米テック企業のモラルが損なわれている今、カナダは正しい価値観の中でテックを構築するのに最適の場所だ

拠点であるシリコンバレーが生み出す輝きや利益など、米国のテック産業は最近まで科学、発展、起業家精神といったもので米国を素晴らしい国にしているまぶしい存在だった。しかしテック大企業に対する世論は驚くほど急激に厳しいものになった。否定的な見方が2015〜2019年の間に17%から34%に倍増した(Pew Research Center記事)。懸念材料は多く、そこにはプライバシー、労働者の待遇、マーケットプレイスの公正さ、広告入り媒体の惨状、パブリック・ディスクロージャー(公共政策に関わるような報道や発言)の悪意などが含まれる。

しかしこれらの背後に1つの大きな問題がある。業界が成長、利益、パワーに貪欲で、従業員や顧客、社会全体の住人を人間として適切に扱わなかったことだ。プロダクト、企業、エコシステムは人々によって人々のために作られているということを心に留めておかなければならない。そうしたものは社会の価値を反映する。そして現在、米国の価値は酷い状態だ。

筆者2人は、マイクロプロセッサーやエレキギターを生み出した米国に対し多くの尊敬の念と愛着を抱いている。我々は米国でテックキャリアを追求することができたが、度重なる誘いを断って母国カナダに留まることを選んだ。もし、一部の人のための自由やインクルージョンではなく、多くの人のための公平、ダイバーシティ、社会の進歩に活用されるテクノロジーを構築したいのなら、カナダは絶好の場所だと我々は考えている。

正確にいえば、米国のテック大企業はあまりにも多くの資金、パワーを持ちながら、さほど責任を負っていない。トップのテック企業は明らかにイノベーションの恩恵を最大限に受けているが、社会的コストにはほとんど目を向けていない。テック大企業は素晴らしいものを作っている。しかし彼らはまた暮らしを崩壊させ、プライバシーを侵害し、自社のプラットフォームを乱用している。

筆者2人はテックは物事を良くするものだ、という時代に育ってきた。今日のテック大企業の一部も同様だ。テック大企業4社のCEOがつい最近、議会で証言した。彼らは独占禁止法違反の疑いで質問攻めにあったが、その様子を見ていた人の多くが、そうした企業に関連する他の害について考えていた。その害とは、税金逃れ、プライバシー侵害、データマイニング、監視、検閲、虚偽の拡散、有害な副産物、従業員福祉の軽視などだ。

しかし業界の問題はプロダクトそのものではない。あるいは、それらを作っている人々でもない。テック労働者は、働いている企業よりもかなり進歩的な傾向にある。例えばFacebook(フェイスブック)のスタッフはDonald Trump(ドナルド・トランプ)大統領の投稿に対して仕事をボイコットして反対の姿勢を見せた。

テック大企業の問題には、米国が対応に苦慮している問題が凝縮されている。テック大企業の財務諸表にも反映されている経済格差、テック業界がマイノリティや優秀な移民を擁するのを阻む人種差別的な政治などだ。

我々は特に、トランプ政権のH-1Bビザ保有者の機会を取り上げるという最近の動きに衝撃を受けた。家族が何年も離れて暮らした後のビザ発行禁止と反移民レトリックであり、これは世界中からのIT専門家やエンジニア、プログラマー、研究者、医師、起業家、未来のリーダーつまり米国の現在の繁栄を築いた才能ある新規転入者たちをもっと受容力のある国に送ると判断したものと受け取れる。

そうした受容力のある国の1つが、筆者が居住し働いているカナダだ。カナダは長らく移民を受け入れてきたが、近年は米国で不快な思いをしたり必要とされていないと感じている優秀な人材をすくいとる政策で長年続いていた頭脳流出の問題を転換させた。カナダにはGlobal Talent Streamという移民プログラムがある。これはイノベーティブな企業が専門スキルを持った外国人労働者をすばやく採用できるようにするものだ。トロント、モントリオール、ウォータールー、バンクーバーといった都市は、トランプ政権になってからテック関係の雇用創出で北米をリードしている。雇用の創出は、国際的なテック大企業による前哨部隊設置、そして物事をカナダ流に行うソフトウェアデベロッパーのOpenText(オープンテキスト、筆者の1人が共同創業者だ)やeコマースの大企業Shopify(ショピファイ)といったカナダ企業(BNN Bloomberg記事)によるものだ。

「カナダは素晴らしい。試してみて」。ShopifyのCEOであるTobi Lütke(トビー・ルトケ)氏は最近Twitter(ツイッター)で不満を抱いている米国のテックワーカーに呼びかけた(Bloomberg記事)。

しかし素晴らしいのは政策だけではない。根本的な価値観についてもそうだ。カナダはダイバーシティが理論的にも(移民政策に表れている)、現実にも(バンクーバーやトロントの街を歩けばわかる)かなり浸透している。我々はパーフェクトではない。しかし対処する必要がある問題の認識においてはしっかりと導かれ、当然成功してきた。そしてカナダの社会契約は協調的で包括的だ。

つまり、それは自己負担のない公的医療制度を意味し、さらには持続可能性、共同責任、資本主義の共同的な取り組みを意味する。カナダ連邦政府と州政府はパンデミック期に零細事業者やテック人材を支えようと刺激的な賃金補助や助成を大胆に打ち出し、称賛されてきた。一方で米国政府の対応はといえば、エリートに公金が注ぎ込まれてきたことが今になって明らかになっている。

米国のテック企業はモラル的に狂っていて、これはかつてシリコンバレーが意味して価値観の中で暮らすことを望む才能ある人々の逸失につながる。富、自由、選ばれた少数の人のためではなく、包容性、ダイバーシティそして多くの人のためという価値観だ。カナダは米国モデルに代わる1つの選択肢にすぎない。しかし多くのテック業界求人があり、ベストでかつ国境を超えただけのところにある選択肢だ。

より多くのテック難民が米国を離れて態度を明確にすることになっても驚きではない。

【ゲストラーター紹介】
Tim Bray(ティム・ブレイ)氏はブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー在住のソフトウェアテクノロジスト。Amazon Web Serviceで副社長を務め、Distinguished Engineerでもあった。

Iain Klugman(イアン・クルーグマン)氏はオンタリオ州ウォータールーにあるイノベーションハブ、 CommunitechのCEO。Tech for Good Declarationの賛同者。

画像クレジット:kuriputosu / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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