記事を「読む」のはもうやめだ

HAL 9000編集部注本稿執筆者のNir Eyalは心理学とテクノロジー、そしてビジネスとの融合分野について多くの記事をNirAndFar.comにて発表している。TechCrunchでも「『願望創出エンジン』の仕組みと実際(常習的ユーザの作り方)」などの記事を掲載している。著者のTwitterアカウントは@nireyalだ。

インターネットという存在が声を発するのなら、それは2001年宇宙の旅HAL 9000のような声だと思うのだ。

「ハロー、ニール」と低い、単調な声で話しかけてくるのだろう。「また会えてうれしいですよ」といった具合に。

「インターネット、いま書いている記事のためのちょっとした調べ物があるんだ」と私は応える。「仕事に入るので邪魔はなしだ」。

「もちろんですニール。でもPaul Grahamの記事は見ておいた方が良いのではありませんか?」。

「ご親切にどうも。でも今日は本当に時間がないんだ。仕事に関係のあるものしか目にしたくないんだよ」。

「それは大変失礼しました、ニール。ただ、どうでしょう、このLOLCatは見ておいた方が良いと思うんですよ。仕事にも役立つと思うのです」。

「ほほう」。ついのってしまうかもしれない。「ちょっと見てみようか。それから仕事に戻るとしよう」。

そして結局は3時間ほどを、仕事とは関係のないことに使ってしまうことになるのだろう。何か仕事の面から言うと無駄なことに夢中になってしまうのだ。

まあ自分自身でも魅力あるテック系サービスについての記事を書いているわけで、自分が夢中になってしまうことについて「無駄」などと言うのはおかしなことなのかもしれない。これまでに、多くの利用者に使ってもらうためにはどうすれば良いのかというような記事を書いてきた。あるいは利用者が気づかないうちに利用して、それがさらなる利用者を生むようなサービスを作るべきだというようなことを書いている。

そうであれば、そうしたサービスに対処する方法を把握していてしかるべきなのかもしれない。しかし実のところ、ドラッグがどのように作用するかを知っていても、ドラッグに対する抵抗力が増すわけではない。会議中のデジタルデバイスはなしにしようというような記事も書いたし、あるいはソーシャル時代のベッドルームでの振舞い方についても記事を書いた。しかしそれでもいざ自分のことになると、集中力を保つことができないのだ。そしていろいろな調査が指摘するように、ちょっとした阻害要因も大きなエラーにつながり得ることを実感している。

昨今のナレッジワーカーと呼ばれる人にとって、仕事もゲームも同じ画面で行うということが大きな障害となる。コンピュータやスマートフォンをつかって仕事を行うが、同じく両者を通じてゲームをプレイしたりもするのだ。アメリカにおける人気ウェブサイト25をピックアップすると、確かに日常生活のことを忘れさせるものが多いようだ。

ヒットするコンテンツは、習慣性を持つように設計されている。トリガー、行動、報奨、そして自発的トリガーの構築という誘惑フレームワークを実践しているのだ。仕事時間中に不用意にコンテンツ消費に時間をかけてしまう悪弊から抜け出すには、なんとかこのフレームワークから抜け出す方法を考えなくてはならない。

「読まない」対応

幸いなことに、なんとか対処する方法を見つけることができた。もちろん読者の方々にはこれから示す方法は無視して、ぜひとも記事を読み続け、そして広告主を喜ばせるような行動をとって欲しいと思う。それはともかく、私としてはなんとか見出しを追い続けて時間を浪費する悪弊から抜け出すことができた。

まず行ったのは、コンテンツを消化するやり方を変更したことだ。どういうやり方かと言えば、とにかくその場では読まないことをルールにしたのだ。もちろん、絶対に読まなくてはならないコンテンツもある。そういうものについても「タイムシフト」の仕組みを導入したのだ。

わかりやすくいえばPocketを導入したのだ。もちろんブラウザの拡張機能も導入した。必要な記事を見つければ即座にPocketに送ってしまうのだ。するとPocketがコンテンツを後で読むために保管しておいてくれる。ブラウザ上にPocketのボタンがあることで「読まない」ことをルールにしていることを思い出させてもくれるのだ。

もちろん「記事を読みたい」という欲求が消え去るわけではない。しかしいつでも読むことができるという安心感があり、その場で時間を消費することをやめることができた。

コンテンツ消化のご褒美

さらに、PocketのAndroid版を使い始めた。Android端末を持ち歩くことにより、いつでも時間のあいたときにコンテンツにアクセスすることができる。さらに、Androidアプリケーションには大きなメリットがある。すなわち自分ではコンテンツを読まずに、アプリケーションに読んでもらうことができるのだ。

Android版PocketはText-to-Speechに対応している。しかもHAL 9000風の音声ではなく、英国訛りながら明るい声でコンテンツを読み上げてくれるのだ。私の知る限りではiOS版には読み上げ機能が搭載されていない。Android版の方はCMなどを割りこませることもなく、記事を読み上げてくれる。これで運転中などにコンテンツを消化することができるようになったのだ。また、この方法には驚くべきメリットもあった。

Pocket's Android app with text-to-speech (TTS) capabilitiesPocketに保存したコンテンツには、読み終える(聞き終える)とチェックマークをつけるようになっている。これが、メール受信箱の未読整理を行うときと同様に、ある種の達成感を感じる行為なのだ。保存コンテンツを消化し終えると、ご褒美としてジムに出かけるなどという習慣もできた。だらだらと机の前に居続ける生活を改め、時間を効率的に使うことができるようになったのだ。

IFTTTの活用

もちろん、机で記事を読む方が便利なこともある。たとえば私はしばしば記事をEvernoteに保存したり、あるいはTwitterなどで共有したりしていた。しかしたとえばジムで音声を聞いているときには、わざわざ記事を保管したり共有したりするのは面倒なことだ。こちらの解決にはIFTTT(If This Then That)を活用することにした。これを使えばさまざまなアプリケーションを連携させることができるようになる。たとえばPocketで、記事に「お気に入り」マークをつけると、それを直ちにEvernoteに保存するということができる。このアクションを実施するための「レシピ」はこちらに公開してある。また、聞いている記事をソーシャルネットワークにて共有しようと思った場合には、Bufferを使って行うようにしている。そしてこのアクションによって、また別のIFTTTレシピが起動するようにもなっている。

トリガーの発動を防ぐ

ちなみに、ここまで述べた仕組みにはコーディングスキルなど一切必要ない。またニーズに応じてカスタマイズすることも容易だ。こうした仕組みを構築することで「他にも面白い記事がありますよ」という誘惑に負けて、いたずらに時間を消費することを防ぐことができるようになった。ウェブ上には、利用者を誘惑するための手段が満載だ。対抗するためには、新たなツールをうまく使っていく必要があると感じている。興味を引いたものになんでも手を伸ばしてのめり込んでしまうのではなく、新しい習慣によって自分の意志による行動をとることができるようになった。HALからの誘惑に耐え、生産性を上げることができるようになったのだ。

情報開示:参考までに申し上げておくが、少なくとも記事執筆時において、取り上げた企業との間に経営的ないしは個人的な繋がりは一切ない。

Nir Eyal

原文へ

(翻訳:Maeda, H)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。