細胞データの「新たなレイヤー」を発見、プロテオーム解析用機器のIsoPlexisがIPO

細胞の周辺におけるタンパク質の活動を調べるツールを開発するIsoPlexisの株式が、米国時間10月8日からマーケットに出回った。同社はこのIPOで1億2500万ドル(約140億円)の調達を狙っており、資金で同社技術の商用化のためのチームを作り、精密医療の創造において重要な役割を果たすという同社の計画を進めようとしている。

IsoPlexisは2013年に創業した、薬学の研究でラボに出入りしているようなタイプの企業だ。同社は主に、シングルセルのプロテオーム解析(タンパク質とそれらの相互作用の研究)に力を入れてきた。同社は主に、免疫細胞や腫瘍細胞などの細胞が分泌するタンパク質を分析する機器やソフトウェアを開発してきている。

それらの機器を使うと、多種類のタンパク質を放出する細胞を見つけることができる。そのデータセットを利用して、新しい治療法を開発したり、既存の治療法への人間の反応を理解することができる。

CEOで共同創業者のSean Mackay氏(ショーン・マッケイ)氏は「私たちが発明した機器は、体中の、私たちがスーパーヒーロー呼んでいる細胞を見つけ出します。その細胞の小さな部分集合には、今日の既存の技術では見つけられない大量の活動があります」と説明する。

マッケイ氏によると、市場には2021年の前半で約150のIsoPlexisの装置が出回っており、顧客の中には15社の世界的大手の製薬企業がいる。またIPOのためにSECに提出した文書によると、米国の総合がんセンターの約半分に同社の機器がある。

IsoPlexisは過去にも、著名な投資家たちから相当な額の資金を調達している。

Crunchbaseによると、同社はIPOの前までに2億550万ドル(約231億円)の資金を調達している。至近のシリーズDでは、総額1億3500万ドル(約151億円)を調達した(約8500万ドル[約95億円]がエクイティー証券、5000万ドル[約56億円]が借入金)。そしてこのラウンドにはPerceptive AdvisorsやAlly Bridge Group、そしてBlackRockが管理する「ファンドと信用口座」が参加している。

本日の初値は約15ドルだったが、本稿を書いている時点では約12ドルに落ちた。

IsoPlexisの特徴は、プロテオーム解析とシングルセル生物学を利用して、細胞の機能を患者の状態に結びつけた初めての企業であることだ。言い換えると同社は、個々の細胞とタンパク質の相互作用を調べて、がん患者のような人がどれだけ良くなるかを知ることのできる、最初の企業に属している。

IsoPlexisの機器がそのために使われたことを示すエビデンスも公表されている。特にそれは、がんの治療に関するものだ。

例えばNature Medicineに2021年に掲載された論文では、IsoPlexisの機器を使って、リンパ腫の患者の免疫細胞の活動を調べている。これらの患者には、治療に抵抗するがんや、軽快後に再発したがんがあった。特に彼らは、CAR-T細胞療法を受けていた。それは、遺伝子を変えた免疫細胞を患者に注入する治療法で、がん細胞の標的化を助ける。その研究では、CAR-T細胞によるサイトカイン(細胞の信号送受に関わるタンパク質)の生産がCAR-T細胞の効果を示す指標であることがわかった。

そこでもIsoPlexisのデバイスが、CAR-T細胞の効果を示す信号を明らかにした。

「それは、私たちが見つけた特定の細胞が、患者における長期的な反応の指標になるということです。さまざまながんでの調査を公表していますが、患者にそういうタイプのユニークな免疫細胞があれば、これらは私たちがスーパーヒーローとして見つける細胞であり、患者に長期的にその結果があることがわかります」とマッケイ氏はいう。

細胞に関心がある人にとっては、IsoPlexisの技術が、細胞を蛍光色で染色して観察や計測をする、すでに確立した方法であるフローサイトメトリーに似ていると思えただろう。フローサイトメトリーの世界には、Thermo Fisher Scientificのような大企業もすでにいる。

しかしIsoPlexisは、まったく新しい情報のレイヤーを提供するとマッケイ氏は主張する。それは主に、フローサイトメトリーにはないタンパク質の情報だ。同社は、デバイスが個々の細胞のタンパク質の活動をバーコードで表す発明をライセンスした。そのコードを、IsoCodeと呼んでいる。Nature Reviews Chemistryに掲載された論文では、何千もの細胞のいろいろなタンパク質を一度で分析できるバーコードは便利さを主張している。しかも、細胞そのものは他の実験に使える。ただしこの方法で捉えられるのは今のところ、プロテオームの活動全体のごく一部だ。

マッケイ氏は「その新しいレイヤーのデータは個々の細胞に関して、現在、市場にある技術で得られるものと非常に異なっている」と付け加えた。

しかしそれでも、同社はまだ利益が出ていない。SECの文書によると、損失は過去数年間続いている。売上が750万ドル(約8億4000万円)だった2019年と1040万ドル(約11億6000万円)の2020年は損失がそれぞれ約1360万ドル(約15億3000万円)と2330万ドル(約26億1000万円)だった。

今後の成長への道は、もっと多くの機器をもっと多くの研究者の手に渡すことだ。

「私たちの目標は、現在と同じタイプのお客様を、より深く拡大しながら、速いペースで前進し続けることです。それはまさにコマーシャルチームを構築し続けることが必要です」とマッケイ氏はいう。

画像クレジット:IsoPlexis

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(文:Emma Betuel、翻訳:Hiroshi Iwatani)

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TechCrunch Japan

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