血液検査で新型コロナなどの病原体を特定し最適な治療法を見極める液状生検技術のKariusが183億円調達

「新型コロナウイルスのような新しい病原菌を感染が大流行する前に特定するのがKarius(カリウス)の得意技です」と、最高責任者のMickey Kertesz(ミッキー・ケルテス)氏は言う。彼のこのライフサイエンス系スタートアップは、つい先日、1億6500万ドル(約183億円)を新規に調達した。

この新規投資は、次第に脅威を増すCOVID-19のおかげで決まったように見えるが、同社の技術は、免疫不全の小児患者のための感染症を引き起こす病原体または複合体肺炎、真菌感染症、心内膜炎の潜在的原因の検査にすでに使われていると、同社の説明には書かれている。

液状生検技術は、癌の治療に広く用いられているものだ。患者の癌細胞から流れ出た血液中の微量な遺伝物質の有無から、患者にとって最適な治療法を見極めることができる。

Kariusは、患者の血液サンプルの中の遺伝物質の特定を行うDNAシークエンシングと機械学習技術を活用するためのハードウェアとソフトウェアを開発し、それと同じ原理を応用して血中の病原体を特定できるようにした。

同社の説明によると、人間の体に感染した病原菌は、血中にDNAの痕跡を残すという。これを微生物無細胞DNA(mcfDNA)と呼ぶ。Kariusの検査方法ではバクテリア、DNAウイルス、菌類、寄生虫といった臨床的に意義のある1000以上のサンプルの無細胞DNAを測定できる。この検査によって、無数にある病原菌の中から患者に悪影響を及ぼす恐れのあるものが提示される。

「現在私たちは、採択の段階を通過し、臨床研究によってこの技術が文字どおり人の命を救うものであることが示された段階にあります」とケルテス氏。

初期段階の成功だが、これはソフトバンクを惹きつけるのに十分だった。ソフトバンクは、ビジョン・ファンド2からの投資により同社を支援している。

ソフトバンクは、約束を果たせなかった消費者系スタートアップ(内部崩壊したBrandlessやZume、WeWorkに代表される壊滅的打撃を招きかねない企業)への投資が多すぎ、早すぎる(または遅すぎる)ことで激しい批判を浴びているが、ライフサイエンス分野の投資チームは目覚ましい実績を挙げている。「彼らには経験と専門知識とネットワークがあり、まさにそれが私たちにつながりました」とケルテス氏は、ソフトバンクからの支援を決めたことについて話していた。「彼らは以前、Guardant Healthと10X Genomics(テンエックス・ゲノミクス)の取締役会のメンバーでした」

どちらの企業も、公開市場で成功し、その技術の有効性を証明してきた。その同じ気質をKariusも備えている。同社は、その検査方法の分析的検証と臨床的有効性に関する記事を、同業者の審査を経てNature Microbiology誌に掲載。通常の方法と比較して、感染を引き起こす可能性のある病原菌をより早く、より正確に特定できることを示した。

その技術の有効性が初めて認められたことで新たな投資を獲得した同社は、その検査方法の商品化を急ぎ、技術の有効活用を推し進めつつ、新たな技術の開発を行うことにしている。

彼らが第一に考えている開拓分野に、新しい生体指標の特定がある。これはCOVID−19のような新しい病気の指標になることが期待される。

「人類はまだ、感染症を解明できていません」と、同社の最高技術責任者Sivan Bercovici(シビアン・バーコビッチ)氏は言う。「私たちの技術で特定できない病原体の痕跡について、今後も公共のデータベースにある高品質なゲノムの設計図をさらに取り込み、私たちがダークマターと呼んでいるそうしたグループのデータを個別にまとめて将来に備えています。最大の挑戦は、知らないものを、いかにして知るかです」

Kariusは、血液サンプルの中の病原菌の情報をデジタル化し、機械学習とDNAシークエンシングを使って病原体の指標を認識している。同社は、30万種類以上の病原体のデータが記録されている公共のデータベースを利用しているが、同社で特定できない種類については、そのための識別子も作成している。

1回の費用が2000ドル(約22万円)というKariusの検査は決して安くはない。しかしケルテス氏によれば、外科手術よりも安全で費用対効果も高いという。患者の体に穴をあけて組織を摘出する必要がなくなるばかりか、この技術はすでに100以上の病院と医療機関で使われていると同社は話す。

ここまで達成できたことを受けて、General CatalystやHBM Healthcare Investmentsといった新しい投資企業も、ソフトバンクのビジョン・ファンド、そして前回のラウンドに参加したKhosla VenturesやLightSpeed Venture Partnersなどの以前の投資企業とともに契約したい意向を示している。

「感染病は、死亡原因の世界第2位です。Kariusの革新的なmcfDNA技術は、感染病を正確に診断します。これは、既存の技術では判別できません」とソフトバンク投資顧問のDeep Nishar(ディープ・ニシャー)氏は声明の中で述べている。

画像クレジット:SCIEPRO

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。