米国の大手百貨店がApple Payの取り扱いをやめた理由

米国の49州に800以上の店舗を展開する百貨店チェーンであるJCPenney(J.C.ペニー)は、今月ひっそりとApple Payの取り扱いをやめた。顧客がツイートした不満に対する返答としてこの決定が公表されたが、その時点では詳しい説明はなかった。JCPenneyは2015年にApple Payを試験的に導入し、翌年には米国内のすべての店舗に展開、さらにその後は同社のモバイルアプリでも対応した。

JCPenneyは、2019年4月13日の期限までにEMV仕様の非接触チップ機能に対応することを強制されたと主張している。

この日以降、非接触の支払いを受け付ける米国の販売業者のすべての端末で、EMV仕様の非接触チップ機能に積極的に対応し、これまでのMSD(磁気ストライプデータ)非接触技術の使用を停止しなくてはならないという。

JCPenneyはこれに対応しなかったようで、結果として非接触の支払い方法をすべて停止した。ただし今後再び利用できるようにする可能性はあるようだ。

JCPenneyはTechCrunchに対し、今回の決定について次のように説明した。

クレジットカードブランド企業がすべての販売業者に対して、4月13日以降はこれまでのMSDの非接触技術をやめて、EMV仕様の非接触機能に積極的に対応するよう求めてきた。この新しい指示に対応するために必要なリソースと準備時間を考慮した結果、JCPenneyは非接触の支払い方法をすべていったん停止することを決定した。お客様は物理的なクレジットカードを店内のPOS端末で挿入するかスワイプして手動で支払いをすることができる。これはJCPenneyでお買い物をする圧倒的多数のお客様が利用している方法である。

Apple Payを利用する顧客は少ないとJCPenneyがほのめかしていることに注目だ。「圧倒的多数」の買い物客は、物理カードを使って支払いをしているという。このことから、JCPenneyが今後再びApple Payに対応するかどうかは疑問だ。今回の変更で、JCPenneyは顧客の購入データを完全に取り戻すことができる。

顧客データはJCPenneyの立て直し計画にとって重要な意味を持っている。Bloombergは同社の最新の収益に関して、2018年10月にCEOに就任したJill Soltau氏が低迷している店舗を閉鎖し、マーチャンダイジングを専門とする幹部を雇用し、利益率の低い商品を排除してきたと指摘している。また、在庫を減らし仕入れプロセスを見直して、過剰在庫を持たないようにしているという。

Soltau氏は2月に投資家に対し、同社は価格と販促の戦略も見直していると説明した。同氏は次のように述べている。「価格と販促を通じてお客様にどう語りかけるか、どう関わるかについて、我々には戦略がなかった。これは今後数カ月間の重要な取り組みのひとつだ。率直に言うとちょっと混乱していたし、お客様はJCPenneyでいつ最高の価値が得られるかがおそらくわからなかった」。

顧客の購入データがあれば、販促に関連しそうな顧客を適切に絞り込むことができるようになる。店舗は販売時に顧客の氏名とカード番号を収集し、それを住所、電話番号、メールアドレスなどのデータと結びつけることができる。

一方Apple Payではこうしたレベルのデータにアクセスできない。これは顧客にとっては好ましいことであり、小売業者にとってはそうではなかった。実際、顧客データにアクセスできないことが、小売業者が当初Apple Payの導入をためらうひとつの理由で、競合ソリューションのCurrentCを利用してきたが最終的には失敗に終わった。

現在、大規模小売業者の多くはApple Payではなく各社独自の支払い方法を利用するように顧客に働きかけている。Walmart PaySam’s ClubのScan And Goなどだ。Targetなどは自社のストアカードで支払い、購入時に1つのバーコードをスキャンするだけで商品の割引も受けられるようにしている。

Apple Payは現在の消費者が好む、安全性の高い支払い方法である。JCPenneyのように過去に大規模なデータ流出があった小売業者の場合にはなおさらだ。それにApple Payなら、買い物客はカードでぱんぱんの財布は持たず、携帯電話だけを持っていけばいい。

JCPenneyがApple Payの取り扱いをやめたことは、早い段階でMacRumorsAppleosophyのクレジット入りで報じた。9to5MacもJCPenneyアプリからApple Payが取り除かれたことを報じていた。

JCPenneyはApple Payの取り扱いをやめたが、Apple Payは依然としてモバイルペイメントソリューションのトップだ。1月時点で米国のトップ100の販売業者のうち74社、米国の小売店舗の65%がApple Payに対応している。

JCPenneyはTechCrunchに対し「今後、EMV仕様の非接触を実装するよう努める」と語っている。

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(翻訳:Kaori Koyama)