自分好みのコーヒーを数秒で手軽に買える体験実現へ、無人カフェロボ「√C」が大阪・なんばで実証実験

待ち時間がほとんどなく、自動販売機に近いスピードで自分好みの美味しいコーヒーが手軽に買える——もしそんなサービスがあったらどうだろうか。

今回紹介するNew Innovationsは“需要予測AIを搭載した無人カフェロボット”という切り口で、その世界観を実現しようとチャレンジしているスタートアップだ。

同社の代表を務める中尾渓人氏は現在20歳ながらロボット開発歴約15年。14歳で自立型ロボットによる国際的な研究競技大会「ロボカップジュニア」に日本代表として出場し入賞した実績を持ち、高校在学中からフリーランスとしてシステム開発に携わってきた。

現在手がけている「√C(ルートシー)」はまさにこれまで培ってきたロボット開発の知見も活かして作った無人カフェロボット。需要予測機能を持つこのプロダクトを新幹線のホームや駅の改札付近、オフィスビルやショッピングモールなど人が集まる場所に設置し、顧客を待たせることなくスピーディーに美味しいコーヒーを提供することが目標だ。

そんなNew Innovationsは√Cの実用化に向けて、8月1日より実証実験の第一弾を大阪のなんば駅と同駅直結の商業施設なんばスカイオにて開始することを明らかにした。

この実証実験は南海電気鉄道とタッグを組んで実施するもの。なんばスカイオの1Fロビー前と南海なんば駅2F南口改札前にカフェロボットを設置し、8月31日までコーヒーを販売する予定だ。

またNew Innovationsでは実証実験の開始と合わせて、THE SEEDとディープコアを引受先とする第三者割当増資により総額7000万円を調達したことも発表している。

欲しいタイミングに合わせてスピーディーにコーヒーを提供

New Innovationが開発中の√Cを少々雑に紹介すると「自分好みのコーヒーを、自販機感覚のスピードで安価に提供するロボット」といったところだろうか。実際に開発段階のものを見せてもらったが、ロボットと言っても人型のタイプではなく既存の自動販売機に近いような外見をしていた。

コーヒー豆はホテルのラウンジにて1杯1000円以上で提供されるようなものを使用。今回の実証実験ではコーヒーとカフェラテ(それぞれホットとアイスの合計4タイプ)を一律300円で販売する。待ち時間は一定ではないものの、早ければボタンを押して決済用の交通系ICカードをかざしてから5秒ほどで出てくるという。

ポイントは無人化によって人件費を削減できることと、需要予測AIを通じて顧客がコーヒーを欲しいタイミングを予測することだ。一般的なカフェではコーヒーを作るだけでなく、機械のメンテナンスや豆・容器の補充、注文の受け付けや会計までを人が対応する。√Cの場合は人が担当するのはメンテナンスなど一部の工程のみで、人が関与しなくても成り立つ業務はロボットが担う。

人を時給換算で雇う必要もないので、需要に合わせて必要な時に必要な分だけロボットを稼働させるだけでいい。その結果、通常であれば人件費の観点から赤字になってしまうような価格でコーヒーを販売できる。

√C自体は常にクラウドに繋がっていて、中尾氏の言葉を借りれば「IoTの大型のエッジデバイスのようなもの」。データを基にクラウド側で「あと10分後に10人ぐらいの顧客がきそうだ」といった形で予測が立てば、注文が入る前から豆を挽き始め、事前に10人分のコーヒーを作り始める。

実際に顧客が10分後に訪れたら、決済をして約5秒後に出てきたコーヒーを持っていくだけ。そんな体験を実現したいという。

ゆくゆくは好みや気分に合わせて味の最適化も

今回の実証実験段階では上述した機能が基本になるが、ゆくゆくは顧客ごとの味の好みに加えて忙しさや体調、気分などにも合わせて各自にぴったりのコーヒーを提供する仕組みを構築したいそう。そのタイミングでは専用のモバイルアプリを通じて注文から決済まで全行程が完結できるようにする計画だ。

「長期的にはサブスクリプション型での提供も検討していきたい。たとえば過去に大阪で甘めのコーヒーを注文した人が次に東京で利用する場合には甘めのコーヒーを提案したり。欲しいタイミングで、自分が欲しいコーヒーが手に入るサービスには価値があるのではないかと考えている」(中尾氏)

現時点でもカフェやコンビニ、自動販売機、オフィス内のコーヒーマシンなどコーヒー選びの選択肢はいくつも存在するが「カフェで長時間列に並ぶのはできれば避けたい」「空き時間にオフィスビル内で手短にコーヒーを買いたい」「ある程度味にはこだわりたい」など、既存のサービスでは満たされない人も一定数はいるだろう。

中尾氏が主なターゲットにあげるのはまさにそういった人たち。自販機のように多様なスポットへと幅広く設置するのではなく、主要な駅や大きなビルなど新しいコーヒーの選択肢を求める人が集まるスペースに集中的に置いていく構想だ。

まずはプロダクトのアップデートと並行して南海電気鉄道のような大手鉄道会社や不動産ディベロッパー、自社ビルや大きめのオフィスを保有する法人などとのパイプラインを拡充し、√Cの設置場所を広げていく計画。

「自販機でもなくテナントでもない。今まで活用できていなかったようなスペースにも設置できるのは1つの特徴。いかにこのプロダクトを通じて、設置場所や施設自体の付加価値向上に貢献できるかを追求していきたい」(中尾氏)

開発したのはロボット開発歴15年以上の若手起業家

前列中央がNew Innovations代表取締役の中尾渓人氏

冒頭でも触れた通り、中尾氏は幼少期からものづくりに親しんできた。

本人曰く「(家族からは)小さい頃から自宅にある炊飯器やテレビをよく分解していたと言われる。自分的なポイントは分解して終わりではなく、きちんと元に戻すところまでやっていたこと」。小中高とロボット開発にのめり込み、ロボカップジュニアには日本代表として2回出場した。

ロボットを作るにある程度のお金が必要になるからという理由で、高校に進学後はフリーランスエンジニアとしてウイルス駆除やシステムメンテナンスなどWeb系の受託案件にも取り組むように。高校3年間で取引先の数は約300社ほどにまで広がった。

すでにフリーランスとして約3年の事業経験はあったものの、高校3年の夏頃から起業を意識するようになり、その頃からVCとのコミュニケーションも少しずつ始めていたそう。最終的には高校卒業を間近に控えた2018年1月に会社を設立。大学は大阪大学に進学したものの、現在は東京の湯島を拠点にプロダクトの開発を行なっている。

起業当時は具体的な事業案が固まっていなかったため、人々のリアルな行動を変える領域に取り組みたいという考えや自身が長年ロボット開発に関わってきた経験を軸に「ハードウェア領域において『もの』で最適化できる分野はないか」をいろいろと考えた。そんな時に良い商材だと思い浮かんだのがコーヒーだったという。

「水とお茶以外で1日に複数杯飲む人がいる飲み物で、働いている方を始め性別問わず相性が良い。自分の好みがある程度固定化されているので『甘い』『苦い』など好みが大きく変わるわけでもない」

「一方で社会的にはまだまだ最適化が進んでいないようにも感じた。毎朝同じ時間帯にカフェに行き、下手した同じ店員に同じメニューを頼むこともある。(店側もある程度需要の予測ができるのに)それでも毎回並んでコーヒーを待つ。そういった部分に改善できる余地があると感じて、この領域でチャレンジしようと決めた」(中尾氏)

アメリカの「Cafe X」を始め、近年コーヒーロボットやロボットカフェ自体は試験段階のものも含めれば国内外でいくつか登場している。日本でもネスレ日本などが期間限定で展開していた無人カフェなどが以前話題になった。

ただ中尾氏によると「注文後にロボットがアームを振ったり、ダンスをしながらコーヒーを入れてくれるものなどエンタメ要素やイベント要素の強い『サービスロボット』文脈のプロダクトが多い」そうで、√Cが目指す方向性とは少しベクトルが違うという見解のようだ。

「自分たちは『(ユーザーに)習慣的に使ってもらえる』ことを重要視しているので、ロボット感をあえて排除して、使いやすさを考え既存の自販機に近いようなデザインを選んでいる」

「根幹の思いとしては人の作業を置換するというよりは、人がやるべき作業や温もりが要求されることは人が担い、そうでない部分は機械がやれば良いというスタンス。ただ機械がやる部分の精度をもっと上げていく必要があると考えていて、今までは『人がやる必要はないけど、機械化は無理だよね』と思われていたことを実現したい」(中尾氏)

New Innovationとしてもゆくゆくはコーヒーや飲料に留まらず、別の領域にもチャレンジしていきたいとのこと。

「無人化×○○」という切り口で人間が本来リソースを割くべきことにより多くの時間を投じ、より人らしい生活をおくれる未来の実現に向けて、まずは需要予測AIを搭載した無人カフェロボットをしっかりと社会実装していくことからスタートしたいという。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。