自宅から離れた好きな場所にホーム(オフィス)環境を提供するAnyplaceが6.1億円調達

リモートワークの時代、人々は好きな時に好きな場所で暮らせるよう、できる限りの柔軟性を求めている。

長期滞在の選択肢を増やそうと、スタートアップ企業が次々と登場しているのも当然のことだ。Anyplaceもそんなスタートアップの1つだ。自称「デジタルノマド」であるSatoru Steve Naito(内藤聡)氏によると、2017年にサンフランシスコに拠点を置くAnyplaceを共同設立したのは、自分自身がこのプロダクトを欲していたからだという。

その名の通り、Anyplaceは、ホテルやレンタカーを30日以上ほとんどどこでも予約できるマーケットプレイスとしてスタートした。当マーケットプレイスは今日、60カ国以上、450以上の都市で展開されている。そして現在このスタートアップ企業、Anyplaceは、最新の製品であるAnyplace Selectの提供を開始し、オペレーターとしての役割に移行しつつある。この製品は、リモートワーカーや企業の出張者が「完全に設備が整った」ホームオフィスなどの家具付きの部屋を利用して、どこでも仕事ができるようにするために設計されたものだ。

パンデミックが猛威を振るい、オフィスが閉鎖され続ける中、柔軟に移動できる人がかつてないほど増えた。Anyplaceは2021年、サンフランシスコ、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンディエゴでSelectの提供を開始し、開始から7カ月で100万ドル(約1億1500万円)のランレートを達成したと、同社のCEOを務める内藤氏はいう。Selectのサービスの月次収益成長率は平均50%以上、今月現在、稼働率は90%以上となっている。

AnyplaceはGreystarやAvalonBayなどの不動産デベロッパーと提携し、マンションを借りて家具を揃え、Selectで価格を上乗せしてマスターリースしている。各部屋には「完全なオフィス設備」が揃っており、フレキシブルな期間契約(最低30日間)が可能だ。設備には高さ調節可能なスタンディングデスク、人間工学に基づいた椅子、約86cmの「超ワイド」モニター、プロ用マイク、ウェブカメラ、折り畳み式グリーンバック、パソコンスタンド、ドッキングステーション、キーライトなどが含まれている。

「Selectに掲載されているすべての部屋で、ホームオフィスと同等以上の生産性を実現します。全室1Gbpsインターネット対応なので、Wi-Fiの速度も問題ありません」と内藤氏は語る。

他の都市に住んでみたいというリモートワーカーは、なぜAirbnbで物件を借りないのだろうか?リモートワークのために家や部屋を用意することは、思っているほど簡単ではないと内藤氏は主張する。Wi-Fiの速度が遅い部屋もあれば、適切なデスクや専用のワークスペースがない部屋もある。

「現在の宿泊施設のほとんどは、パンデミック前の滞在に最適化されています。ホテルやAirbnbに滞在している間、人々は本当に1日中部屋で仕事をしていました。しかし、パンデミック後の世界では、Zoomコールをする時間が増え、部屋で仕事をするようになりました。だから私たちはパンデミック後の世界に最適化した宿泊施設を作っています」と内藤氏はいう。

確かに、サービス業の巨人Airbnbは昔から短期滞在に注力しているが、現在は、Airbnbのマーケットプレイスで長期滞在が増加している。つまり長期滞在の需要が増加している。2021年5月、AirbnbのCEOであるBrian Chesky(ブライアン・チェスキー)氏はYahoo Financeに対し、Airbnbの宿泊の24%がAnyplaceだったと語った(わずか2年前は14%)。さらにこのトレンドの裏付けとなるのは、Airbnbが最近、この分野の別のスタートアップ企業であるZeus Livingを支援しているということだ。同社は当初、企業の出張者向けの柔軟なオプションの提供に重点を置いていたが、現在はより幅広い潜在顧客層へと拡大している。

これまでAnyplaceはマーケットプレイスを運営していただけだったが、新たなSelectの提供により、現在はより幅広いビジネスの焦点をオペレーターにシフトしている。

内藤氏はTechCrunchに対し「Airbnbは競合ではなく、パートナーであり、実は最大の獲得チャネルの1つです。Airbnbが独自のインベントリーを持つオペレーターの領域に進出するとは思っていません。彼らの強みはプラットフォームビジネスです」と語る。

Anyplaceはインベントリーを他の市場に「積極的に」拡大し、機能改善を続けるために、シリーズAで530万ドル(約6億1100万円)を調達したと発表した。これはGA Technologiesが主導し、Jason Calacanis、Launch Fund、日本のサッカースターで(Will Smithとともに)Dreamers Venturesの共同設立者である本田圭佑、メルカリ共同設立者の富島寛、East Venturesが参加した。今回のラウンド資金調達で、Anyplaceは合計800万ドル(約9億2330万円)を調達し、現在は17人である従業員の増強にも充てられる予定だ。

内藤氏によると、当スタートアップはすでに次のラウンドの資金調達を開始しており「急成長とAnyplace Selectが提供する宿泊施設に対する需要の急増」によって、すでに「いくつかの投資の約束」を受けているという。具体的には、米国の主要都市、特にハワイ、マイアミ、オースティン、デンバーといった人気の高いリゾート地への進出を考えていると内藤氏はいう。

内藤氏はTechCrunchにこう語った。「デジタルノマドになるために、フルタイムの仕事を辞める必要はもうないのです。パンデミック以前は、ノマド的なライフスタイルを送るためには、会社を辞めてフリーランサーや中小企業のオーナーになる必要がありました。しかし今では、Google、Facebook、Twitterのようなハイテク大手が、従業員にフルタイムのリモートワークを許可しています。パンデミックは、多くの新しいタイプのノマドを生み出しました。つまり、これは人々の働き方における大きなパラダイムシフトなのです」。

本田圭佑はTechCrunchに、初めて会ったときに内藤の「気概」を感じたとメールで語ってくれた。

「彼は、どのようにしてJason Calacanis(ジェイソン・カラカニス) のような米国の有名な投資家からの資金調達に成功したのかを話してくれました。簡単ではなかったし、苦労もした。彼は、移民の創業者が直面する言語やその他さまざまな障壁を乗り越えたのです」本田氏はいう。スタートアップで成功するためには、気概が最も重要なものの1つだと思います。また、彼が望んだ製品を、彼自身が居住し、仕事をしている場所で作り上げたことにも感銘を受けました」。

さらに本田氏は、サッカー選手として多くの国を旅し「多くのホテルやAirbnbの部屋に宿泊した」という。

そしてこのようにTechCrunchに語った。「Anyplace Selectのように、オフィス環境が完備された宿泊施設は見たことがありません。明らかに自宅で仕事をする人が増えており、そのような人たちは1つの場所だけに住みたいとは思っていないのです。Anyplace Selectは、パンデミック後の世界において、そのような人たちの標準的な宿泊施設になるでしょう」。

画像クレジット:Anyplace

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。