米大統領選アイオワ民主党集会は集計アプリのバグで混乱続く

大統領の座を巡って共和党候補(ほぼ間違いなくドナルド・トランプ現大統領)と戦う民主党の大統領候補が決定するのは今年末になるはずだが、アイオワ州の民主党党員集会は長い予備選の幕開けとなるため、極めて重要な意味を持つ。このチャンスを生かしてブームを作れるかどうかが予備選の勝利に直結する。全国の有権者、メディアの関心も集中していた。

それだけにアイオワ党員集会をめぐる2月3日の混乱は非常に憂慮される事態だ。いまだに集計結果が発表できず、いったい誰がどれほど勝ったのか不明だ。

この混乱の中心はShadowという営利企業によって開発されたといわれるモバイルアプリだ。New York Timesの記事によれば、アイオワ州民主党が利用したアプリは「この2カ月で大急ぎで作られた」プロダクトで、「これほど重要な政治イベントで集計に用いられるアプリなら当然要求される綿密なテストを経ていない」という。アイオワ民主党は Shadowに6万3000ドル(約690万円)を2回分割で支払い、「安くて簡単に使えるツール」の開発を依頼したと報じられている。

TechCrunchでは2月3日の夜、集計用モバイルアプリがクラッシュして結果発表が遅れていることを報じた。アイオワ民主党の広報担当、Mandy McClure(マンディ・マクルーア)氏は声明で「結果に関する3種類の数値の間に矛盾がある(ため精査している)。基礎となる報告、またそのデータにはまったく問題がないので結果発表が若干遅れるだけだ」と述べた。

同氏は「ハッキングや悪意ある侵入などの形跡はない」と付け加えた。2016年の選挙にロシアのハッカーの介入があったという報道が繰り返されたことを考えると重要な点だ。

アプリを開発したShadowの背景にはいくぶん不明な点がある。民主党進歩派のNPO組織であるACRONYMは自サイトでShadowを「ローンチした」としていた。しかし昨夜の混乱の後、広報担当のKyle Tharp(カイル・タープ)氏は「単に投資しただけ」と距離を置き、「アイオワ民主党にいかなるテクノロジー上の援助もしていない」と述べた。ACRONYMの声明によれば「我々は、皆と同様、アイオワ民主党からさらに情報が明かされるのを待っていると声明した。

ACRONYMのサイトのAboutページには当初、「2019年1月、我々はShadowをローンチした。これは選挙運動の組織者がキャンペーンを効率的に実施するためのテクノロジーを開発する企業だ」と書かれていた。これが事件後には「 2019年1月にわれわれはShadowに投資した」と修正されていた。

アイオワ民主党の委員長、Troy Price(トロイ・プライス)氏は問題発生に続く声明で、「プログラミング上の問題」によるものだとした。

我々の調査によれば、(問題の)アプリが収集してデータは自体は正常でありまったく問題ないと判明した。 アプリはデータを正しく記録したものの、データの一部分しか集計出力されないという問題が起きていた。調査の結果、これはアプリの結果出力部分のプログラミング上の問題だと結論した。問題は同定され、すでに修正されている。アプリの結果出力の問題は各地区の責任者が報告した数値の健全性になんら影響を当たるものではない。

(…)地区責任者からの結果報告は現在もアイオワ民主党に送られ集計されつつある。われわれは即日、可能な限り早く結果を公開する予定だったが、データの整合性と正確さを最重点とする立場から、集計発表は延期された。

またプライス氏は「システムはセキュリティ専門家がチェックした」と述べ、ハッキングや侵入の試みがなかったことが確認されていることを繰り返した。

【略】

LA Timesの報道によれば、Shadowは当初Groundbaseと呼ばれ、 2016年の大統領選でヒラリー・クリントン候補のデジタルキャンペーンのスタッフだったGerard Niemira(ジェラルド・ニーミラ)氏とKrista Davis(クリスタ・デイビス)氏によって創立されたという。正確な状況や原因が不明であるため、民主党員の間には、当然ながら、このデジタル集計システムに対する不信が高まっている。

画像:Tim Hynds/Sioux City Journal / Getty Images

【Japan編集部追記】 「3種類の数字」は「参加党員の最初の選択、2回目の選択、最終の選択」。MSNBCの報道によれば、これは前回の大統領選のアイオワ集会で勝利したヒラリー・クリントン候補と次点となったバーニー・サンダース候補の差が0.3%しかないことで紛糾したため。各地区の責任者はモバイルネットを通じてこのアプリで3組の数値をアイオワ民主党本部に送ることになっていたが、トラブルが多発して電話連絡を利用するなどしている。

ShadowのCEOであるニーミラ氏のLinkedin登録ページによれば、彼はACRONYMのCOOでGroundBaseの共同創業者兼CEO、「ヒラリー・フォー・アメリカ」のプロダクト・ディレクターを歴任している。それ以前の職歴は、途上国向けマイクロファイナンスのKiva.orgに7年8カ月在職している。ボストン大学卒業となっている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

投稿者:

TechCrunch Japan

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