評価が分かれる自動運転車初期のパイオニア、その最新ムーンショットは暗号資産を利用したピア・ツー・ピアの通信ネットワーク

ウェブサイト、Medium(ミディアム)の投稿、ホワイトペーパー、専用のsubreddit(サブレディット)、Discord(ディスコード)チャンネルという5つの要素を伴って、新しいモバイルデータネットワークが米国時間2月1日の夜遅くにサンフランシスコでひっそりとローンチされた。従来の通信事業者に頼らずに匿名で高速に、しかも安価にデータを交換する新しい方法が約束されている。Pollen Mobile(ポーレン・モバイル)と呼ばれるこのピアツーピアのオープンソース無線ネットワークは、サービスが最初に開始されるベイエリアで、ユーザーに暗号資産でインセンティブを与え、ミニ基地局の運営とネットワークカバレッジの構築を促していく。

Anthony Levandowski(アンソニー・レヴァンドフスキ)氏の自動運転車テクノロジースタートアップ、Pronto AI(プロントAI)がこのプロジェクトを立ち上げた。評価が大きく分かれる人物で、自動運転車業界の初期のパイオニアであるレヴァンドフスキ氏は、企業秘密を盗んだという罪で18カ月の禁固刑を受けた後、Donald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領から2021年恩赦を受けた

なぜ自動運転車のスタートアップが、暗号資産によってインセンティブが与えられる分散型テレコムを作っているのであろうか?Pollen Mobileのきっかけは、Prontoの自動運転車に信頼性が高く手頃な価格のモバイル接続が必要だったことにある、とProntoのCEOであるレヴァンドフスキ氏はTechCrunchとのテキストメッセージで語った。Prontoは何カ月も前から自社のAVにPollenを採用している。

「理由はシンプルです。AVに信頼性が高く手頃な価格のモバイル接続を必要としていましたが、適切なものを見つけることができませんでした」と同氏は書いている。「そこで独自のものを構築し、それが他の人たちからも求められるものになるかもしれないと認識したのです」。その後に同氏は「必要は発明の母」と付け加えた。

数日中に最初のローンチを予定している分散型のPollen Mobileネットワークは、無線タワー、接続確認デバイス、携帯電話というデータ送信機のネットワークに依存している。それらは、やや奇妙に聞こえるが、flower(花)、bumblebee(マルハナバチ)、hummingbird(ハチドリ)といった呼称が付けられている。

Mediumへの投稿によると、2020年にFCC(米国連邦通信委員会)の規則が変更されたことで、自社の自動運転車が走行しているサイト向けに独自の基地局を建設し、小型モバイルネットワークを構築することが可能になったという。

「私たちは、人々が既存のモバイル企業に対して好ましく思っていない、他のすべてのことについて考えるようになりました。そして真に革命的な何か、つまり、私たちがモバイルネットワークの『黙示録の四騎士』と捉えている課題に立ち向かう何かを構築する機会を見出しました」とMediumのブログ投稿には記されている。ここでいう「黙示録の四騎士」とは「プライバシーと匿名性の欠如」「カバレッジの低さ」「コストの高さ」「ユーザーの声の欠落」である。

「flower」と呼ばれる小さな基地局は、ピザの箱ほどの大きさから高さ6フィート(約183cm)のものまであり、数ブロック(数百メートル)から1マイル(約1.6km)までの範囲をカバーしている。これらは「flowerのオーナー」が自宅やオフィスに設置し、インターネットに接続することで、他のPollenユーザーにカバレッジを提供する。同社がDiscordチャンネルに掲載した情報によると、flowerのオペレーターは、そのカバレッジ領域、サービス品質、送信データ量に応じて、ユーザーのコミュニティからPollenCoin(PCN、ポーレンコイン)を得る。

オペレーターは、この物理的なデータ送信ハードウェアの初期費用を負担する。最も安い(そして最も小さい)flowerで999ドル(約11万円)、最大かつ最もパワフルな送信機は1万ドル(約115万円)を超える。この高い初期費用を正当化するには、オペレーターがネットワークの成功を信じ、PCNの固定供給の価値が高まることを確信することが求められるだろう。

画像クレジット:スクリーンショット/Pollen Mobile

誕生したばかりのこの取り組みに対する多くの疑問点の1つは、ISPがどのように対応するか、あるいは対応するかどうかということだ。分散型ネットワークは、flowerのオペレーターの自宅のインターネットに乗って、それらのネットワークを通じてピアツーピアのデータを転送することになるのだろうか。

同社のネットワークトラッカーによると、同ネットワークは現在、ベイエリアで10を超える無線タワーを運用しているようだ。

Pollen Mobileは「bumblebee」と名付けられた小さなデバイスを提供しており、これによりネットワークカバレッジの強度に関するデータを収集する。これらのデバイスは「flower」のカバレッジを証明するもので、ユーザーが所有し、自身のクルマやドローン、自転車に搭載することもできる。Bumblebeeのオーナーは、毎日提供される独自のカバレッジ検証の数字に基づいて、PCNを獲得する。

最後に、Pollenネットワークを使用するモバイルデバイスである「hummingbird」が用意されている。同ネットワークに接続するにはeSIMをダウンロードする必要があり、ノートPCなどのデバイスは専用のアダプター(「Wing」と呼ばれる)を介して接続できると同社は述べている。ユーザーはPCNを使って接続料金を支払う。

最終的には、データネットワークの初期段階で料金を支払う意思のあるユーザーのネットワークを構築する上で、顧客データを販売したりログに記録したりしない、より匿名性の高いモバイルネットワークというビジョンを売り込む必要があるだろう。データ専用ネットワークでは通話もSMSメッセージもできないし、料金を支払っても電話番号はもらえない。

Pollenはこれまでのところ、Prontoの子会社として内部的に運用されている。レヴァンドフスキ氏によると、Pollenは自律分散型組織であるeDAOに移管される予定で、独立して運営されるようになるという。この組織が最終的に、ネットワークがどのように進化し、ユーザーがどのように、どこでカバレッジを構築するインセンティブを与えられるかを決定することになる。

「私たちはflowerの行き先を制御していません」とレヴァンドフスキ氏はTechCrunchに語った。「コミュニティと市場の力が報酬の流れる先を決定できるように、このネットワークを設計しました」。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Kirsten Korosec、Lucas Matney、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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