだった。

伊藤氏は「顧客の課題に合わせて深度を追求することもあり得るが、浅いところでも分からなくて困っているということはまだまだ多いので、それをまずは分かるようにする。顧客自身が『何が分からないのかが分からない』ということもある段階なので、一つ一つ身近なところから精査しながら、事業に取り組んでいく」と話していた。

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TechCrunch Japan

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