自動ネイルアート機、アパレル法人向けフリマなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(後編)

国内の有力VCと起業家たちが集まる1泊2日のシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp 10th」が、8月25、26日の2日間にわたって千葉県のオークラアカデミーパークホテルで開催された。イベント概要については、こちらの概要レポート記事をご覧いただきたい。

ここでは18社中9社を紹介する。ほかの9社については前編記事「盛り上がるARスポーツ、内視鏡+AIスタートアップなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(前編)」をみてほしい

Garage:カーパーツ専門ECのプラットフォーム

2011年の大学卒業後にトヨタ系列でモータースポーツやパーツ関連ビジネスを行うサード(LEXUS TEAM SaRD)に5年間勤務した中山祥太氏が2015年12月に創業したMiddleFieldは、クルマ・カーパーツ専門のオンラインEC「Garage」を運営している。

TechCrunch読者は東京都心部が多いのでピンと来ないかもしれないが(東京のクルマ保有率は40%と低い)、世界的に見ると自動車販売台数は伸びている。保有台数は12億台を突破し、特にアジア新興市場などでは伸びている。そしてその自動車を自分好みに飾りつけるアフターマーケットは日本だけでも1.2兆円、流通しているカーパーツは300万点以上にのぼるのだそうだ。

「これは自動運転の時代になっても変わらない。見落とされている最後のブルーオーシャンだ」(中山CEO)。日本のカーパーツ産業は注目されていて、日本国内だけでなく、将来はアジアにも市場展開できるという。

カーパーツ購入で問題となるのは「ネット上で探せない」ことと「オフラインで買えない」ことの2つ。たとえば、気になるパーツがあったとき、近所のオートバックスに行っても実際の商品が見つからない可能性が高い。一方、楽天やアマゾンといったECサイトは専門のデータベースではないので商品の検索性が悪いという問題がある。網羅的に情報を扱っているのは、いまも紙媒体だ。ネット上のECサイトについても、Web 1.0的なところがほとんどだという。例えばGarageでは自分が乗っているクルマの車種からパーツを検索するといった(2017年のネットユーザーなら当たり前に期待すること)ことができるという。

そこで紙媒体のページを大量に繰りながら作り上げたオンラインの専門ECサイトがGarageというわけだ。現在、1万2000点の商品を扱っている。カーパーツ購入体験のもう1つのペインポイントは、取り付け店舗を自分で探せないこと。そこでGarageでは1500のメーカーと全国9万店の整備工場を結ぶプラットフォームを目指しているそう。現在契約社数は160社で販売手数料は20〜30%。1.2兆円の国内マーケットに続けて、20兆円規模と見込まれる「アジアを制覇したい」(中山CEO)という。例えば、インドネシアの自動車の9割は日本車なので、データベースを英語化するだけで市場を拡大できるのではないかという。中国市場ではGarageと同じビジネスモデルでユニコーンとなったスタートアップ企業があるそうだ。

スマセル:法人間で在庫売買を可能にする繊維・ファッションのフリマサイト

アパレル業界で10年以上の経験を持つ福屋剛氏が2015年3月に創業したウィファブリックが運営するのは、法人間で在庫売買を可能にする繊維・ファッションのフリマサイト「スマセル」だ。福屋CEOによれば、世界中で廃棄されている繊維商品の量は年間8000万トンになるという。

売れ残りの不動在庫は、従来は二束三文で叩き売るか、産廃業者に出して廃棄処分にするしか選択肢がなかった。これを通常流通価格の30〜99%オフという価格で売買するのがスマセル。スマセルではサンプルの取り寄せや条件交渉といった業界の商習慣にしたがったUIでやり取りができるほか、エスクローサービスも利用できるそうだ。

これまで出張と電話・ファックスでやり取りしている業界に対して効率的な素材調達となる手段となる。20世紀の通信手段に依存していたため、売買成立まで2カ月、経費15万円という世界だった。商圏が狭くなりがちで、取扱商品点数が少ない、というのも課題だったという。しかし、「いまやアパレル業界でも誰もがスマホを使っている」(福屋CEO)とスマセルのようなサービスが受け入れられる素地が整いつつあるという。

世界のファッション市場は206兆円規模で、このうち約5%が在庫市場だとすると、約10兆円。10兆円を廃棄処分とせずに再生することができれば、90兆円程度に市場を拡大できるだろうと福屋CEOはそろばんを弾く。いきなりグローバル市場全体の話をするのはやや話が大きい気もするが、国境を超えたほうがいいケースもあるようだ。というのも中古品として流通させることはブランド毀損ともなるので、嫌うメーカーもある。スマセルでは販売条件を「海外のみ」とするなど販路制限ができる機能もあるそうだ。

例えば、あるファッションブランドが在庫アソートを5000枚出したところ、小売店舗も多数抱える大手流通グループが400万円(単価800円)で購入した事例や、大手デパートが高級タオルを単価200円で3000枚買うといった事例が出てきているそうだ。いずれも手数料は20%で、それぞれ80万円、12万円がスマセルの取り分となっている。

スマセルはサービス開始後に登録が150社と拡大していて、出品総額30億円程度まで膨らんでいる。今後は運輸関連企業と提携してグローバルロジスティクスのスキーム構築をしていくという。

INAIL:店舗設置ハードウェアで、15秒でネイルアートを実現

上海でネイルサロン、ヘアサロンを経営していた経験もある木下靖堂氏が創業したBITが提供する「INAIL」は凝ったネイルアートを描くハードウェアを使ったサービス事業だ。大きな血圧計のような箱型のデバイスに手を突っ込むと、ツメの位置や形を3次元的に認識してインクジェットプリンターに近いような方式でアートを描く。INAILによるネイルは人間が15分かかる作業を15秒で終わらせる。フリーハンドで描くよりも再現性が高いビジュアルを実現できる、としている。

過去20年で急成長したネイル市場は2500億円規模になるが、日本人女性のうち3割程度しかネイルしていないという。

顧客から見た問題は、所要時間が2時間半と時間がかかるとこと。8000円程度というコストも普及の足かせになっている、というのが木下CEOの見立てだ。INAILだと時間は8分の1、価格を3分の1で利用できる。一方、サービス提供側からすると、これまでネイルアーティストが持つ技術の伝授が難しいためにサービスを大きくしづらいという課題ががあった。

INAILのビジネスモデルはハードウェア販売の初期導入50万円と月額2万円でデータ配信、1回利用あたり900円など。現在INAILは自己資金で展開しているサービスだが、資金調達を行って初期導入費用ゼロのモデルを構築する予定。すでに東京の二子玉川や大阪の梅田で導入済みで、月商500万円程度のサロン(座席数10席、客数700名/月、客単価7500円)に設置することで40万円の売上貢献となる実績が出ているという。来客者の14%がネイルオーダーをしたという。

2017年4月から営業を開始し、8月には15台を販売。これまで計40台を出荷しているという。ネイル・ヘアサロンなどは全国に30万店舗あって、当面の目標は3000カ所に設置すること。ネイル市場の7%に相当する150億円を抑えて、その20%をレベニューシェアとして30億円の売上を作る。将来的にはネイルアートのコンテンツのマーケットを作ることや、キャラクターやアパレルブランドとの協業も考えているという。

Cansell:キャンセル料のかかる宿泊予約を個人間売買

TechCrunch Japanでも紹介したことがあるが、予約済みホテルの宿泊権を個人間で売買できるプラットフォームが「Cansell」だ。ホテルから届く予約完了メールを専用アドレスに転送するだけで手軽に出品できるのが特長で、ユーザー登録から始めても最短10分で出品できるという。手数料は売買成立に対して15%を売り手から取る。

2016年9月にリリースした当初は月間出品件数は10件程度だったのが、直近では80件程度に伸び、これまで累計366件の出品があったという。昨今のホテル予約のトレンドとして早期割引率が高く、そのぶんキャンセル料が100%となる宿泊サービスが増えているそう。このため、Cansellに出品される宿泊は高単価の予約が多くなっているという。出品されるアイテムのチェックイン日までの日数の平均は26日。少し意外な感じもするが、直前にドタキャンして売られる宿泊権というわけではないという。

これまでは出品しても売れ残った場合は、売り手としては単にゼロになってしまうだけだった。そのため最近新しい取り組みとして「出品」のほかにCansellによる即時の「買取」を選べるようにしたそうだ。すると、7割のユーザーが買取を選んでいて、元値の26%程度で買い取ることができているそうだ。

宿泊サービスの市場規模は4.4兆円。このうち800億円程度がキャンセルに相当すると見ているという。来月にはサービスの正式リリースを予定している。今後は、対象となるアイテムを国内ホテルから、飛行機の航空券、結婚式場予約、レストラン予約など、一定割合でキャンセルが発生している領域に展開することも検討しているという。

uuuo:卸売市場も仲買市場もバイパスしてスマホで繋がる水産市場

祖父も曽祖父も漁業従事者だったという鳥取県出身の板倉一智氏が創業を準備中の「Portable」は、スマホで繋がる水産市場を銘打つ「uuuo」(ウーオ)を11月にリリース予定だ。

水産業・流通では従来から漁港に近いところから始まり、消費地である都市部に向かって、「地方卸売市場」→「地方仲買市場」→「中央卸売市場」→「中央仲買市場」と流通経路があり、このプレイヤー数の多いバリューチェーンの中で最終価格がコスト高になる構造があった。

板倉CEOは「産地にとって安すぎる。中央市場にとっては高すぎる」と問題を指摘。単価3070円で出荷された魚が、小売では7920円となって売られているのが現状という。日本でも有数の漁港である境港を抱える鳥取県出身らしく、板倉CEOは「生産者が不利益を被る構造になっている。これは流通の問題」という。「どこにでも売れる、どこからでも買える」という水産流通の実現を目指していて、uuuoでは15%の手数料を引いても安く仕入れることができるようになるという。

この構造を変えられる2つの時代背景があるという。1つは2008年の卸売市場法の改正で自由化されたこと、もう1つは市場関係者はすでにネットやスマホを活用していること。Facebookなどでグループを作って魚の情報交換などを活発に行っているほか、LINEでグループを使って漁港と魚種、漁獲高からセリの価格を事前に決めるなどのコミュニケーションを行っているそうだ。

uuuoは出品も購入もスマホでできるという。さらに、関連データである市況や漁獲量の相場を見ながら取り引きできるようにするという。すでに漁業関係者がまとめた表データはネット上にあるが、これをグラフで可視化する。

uuuoが既存の水産スタートアップと違う点数はB2Bにフォーカスすること。まずは中国地方を中心に漁業関連者と連携する。国内水産業は2.87兆円市場で、このうち地方の1.7兆円を狙う。今後は産地仲卸免許を取得してオンライン取引所のプラットフォームにしていく。ゆくゆくは水産市場関係者間の取り引きだけではなく、東京の飲食店が直接地方から仕入れできるようにするという。

みんチャレ:習慣化率8倍、三日坊主防止アプリ

三日坊主防止アプリの「みんチャレ」を提供するエーテンラボは、2017年にソニーの新規事業創出部「A10 Project」から独立した、2017年設立のスタートアップ企業だ。2006年の入社以来、ソニーで放送業務用機器の法人営業やプレステのネットワークサービス立ち上げに従事していた長坂剛氏はイントレプレナーからアントレプレナーになった起業家だ。エーテンラボは2017年2月に6600万円の資金調達を実施している。

人生の9割は習慣でできている。それは分かっていても、何か新しい取り組みを始めても三日坊主になるのが人間の性。長坂氏によれば、習慣の定着にはコーチングが最も効果があると言われてるそうだが、人間の介在が必要だとスケールしない。そこでアプリ上で匿名の5人がチームを作って同じゴールを目指して日々進捗を報告し合うのが「みんチャレ」というアプリだ。

チャレンジのテーマは、英語、ダイエット、投資、ゲーム、早起き、朝活(勉強)、運動(ウォーキング)などがある。1人の利用者が複数チームに参加することが多く、ユーザーごとの平均参加チーム数は3チーム。

チームチャットで証拠写真を送り合って、励まし合って習慣化する。ダイエットであれば、食べたものの写真、語学学習であれば覚えた単語の一覧の写真などだ。写真報告を見たほかのチームメンバーは「OK」ボタンを押す。次々と承認されると、コインが増えてやる気がでるし、報告したいがために「少しだけやろう」という気になる。早速ぼくも10年ほどくじけ続けている「中国語」でみんチャレを使い始めたのだけど、「せめて1ページだけでも読んで写真を撮ろう」という感じで無理なく続いている。自分が撮影した写真はカレンダー上に表示されるので、30日表示のカレンダーで「欠けているところ」がないように毎日やろうという心理が働くのも良い感じだ。今日誰がアクションを起こして誰がサボったかが「3/5」のようにチーム成績として表示されるのも、ほどよいプレッシャーになる。全員が達成した日には「全員達成ボーナス」が出たりもする。

みんチャレを使って21日間なにかを継続した場合の習慣化の成功率は69%にもなるのだとか。これはアプリやコーチの助けなしに自分1人で習慣化をやろうとした場合の8%に比べて約8倍だ。7日継続だけでも50%の人が、90日間の継続だと90%の人が習慣化に成功してその後もやり続けるようになるそうだ。

匿名でチームに入れるのがポイントで、長坂CEOは「人は必死な様子をLINEやFacebookで見せたくないもの。毎日楽しく続けられて、自己肯定感が向上する」と話す。

みんチャレはGoogle Playの2016のベストアプリに選ばれたことがあり、現在DAUは1万。アプリは無料だが、企業向けに「公式チャレンジ」を月額98万円で販売売していく。企業は継続してもらうことで売上増や顧客満足度を上げられるほか、インサイトの取得やユーザーとのチャットにる接点を持てることなどがメリット。この9月からは高校受験参考書で学研プラスとの取り組みを始めるという。

nacodo(なこうど):マッチングアプリに欠けているのはお節介

フィーリングを定量化して相性の良い異性との出会いをサポートするという「nacode(なこうど)」を2017年7月にリリースしたのは、株式会社いろものの山田陵氏だ。これまでマッチングアプリなどの課題は、プロフィールが盛りすぎになる傾向があって、そのことで「ちょっと雰囲気が違ったな」という失望から交際に発展しないケースがあることと、という。

「なかなかメッセージをもらえないとということで、実物より良いものを掲載しがち。これは日本でもアメリカでも同じ問題です。それで交際に発展しているかというと、そうなっていない」(山田CEO)

山田CEOが調べたデータによれば、日本では生涯未婚率があがっているものの「お見合いと職場結婚が減っている」だけ。実は自由恋愛による結婚の数は減っていない。つまり、「おせっかいをしてくれる(人)ところが減っている」というのが仮説だ。nacodeは「世話焼きエンジン」と呼ぶアルゴリズムで、ここをサポートするという。交際率をKPIとし、人力とボットでデートのサポートサービスを展開する。

マッチング系サービスは、米国では「サードウェーブ」と呼ばれる世代交代が起こりつつあって、いまの日本でも次世代のマッチングサービスが台頭するタイミングだと山田CEOは話している。

Matcher:大学に関係なくワンクリックでOB訪問ができるサービス

2015年にアドウェイズに入社するも2週間で退職して起業した西川晃平氏が取り組むのは、大学に関係なくワンクリックでOB訪問ができるサービス「Matcher」だ。これまでのOB訪問には大きく2つの問題があったという。「出身大学のOBしか訪問できないこと」「手続きが面倒なこと」(名簿が紙)だ。

現在Matcherは学生1万2000人が利用中。「毎年ユーザーが入れ替わるので集客が難しいと言われてるが、年率300%で伸ばし続けていて、総マッチング数は4万件となっている」(西川氏)という。登録社会人ユーザー数は5000人(2500社)で、スタートアップ企業はもちろん、大企業や経産省といったところも利用しているそうだ。これまでに新卒30人の採用実績がある。

学生ユーザーからみればOB訪問のサービスだが、企業側からみれば、社内外からの紹介による採用ツールとなる。今後は社内紹介、社外の外部エージェントによる紹介、スカウト(企業から学生に声がけする)の3つでビジネスモデルでマネタイズを進め、新卒市場だけでなく、中途採用市場にもサービスの幅を広げたい考えだ。

Matchapp:恋愛板のGameWith、マッチングアプリと攻略情報を提供

「傘(からかさ)」という、ちょっと変わった自分の名字からパラソルという社名のスタートアップを2017年に創業した傘勇一郎氏が作るのは、男女のマッチングアプリと恋愛攻略情報を提供するサイト「Matchapp」だ。これは「恋愛板のGameWith」のようなもので、近年登録者数が増えているマッチングアプリについて、第三者の立場から使い方や、攻略法といった情報提供を利用者に対して行う。

傘CEOが指摘するのは「情報格差が発生している」ということ。出会いを求めるユーザーは、そもそもどのアプリを使うべきも分からない状況だという。

すでにマッチングアプリ各社はオウンドメディアなどで情報提供も行っているが、あくまでも自社の宣伝。一方、Matchappは中立的な紹介とすることで「本家より上に来るようにSEOをやる」(傘CEO)という。各社サービスをクロールしてアプリごとのマッチ傾向について定量情報を提供。またリアルなユーザーによる体験情報も掲載し、マッチングアプリ各社への送客ビジネスを構築する。

メディア基盤を固めた後には、有料の恋愛Q&Aアプリと、マンツーマンの3カ月交際コミット制とする恋愛指導のオンラインサロンという2つの課金サービスを展開することを考えているそうだ。いま関係者の間では2017年の秋にはマッチングアプリのテレビCM解禁が噂されていて、傘CEOは「2003年のゲーム解禁と似ている」と話している。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。