米国憲法の原本をめぐるConstitutionDAOによる大胆でユニークな暗号資産入札は失敗に

米国憲法の原本は13部現存している。その1部がアートディーラーのSotheby’s(サザビーズ)のオークションに出品された。2021年11月半ば、ある自立型分散組織(DAO、Decentralized Autonomous Organization)が、インターネットの注目を集めた激しい入札合戦の末、その落札に敗れたことを発表した。それでも、インターネット上で出会った人々のグループであるDAOの大胆な台頭は、単一のミームとオークションで多くの人々を一度に暗号資産の世界に巻き込むという、ユニークなケーススタディだった。

Twitter(ツイッター)上では、同グループの一部のメンバーがライブのTwitter Spaces(スペース)チャットで誤って勝利宣言し、短時間の興奮が沸き起こった後、同グループは結局敗北したことが声明で発表された。その声明によると、同グループは「72時間以内にクラウドファンディングによる最高額の記録を破った」という。

あるオーガナイザーは、グループのDiscord(ディスコード)チャンネルで、文書の維持と管理に必要な予備費を継続的に確保するための十分な資金を調達できなかったために敗北したと述べている。同グループの説明では、ConstitutionDAOの参加者はガス代(取引手数料)を除いて返金を受けることができる。参加者にまだ与えられていないガバナンストークンがあるという事実を踏まえると、一部のメンバーがグループに残りたいと思った場合、金銭の返還はさらに複雑になる可能性もあるだろう。

アトランタ在住で金融関係の仕事をしているAustin Cain(オースティン・ケイン)氏とGraham Novak(グラハム・ノバック)氏は、Discordのチャットから始めてこの取り組みに着手した。現在では8000人以上のメンバーが参加している。ローンチから一週間もたたないうちに、このDAOは初期段階のDAOプラットフォームJuiceboxで4000万ドル(約46億2000万円)相当のETHを調達した。

この取り組みは、主にTwitter、そして膨れ上がるDiscordサーバーを介して展開されており、所有権の共有と透明性が原則となっているWeb3ユニバースの中で、コミュニティの取り組みがどのように見え、感じられるかを知るための窓のような存在になっている。DAOの構造がもたらすオポチュニティは広範な関心を呼び起こしている。DAOのトレジャリーが管理する価値は、一部の推計によると、現在60億ドル(約6930億円)を超えている。

先週、Daniel Monteagudo(ダニエル・モンテアグード)氏は、ある友人から、ETHを使って憲法を購入しようとしている人々との3分以内に始まるコールに参加したいかどうか尋ねるメッセージを午後7時57分に受け取った。同氏は見ていた映画を途中で切り上げ、コールに参加し、その運動を支援することにした。これまでに1000ドル(約11万5000円)を投じ、現在はConstitutionDAOのTwitterアカウントを運営している。

大部分のDAOとは異なり、ConstitutionDAOはトークンゲートではないため、コミュニティを求めてDiscordに参加する人は組織に投資する必要がない。例えばBored Apes Yacht Clubのように、会員制のコミュニティにアクセスするためには高価なNFTを買う余裕がなければならないのとは別物である。

「実に奇妙なことです」とモンテアグード氏は、これまでにGrimes(グライムス)氏を含む1万9000人を超えるメンバーが参加しているこのDAOプロジェクトの勢いについて触れ、次のように語った。「ただ、人々は特定の目標に向けて行動を起こすために巨額の資金を迅速に調達できることに興奮を覚えているのだと思います」。

サードパーティのダッシュボードを用いて、ConstitutionDAOのコントリビューターの13%がETHを初めて利用しているとモンテアグードは推計している。同プラットフォームによると、ConstitutionDAOに貢献した人の約44%は、自分の名義でのトランザクション数が40に満たないという。

人々を暗号資産へと駆り立てる魅了感は、劇場的に見えるかもしれないが、それはConstitutionDAOの刺激的な副作用である。人々に分散化されたコミュニティのインパクトと感触を理解する方法を与えると同時に、米国憲法が抽象的アート作品よりも優れているかもしれないというふうに、彼らの感情に訴えかけてくるものだ。

「DAOは、世界中から集まった大勢の人々が一緒に活動することを支援します。企業もこれを行うことができますが、設立には時間がかかる傾向があり、国境を越えて人々に報酬を支払うことは困難な場合があります」と同氏はいう。「DAOを使用すると、世界規模の組織を簡単に構築できます」。

新規ユーザーの多さはエキサイティングかもしれないが、それはまた、新しい暗号資産を教育する責任が誰かに生じることを意味している。例えば、初期の段階では、コントリビューターが自分の資金がどのように使われるかを正確に理解できるように、ConstitutionDAOチームはピッチを「憲法の一部を所有する」から「ガバナンストークンを取得する」に変更する必要があった。

「多くの人々、例えば3000人が暗号資産に参入した理由は憲法(の原本入手への参加)であると考えていますので、そうした人々がうまく暗号資産を利用していけるようにする責任を感じています」とモンテアグード氏は語っている。

Upstream(アップストリーム) の創業者Alexander Taub(アレクサンダー・タウブ)氏は「DAO」という言葉を完全に廃止したいと考えている。その代わりに同氏の会社は、Dapper Labs(ダッパー・ラボ)のやり方に倣い、その構造に「collective(共同体)」という呼び名をつけた。

「私たちは車輪を再発明(不要あるいは冗長な準備を行うこと)しているのではありません。友達とお金をプールすることは長い間行われてきており、コミュニティに支払うことも以前から行われています」とタウブ氏はいう。その代わり、DAOは2つのうちの1つを望んでいる個人の賭けである、と創業者は続けた。お金を稼ぐか、コミュニティの中で所有権と透明性の感覚を得るかだ。後者の方が有望ではあるが「今はあまり研究されておらず、話題にもなっておらず、議論もされていない」ように感じられる。

これはUpstreamが先に、DAOs-in-a-boxを提供するプラットフォームを開発していることを発表した理由の一部である。同氏が構想している世界では、collectiveのメンバーが共通のETHウォレットに資金を寄付したり、資金の使用方法に関する提案書を作成したり、意思決定について投票したり、コミュニティ内でより多くの投票権を持つ代表者を選んだりすることができる。DAOを設定するためのフルスタックスポットを作ることで、ガバナンスとコンプライアンスがより明確になるとタウブ氏は考えている。

「Upstream collectiveは、多くの人々が初めてDAOに参加し、 MetaMask(メタマスク)ウォレットでEthereum(イーサリアム)を使い、それを快適に活用していける場となるでしょう」とタウブ氏。「一般的に言って、より多くの人がお金がどう動くかの未来を理解するのは良いことです。私たちはすでに隔たりを越えているのです」。

Upstreamは、DAO開発を加速させようと奮闘している複数のスタートアップのうちの1社にすぎない。Andreessen Horowitz (アンドリーセン・ホロウィッツ)は8月にDAOのツールビルダーであるSyndicate(シンジケート)を支援し、Utopia Labs(ユートピア・ラボ)は10月にDAOオペレーティングシステムのために150万ドル(約1億7300万円)を調達した。

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ConstitutionDAOのようなグループは、DAOの支持者たちに新しい構造を約束しているが、彼らは新規の暗号資産テクノロジーに対する一般的な批判を免れない。一部の人は、ConstitutionDAOを単なる見せかけの購入の1つにすぎないと見ており、文書の購入に費やされた数百万ドル(数億円)の代わりとなる用途が膨大にあると指摘している。

注目を集める仕組みは、NFTのような新テクノロジーの力を人々が理解するのに役立ってきたが、それだけが暗号資産の魅力ではないし、そうあるべきでもない。とはいえ、新しいテクノロジーの黎明期にはよくあることだが、暗号資産を使いこなせない人々にアピールするイベントは、不完全ではあるが教育に役立つ可能性がある。

DAOは、貴重な歴史的文書を入札するだけでなく、さまざまなユースケースを想定している。MirrorのようなクリエイターのDAOは、人々が自分の仕事を部分的に収益化することを可能にし、PieDAOのようなプロジェクトは、企業がするようにビジネス上の意思決定をするためにその構造を使用する。Uniswap(ユニスワップ)やAAVE(アーべ)など、ほとんどの有名なDeFi(分散型金融)融資プラットフォームはDAOによって管理されている。

1回限りの購入を目的に設立されたDAOの中には、その後、対象範囲を広げたものもある。例えば、PleasrDAOはもともとUniswap NFTのアートワークを購入するために設立されたが、その後DeFiに進出し、インキュベーターを立ち上げた。非常に多くの牽引力を得ており、豊富なリソースを集めていることから、ConstitutionDAOも容易に同じことができるだろう。

タウブ氏は、公共の利益になるようなDAOの長期的な利用の可能性を考えている。例えば、地方自治体では、市の住民が財務省の資金の使い方について直接投票することができる。しかしタウブ氏はまた、その新しさと、白人で男性であることで知られるWeb3コミュニティとのつながりを考えると、DAOにはまだまだ長い道のりがあることを認めている。

多くのDAOを支えているガバナンストークン構造が、個人の寄付額に基づいて投票権を割り当てていることは注目に値する。ConstitutionDAOは将来この構造を採用すると思われるが、現時点ではConstitutionDAOのDiscordチャットは誰でも利用できる。DAOは透明性と所有権を提供しているが、より大きな利害を持つことができない人々はグループの決定に対して同じレベルの発言権を持たないことから、DAOを民主的と呼ぶのは無理があるかもしれない。

また、他の新しいWeb3テクノロジーと同様に、DAOは正式な監督や規制がほとんどない状態で大規模な資本移転を促進する。自分たちが提供するコミュニティのビジョンに惹かれている人たちは、お金を失ったり、詐欺の被害に遭ったりすることに不安を抱くかもしれない。

DAOへの参加は、今日存在する規制のグレーゾーンを考えると、大きなリスクをともなう可能性がある。米国のほとんどの州では、DAOは具体的な法的構造によって規制されていないため、プロトコルの開発者と参加者は、規制を受ける企業の株主に比べて高い責任を負っている。

これらの障壁が克服されるまでは、DAOは、企業や社会の強固な構造に重大な脅威を与えるというよりも、むしろソーシャルグループやConstitutionDAOのようなニッチコミュニティを中心に据えている可能性が高い。しかし、インフラが整備されれば、ニッチなアイテムを購入したり、インターネットで楽しんだりする暗号資産に関心のあるユーザーのグループから、企業のように振る舞うものの、意思決定においてより機敏で包括的な役割を果たすことのできる本格的な共同体へと、DAOは変化するかもしれない。

画像クレジット:Bryce Durbin

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(文:Anita Ramaswamy、Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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