自動運転配達のNuroはソフトバンクからの巨額資金で今後どう展開する?

自動運転配達スタートアップNuroは、ソフトバンクが今年2月に10億ドル近くを出資して以来、アイデアであふれているようだ。最近明らかになった書類がそうしたことをうかがわせる。

最近の特許申請には、どうすれば自動運転車両R1に荷物を届けるために芝生を横切ったり階段を登ったりする小型のロボットを搭載できるか、といったことが詳細に書かれている。Nuroは配達サービスの名称として「Fido」を商標登録する動きをすでにとっている。

「名称については何かしら適切なものがあるはずだと考えた」とNuroの創業者Dave Ferguson氏はTechCrunchに対し語った。「フレンドリーで、お隣さん的で、あなたのところに荷物を届けるヘルパーであるという思いを具現化するものだ。文字通りロボットの犬を意識したものではなかったが(編集部注:Fidoは犬によくつけられる名前)、他社が手がけている足をもつプラットフォームは、玄関先までの最後の10フィート問題にとってかなり気になる存在になるかもしれない」。

Nuroの特許ではそれとは別に、R1が走行しながら搭載オートメートキッチンで準備し、熱々のピザや飲み物を配達する、というものが示されている。

「我々は、人々が考えつくあらゆるアプリケーションに対応できうるよう、R1のコンパートメントにフレキシビリティを持たせたつもりだ」とFerguson氏は語った。「コーヒーマシーンというのは実際、いいアイデアだ。地元のバリスタのところにいくと、そこにあるマシーンは驚くほど高価だ。ご近所全体でマシーンを使いながら償却していくという方が理にかなっている」。

オートメーションテクノロジーが成熟するにつれ、企業は問題を回避するより、いかにサービスを実際に客につなげられるかにフォーカスしている。また、荷物を運ぶことに関する法規の数は、客を運ぶのに伴うものより少ない。

そうした機会はeコマース・ロジスティック大企業であるAmazonやFedEx、自動運転配達を開発しているおびただしい数のスタートアップを含め、多くの企業を刺激してきた。今年のCESでは、Continentalが玄関先までのラストマイル配達用の犬型ロボットを披露した。一方でAmazonは、すでに家庭への配達に使用されている、Scottと呼ぶ歩道走行ロボットを発表した。

自動運転タクシーが規制や安全性に関する懸念、消費者の懐疑的な眼差しの迷路に迷い込んでいる一方で、自動運転と配達を大規模展開する最初の会社は売上をあげ始めることになりそうだ。

Nuroの起源

ソフトバンクの資金で、Nuroの創業者たちはさまざまなアイデアを試している。しかし初期においても、彼らにはそれなりの資金が注入されてきた。

NuroはFerguson氏と、もう1人の元GoogleエンジニアJiajun Zhu氏によって、Googleのかの有名なChauffeurボーナスプランから数百万ドルの支払いを受けたのち、2016年6月に設立された。Chauffeurボーナスは、Googleの自動運転車プロジェクトに従事していたエンジニアにインセンティブを与えるためのものだった。しかしながらこのボーナスプランの構造は、2015年に最初の支払いを受けたのちに社を去った人でもかなりのまとまった額をもらえるというふうになっていた。

主任エンジニアAnthony Levandowski氏はこのプランで1億2500万ドルを得たようだ。彼はこの金の一部を、Uberに買収され、のちに特許と企業秘密を盗んだとして裁判を繰り広げることになった自動運転トラック会社のOttoを創業するのに使った。

この裁判の申し立てによると、Ferguson氏とZhu氏はそれぞれおおよそ4000万ドル受け取ったとされていた。しかしFerguson氏はこれを認めないだろう(別のChauffeurボーナス受け取り者であるRussell Smith氏は少ない額を受け取り、すぐにNuroに加わった)。

Nuroは中国でのシリーズAラウンドを完了させ、その裏ではNetEaseの創業者Ding Lei氏(別名William Ding)にNuroの役員の座を提供した。Ding氏は中国初のインターネット・ゲーミング億万長者でかつては中国で最も金持ちだったとされる。しかし彼のeコマースから教育、養豚にわたる事業帝国は最近多くの従業員を解雇した。

「Williamは役員メンバーであり、当初から強力な支援者だった。しかし彼は会社の決定は指示していない」とFerguson氏は話す。

2017年6月に米国における2回目のラウンドで、NuroのシリーズA累計調達額は9200万ドルになった。

Nuroからのスピンアウト

Nuroは昨夏、フェニックス郊外のスコッツデールでKrogerスーパーマーケット加盟店とともにグローサリー配達パイロット事業を始めた。このパイロットは当初、変更が加えられたトヨタのプリウスを使用していたが12月にR1に切り替えた。「パイロット事業の範囲にかなり興奮している」とFerguson氏は語る。「商業の87%がまだローカルで行われていて、米国における個人の車による移動の43%が買い物とちょっとした用事のためとなっている」。

一方で、Ottoの買収で始まったUberの自動運転トラックプログラムは瀕死の状態だ。このプログラムは2018年7月まで表立って中止にはなっていなかったが、実際には主要従業員の多くが5月に辞めている。LinkedInでは、エンジニアとして登録しているJur van den Berg氏、Nancy Sun氏、そしてAlden Woodrow氏らがUberから別の自動運転トラックのスタートアップに同月移ったと表示されている。

自動運転トラックスタートアップのIkeが10月に突如現れたとき、Nuroは「我々のオートノミーとインフラソフトウェアのコピーをIkeに提供した。それと引き換えにNuroはIke株の持分を得た」と説明し、この新出スタートアップとの関係をパートナーシップと位置付けた。

実際にはIkeはスピンアウト以上の存在だった。カリフォルニアとデラウェアの事業記録では、Ikeは7月まで法人組織になっておらず、オフィスは少なくとも9月の初めまでNuroと共有していた。Ikeの立ち上げに携わったエンジニアはUberを辞めたあと、事実上Nuroで働いていた。Van den Bergは6月に撮影されたNuroのチーム写真に写ってさえしていて、Nuroのセーフティ・レポートに転載されたこの写真ではNuroのTシャツを着ている。

Ferguson氏はこの3人のIke創業者はIkeを立ち上げる前にNuroで働いていたことを認めた。

「我々は常に、我々がつくり上げた技術がサポートできる機会を模索している」とFerguson氏は語った。「トラックはいい例だった。しかし企業としては展開が限定されるというのでは困る。IkeとNuroにとって、Ikeを企業として独立させる方が良いとの決断に至った」。

IkeのCEO、Woodrow氏は最近TechCrunchに対し、「Nuroのハードウェアデザインと自動運転ソフトウェア、そしてデータのログ付け、地図、シミュレーションシステムを使っている」と語った。Ikeは2月にシリーズAで5200万ドルを調達した。

負けてなるものかと、Nuroはその後すぐにソフトバンクのビジョンファンドから、Ferguson氏が言うところの「極めて重要な持分」と引き換えに9億4000万ドルを調達したことを発表した。Nuroは、ソフトバンクのCruiseへの出資が決着した後にソフトバンクに紹介された。

何千ものロボット

イヌロボットはさておき、新たに資金を手に入れたNuroにはどんな未来が待ち受けているのだろうか。

「我々はスコッツデールパイロット事業にとても興奮している。しかし基本的に1つの郵便番号エリアにグローサリー1店だ」とFerguson氏は語る。我々のインタビューのすぐ後に、Nuroはテキサス州ヒューストンで4つの郵便番号エリアにデリバリーサービスを持ってくることを発表した。

「来年以降に、ゆくゆは数百万の人に届けられるようになると確信できているといい」とFerguson氏は話した。「我々は一緒に事業を展開するパートナーの数を積極的に増やしている。そしていかに車両を大規模に製造するかにも取り組んでいる」。

Nuroはおそらく、Ferguson氏が何万、何十万ものドライバーなしの車となればと願っている車両を製造するために、既存の自動車OEMと提携するだろう。先週、Nuroは米運輸省道路交通安全局(NHTSA)に、ドライバーなしの車両にとって意味のない安全基準の免除を請願した。その安全基準とは、フロントガラスやバックミラーを搭載しなければならない、というものなどだ。

NuroはNHTSAに、今後2年間でR2Xというアップグレードされた車両5000台を導入したい、と伝えた。このアップグレード車両の最高スピードは時速25マイルとなる見込みで、アリゾナとテキサスで現在展開されているR1プロトタイプとかなり似ているようだ。R2Xは12もの高解像度カメラ、レーダー、ルーフにライダーセンサーが搭載される。Nuroは、車両の販売は行わず、「ローカルの事業所との提携を通じてR2X全車両を自前で一括管理する」と話した。

「サービス提供はまた非常に金がかかるものだ」とFerguson氏は説明した。「UberやLyftをみるといい。我々がサービスを提供しようとしている人口、そして我々が目指している車両台数を拡大するとき、収益をあげられるようになるまでは事業資金が必要だ。黒字化できるのは今年ではない」。

イメージクレジット: Bryce Durbin

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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