”走るリッツカールトン”――アメリカで話題の寝台バスCabinに乗ってみた

寝台バスのCabinが目指すのは、車輪がついたリッツカールトンホテルだ。

先々週、サンフランシスコ―ロサンゼルス間をCabinのバスで移動したので、その様子を以下にお伝えしたい。まずサンフランシスコの乗り場に到着すると、笑顔の乗務員が私を迎え、チェックインを済ました後に荷物を持っていってくれた。いざバスの中に入ってみると、乗車後すぐに寝たくない人のために設けられた談話ラウンジが目に入ってきた。

しかし私はそこを素通りし、まずは上階に上がって自分のベッドを選ぶことに。避難口付近の1番上に設置されているカプセルが今日の私の寝床だ。避難口横に並んだカプセルは、他のものに比べてスペースにゆとりがある。それぞれのカプセルには耳栓や水、メラトニンサプリ(睡眠導入剤)などバスで夜を過ごすのに必要なものが備え付けてある。寝床を選んでから少しすると、近くの人が写真を撮ろうかと聞いてくれたので、もちろんお願いした。

寝台バス仲間が撮ってくれたくつろぐ私の図

サンフランシスコからの出発時間は午後11時だったので、仕事を途中で切り上げる必要はなかった。さらに到着時間はサンタモニカに午前7時なので、土曜日をまるまるロサンゼルスで過ごせた。復路はロサンゼルスを日曜の午後11時に出発し、月曜の朝7時にサランフランシスコに到着というスケジュールだった。

SF―LAの往復で料金は230ドルだ。この料金には寝具、Wi-FI、水、紅茶、コーヒー、耳栓、メラトニンサプリが含まれている。バスの下部にはひとり2つまで荷物を預けることができ、自分のカプセルに収まるサイズの小さな荷物は1つだけ持ち込める。

Cabinは決して価格重視の交通手段ではない。BoltやMegaBusを使えば、SF―LA間を50ドルくらいで往復できる。もちろん飛行機という選択肢もある。移動にかかる時間は飛行機が1番短いし、(いつ頃チケットを予約するかにもよるが)そこまで高いということもない。

「ロサンゼルスまで行くのに1番安い選択肢ではない、ということは正直に伝えています」とCabinの共同ファウンダーで社長のGaetano Crupiは言う。彼は私たちと一緒に、初運行となるCabinに乗っていた。

とはいっても、Cabinがもっとも快適な選択肢であるのは間違いない。SF-LA間を50回以上往復している私が言うのだから信じてほしい。ただ、ベッドが装備されたカプセル自体は快適なのだが、デコボコ道が問題だ。往路ではなかなか寝つけなかったが、それが昼寝のせいなのか、デコボコ道のせいなのかはよくわからない。朝”目が覚めた”ときに、本当に自分は寝ていたのかわからなくなるような感覚を味わった。

それに比べて復路はかなりよかった。乗車後すぐに眠りに入って一晩中ぐっすり休め、寝台バスに乗っている夢まで見た(なんとメタな夢だ……)。朝を迎え、ラウンジがある下階へ向かうと、乗務員がエスプレッソを勧めてくれた。そしてモーニングコーヒーを飲み終えるころには到着時間が迫っていた。

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SleepBusからCabinへ

正式なサービスを開始する前に、CabinはSleepBusという名前で、LA―SF間を移動する寝台車を運行していた。このパイロットプロジェクトのチケットはすぐに売り切れ、4000人以上があぶれてしまったとCrupiは話す。Crupiともうひとりの共同ファウンダーTom Currierは、資金調達を行った後に何がそこまで好評だったのかを考え始めた。

「ただバスの中で寝たいなんていう単純なものではありません」とCrupiは笑いながら言った。「それが顧客の心に響いた理由ではありませんし、それではプロダクトにも成りえません」

そこでふたりは実際に顧客の一部から意見を聞き、全ては時間が理由なのだという結論にたどり着いた。しかし彼らはただの寝台バスではなく、ホステルのようなサービスを提供しようと考えたのだ。

「私たちの考えが反映されているのはここからなんですが」とCrupiは続ける。「今やどの会社も自動運転技術の開発を行っているため、将来的にこの技術はコモディティ化していくと思います。では車内で2時間過ごすとして、運転に気を使わなくてよくなったら、そもそも従来の車と同じかたちをしている必要もありませんよね?」

そんなCabinが目指すのは「リッツカールトンのような空間」だとCrupiは話す。さらに彼は、アメリカの長距離交通網の問題にも触れ、「本当にひどい状態」だと語った。また彼は、今後自動運転技術が発展するにつれて、高速道路を利用した長距離交通網が発達していくと考えている。

「私たちが考える未来は、”高速道路を走る電車”です」とCrupiは言う。「そして『顧客は車内に7時間いることになる』と考えると、デザインやサービスの重要性がわかってきますよね」

だからこそCabinは、乗務員やプライベートな空間、アメニティといった細かなところにまで気を配っているのだ。最終的にはコーヒーやお茶などの車内販売も考えているという。

「私たちは自動運転車のエクスペリエンスを、将来ではなく今提供しているんです」と彼は続ける。

Cabin設立当初から、CrupiとCurrierは常に自動運転車のことを考えており、将来的にはエクスペリエンスだけでなく本当の自動運転寝台バスを提供するようになるかもしれない。

Crupiいわく「私たちは、自動運転車が人の生き方にどのような影響を与えるか、ということにとても興味を持っています。通勤にエネルギーを使わなくてもよくなれば、都市部への人口集中が緩和され、子どもを自然の中で育てられるなど、街づくりや住む場所と働く場所の考え方に関し、さまざま良い変化が生まれるでしょう」

自動運転技術の実用化にはまだ時間がかかりそうだが、CrupiとCurrierは今の時点で自動運転車のエクスペリエンスを顧客に提供したいと考えたのだ。「車に乗って寝て起きたら目的地に到着している、というアイディアにずっと魅了されています」とCrupiはその理由を説明する。

走るホテルの運営にあたって

夜間に運行できるよう、Cabinはこれまでに3台の寝台バスを製造した。SF→LA、LA→SFに1台ずつを走らせ、もう1台をバックアップとして使っている。さらにこれから9月1日までに、だんだんと運行数を増やしていく予定だ。

先述の通り、私が乗ったのはCabinとしては初めて運行されたバスだった。先週末には2度目の運行が行われ、今後徐々に洗濯物やゴミ、排泄物の処理といったオペレーションのすり合わせが行われる。

「バスは常に動き回っているので、どこかと協業しないと運営していけません。洗濯物はどこかで回収してもらって、またどこかでピックアップしなければいけませんし、燃料についても同じです。その一方で、空港のような場所が要らないというのは、Cabinのような交通手段の大きなメリットのひとつとも言えます」とCrupiは語る。

営業時間外のCabinはさまざまな場所に停まり、乗客を拾うときはツアーバスの乗り場を使っている。サンフランシスコとサンタモニカでは運営許可を取得しているので、法的な準備も万全だ。

「多くのスタートアップは『規制対応は後から』という姿勢ですが、私たちは警察に没収されるかもしれない資産を使ってビジネスを行っているので、サンタモニカの都市設計部門から路線の許可をとりました。コンプライアンス面はバッチリです」とCrupiは話す。

彼によれば、次の四半期の間にCabinはホスピタリティの部分にさらに力を入れる予定だが、カプセルの大きさや見た目についても試行錯誤を重ねていくようだ。

路線拡大に関しては、ポートランドとラスベガスを次なる進出先として検討しているとのこと。その一方で、アメリカ中部にも「大きなチャンスが眠っている」とCrupiは関心を寄せている。

「線路が要らない高速道路網を使えば、割高でも利用したい人がたくさんいるというのに気づいたのは大きかったですね。限られたインフラを使って、ヨーロッパ旅行のような体験をアメリカ国内で提供しているようなものです」と彼は話す。

最近Cabinは330万ドルを調達し、新しい都市への進出を考えている。Crupi自身、Cabinは何億ドルという資金を調達できるようなタイプのビジネスではないと認めているが、今のところ同社には「十分に利益が見込めるビジネスモデルと、私たちに新たな洞察をくれる顧客ベースがある」と彼は言う。

FAQ

  • 車内で眠れた?
    往路に関しては多分。復路はしっかり寝られた。
  • カプセルに鍵は付いてる?
    付いていないが、特に不安は感じなかった。
  • 車内で騒いでる人はいた?
    ラッキーなことにいなかった。むしろ皆かなり早い段階で寝始めたので、物音さえほとんどしなかった。例え眠れない人がいても、ラウンジが用意されているのでそこまで問題になることはなさそう。
  • トイレは汚かった?
    全く!バスのトイレとしては綺麗な方だったと思う。タンポンも完備!
  • 飛行機の方が安いのでは?
    チケットを購入するタイミングにもよるが、ほとんどの場合飛行機の方が安い。
  • もう1度乗りたいと思う?
    長距離移動するとき、私は何かと不安に感じることが多い。フライトだと空港に遅くとも1時間前には着かなければいけないし、ようやくセキュリティゲートを抜けたとしても、天候やその他のくだらない理由(サンフランシスコ国際空港の滑走路の工事など)で遅延することもある。車での移動だと、何時間も起きていないと行けないし、助手席に乗っていたとしても脚は完全に伸ばせない。しかしCabinだと、出発10分前に乗り場に着けばよく、コンパクトながらもちゃんとしたベッドで寝られるのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。