英ネットスーパーOcadoが自動走行システム開発Oxboticaに約15億円投資、他社配達事業展開支援を目指す

英国のネットスーパーOcado(オカド)は、他のグローサリー企業がオンライン注文と配達の事業を展開するのを手伝おうと、自社のテクノロジーの再販に向けて順調に進めている。同社は現地時間4月16日、事業成長において次の章になると確信しているものに投資する。自動走行システムを開発している英国のスタートアップOxbotica(オックスボティカ)の1000万ポンド(約15億円)分の株式を取得する

Ocadoはこの株式取得について、車両そのもので、そして梱包倉庫の内外からグローサリー注文を家庭に届けるラストマイルの車両に至るまでのオペレーション全般で使えるAI駆動の自動走行システムを開発するための戦略的投資ととらえている。今回の取引による初のプロダクトが、構造がはっきりしていない道ではなく倉庫のような閉環境で、おそらく2年以内に使えるようになると予想している、と同社は話す。

「1つのユースケースの取り組みに自らを縛ろうとはしていません」とOcadoの高度テクノロジー最高責任者Alex Harvey(アレックス・ハービー)氏はインタビューで述べた。しかし自動システムをあらゆるところで展開するために、さまざまな要素の中でも「規制対応する必要があるエリアがあることに気づきました」とハービー氏は付け加えた。株式取得の取引は非独占で、両社とも他のパートナーと協業できることを互いに確認した。

投資は、2021年1月に発表されたOxboticaのシリーズBの延長として実施される。石油・ガス大手bpの投資部門bpベンチャーズがリードし、BGF、安全装備メーカーHalma、,年金基金HostPlus、IP Group、Tencent、Venture Science、Doxa Partnersのアドバイスを受けた複数のファンドなどが参加したシリーズBの総規模は6000万ドル(約65億円)超となった。Oxboticaはバリュエーションを公開しなかったが、同社の共同創業者でCTOのPaul Newman(ポール・ニューマン)氏はインタビューの中で、最新の投資によりバリュエーションがアップしたことを認めた。

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今回のニュースのタイミングは非常に興味深い。米国のWalmart(ウォルマート)が、自動走行テック企業Cruise(クルーズ)の27億5000万ドル(約2991億円)という巨額ラウンドの一環として株式を取得したというニュースがあった翌日のことだ(実際24時間も経っていない)。

2021年2月までWalmartは、Ocadoの英国における大きな競合相手の1社であるASDAを所有していた。そしてOcadoは今週から運用が始まるKrogerのオンライングローサリー事業をサポートする取引で米国進出を果たした。ゆえに、この2社が繰り広げる競争は熾烈なものになりつつある。

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一般的に、2020年オンライングローサリーと配達サービスは大きく成長した。オンラインサービスのみを提供している先駆け的な存在のOcado、英国のTesco(実在店舗とオンラインネットワークを持つ)、米国のInstacartは記録的な需要を目の当たりにしたが、資金豊富でチャンスをつかむのに熱心、そして異なるアプローチ(1時間以内の配達、少量販売、特定のプロダクトなど)を持ち込む数多くの新規参入者との競争にも直面した。

Ocadoのホーム英国へは、他国のビッグネーム企業も進出を狙っている。そうした企業にはOda(元Kolonial)、チェコのRohlik(2021年3月に約250億円を調達した)、イタリアのEverli(以前はSupermercato24という社名で、約108億円を調達した)、オランダのPicnic(このところ資金調達を発表していないが、海外展開の野心を公にしたことを踏まえると、時間の問題のようだ)などがある。Ocadoもグローバル展開の野心を追求するために巨額を調達した。そしてそれは数十もの即配の小規模グローサリー配達事業者が出てくる前のことだった。

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そうした小規模事業者の多くにとって2020年は当たり年だった。少なからずそれはパンデミックのおかげだ。パンデミックでは多くの人が家にこもり、新型コロナウイルスに感染したりウイルスを広めたりしそうな場所を避けるようになった。

しかしいま、人々が「ノーマル」な暮らしに戻るとき、そうしたオンライングローサリーマーケットが将来どのようなものになるのかというのは大きな疑問だ。

先にTechCrunchが指摘したように、Ocadoはすでに需要が縮小する見通しを立てたが、それでもパンデミック前より需要は大きい。実際、ニューノーマルではおそらく競争がさらに激化するだろう。

それは、Ocadoなどの企業がさらに多くの資金を次世代のサービスとなりそうなもの、つまり効率的で純粋にテクノロジーで動くものへの取り組みに注ぐ理由の1つかもしれない。

コストを節約するために、まだほとんどテストされていない非常に高価な自動走行テックに大金を支払う理論的根拠は、長期的な視点に基づいている。ロジスティックはグローサリー配達オペレーションのコストの10%ほどを占める。しかし需要のピーク時、あるいは定期サービスが崩壊したとき、この数字はさらに大きくなる。

筆者が予想するに、新規事業を推進するための配達料無料サービスやグローサリーの割引など、費用を助成しているサービスが現在あちこちで展開されている(マーケットの競争が激しくなっている結果だ)ために、ロジスティックはさらに大きなコストとなっている。

そのため、この業界の大手が効果は数週間ではなく数年内に出てくるということであっても、そうしたコストを抑制し、オペレーションを迅速化するためにテクノロジー面での強みを生かす方法に目を向けるのは驚きではない。もちろん、投資家はそれが軌道に乗らないということでなければ目にするだろう。

Oxboticaとのコラボレーションに加えて、Ocadoは自動走行車両の能力を発展させながら、提携にさらに投資することを視野に入れていると話した。今回は初のOxboticaへの投資だが、他の多くのスタートアップにも投資し、次のステージのテクノロジーにともに取り組んだ。ここには、間もなく導入される物をつかむためのロボットアームを構築する研究、最近のロボット企業2社(KindredとHaddington)の2億6200万ドル(約285億円)での買収、ロボットスタートアップKarakuriMyrmexへの投資などが含まれる。

特筆すべきは、OxboticaとOcadoが互いを知らないわけではないということだ。両社は2017年にデリバリー試験事業で協業を始めた。デリバリーサービスがどのようなものか、以下の動画で確認できる。

「OxboticaとOcadoにとって、これは自動走行の未来に向けたビジョンを共有しながら提携を強化するすばらしい機会です」とニューマン氏は声明で述べた。「両社の最先端の知識とリソースを組み合わせることで、我々のユニバーサルな自動化ビジョンを暮らしにもたらし、引き続き世界で最も複雑な自動化の問題を解決することを願っています」。

しかし自動走行テクノロジーはおそろしく複雑で、規制や安全面でのハードルがあることから、一連のオペレーションから人をほぼ排除する完全商業システムからはまだ程遠い。

「規制と複雑さのため、Ocadoは都市部、あるいはCFCビルやCFCヤード内のようなアクセスが制限されたエリアを低速で走行する車両の開発は、消費者の家庭への完全自動走行デリバリーよりもずっと早く現実のものとなると予想しています」とOcadoは今回の取引についての声明文に書いている。「しかしながら、自動走行車両開発のすべての要素はコラボレーションのスコープに含まれます。Ocadoは2年以内に自動走行車両の初期ユースケースの初プロトタイプを披露することを想定しています」。

ニューマン氏は、道での自動走行はまだ数年は先のことである一方で、かつてほどにムーンショットコンセプトではなく、Oxboticaがすでにそれに向けて取り組んでいると指摘した。「少しずつ月に近づくことができます」と同氏は述べた。

カテゴリー:モビリティ
タグ:OxboticaOcadoイギリス自動運転資金調達

画像クレジット:Ocado

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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