針の頭に載るLiDAR開発のVoyant Photonicsが約4億円超を調達

LiDAR(Light Detection and Ranging、光による検知と測距)は、ロボットや自律運転車が周囲の世界を認識するのに欠かせない装置だが、レーザーやセンサーは大変にかさばる。しかし、Voyant Photonics(ボヤント・フォトニクス)の場合は違う。彼らは、文字通り針の頭の上にバランスよく載ってしまうほどのLiDARシステムを開発した。

科学的な解説の前に、これがなぜ重要なのかを説明しておこう。LiDARは、車が中距離の物体を検知する方法として使われる。長距離になるとレーダーが、至近距離になれば超音波センサーがより有利だが、1メートルから数十メートルの範囲ではLiDARが便利になる。

残念なことに、現在最もコンパクトなLiDARでも、まだ握りこぶしほどの大きさがあり、市販車両に搭載できる製品は、それよりも大きくなる。超小型のLiDARユニットを車の四隅に、あるいは室内に配置できれば、車の内外の詳しい位置データが取得できるようになる。消費電力もわずかで済み、車のアウトラインやデザインを損なうこともない(それがために、LiDARを利用できる無数の産業に普及せずにいる)。

翻訳記事:光速で変化するLiDER業界:スタートアップCEOたちの展望(未訳)

LiDARは、1本のレーザーを1秒間に何度も扇状に照射して、その反射を正確に測定することで周囲の物体までの距離を継続的に監視するというアイデアから始まった。しかし、レーザーの角度を変えるメカニズムは大きくて遅く、エラーも多い。そこで、新進の企業では、別の方式を試すところもある。一度に領域全体にレーザーを照射するもの(フラッシュLiDAR)や、複雑な電子的特性を持つ構造体(メタマテリアル)でビームを操作するものなどだ。

そこにぜひとも加わってほしい技術に、シリコンフォトニクスがある。基本的には、ひとつの多目的チップで光を操るというものだ。これを使えば、たとえば、論理ゲートの電気信号を、超高速で熱を持たない処理に置き換えることができる。Voyantはまさに、LiDARにシリコンフォトニクスの技術を適用したパイオニアなのだ。

以前は、チップベースのフォトニクスで、光導体(光を発したり方向を変えたりする素子)の表面からレーザーのようなビームを安定的に照射しようとすると、込み入った場所で光が自分自身と干渉してしまい、照射角度もパワーも小さくなってしまった。

Voyantの「光学フェーズドアレイ」では、チップ内を通過する光の位相を慎重に変更することで、その問題を回避している。その結果、可動部品を一切使わず、周囲の環境に強力な非可視光線を広い角度で高速に照射できるようになった。しかもその光線は、指の先に載るほどまでに小さなチップから発せられる。

「とても小さいので、これは実現技術です」と、Voyantの共同創設者であるSteven Miller(スティーブン・ミラー)氏は言う。「私たちは1立方cmのサイズを考えています。世の中には、ソフトボール大のLiDARは搭載できない電子機器がたくさんあります。ドローンなどの重量が大きく関わってくるものや、腕の先に部品を組み込まなければならないロボットなどを想像してみてください」

彼らのことを、ほんの数年、他より研究が進んでいると思い込んでいるだけの、どこの馬の骨とも知れない連中だと思わないでほしい。ミラー氏と共同創設者のChris Phare(クリス・フェアー)氏は、コロンビア大学Lipsonナノフォトニクス・グループの出身だ。

「その研究室で、シリコン・フォトニクスが発明されました」とフェアー氏は話す。「私たちはみな、物理学とデバイスレベルの機器に深く精通しています。だから私たちは、LiDARを一歩下がって客観的に眺め、これを実現させるために、どこを直し改善すべきかを考えることができました」。

関連記事:いまさら聞けないライダー(Lidar)入門

彼らが実現した進歩は、正直言って私の専門外なので、あまり詳しくは解説できない。ただ、干渉の問題を解決し、周波数変調連続波技術の採用により、距離だけでなく速度も測定できるようになった(これはBlackmoreも行っている)ということは言える。ともかく、チップから光を放ち動かすという彼ら独自のアプローチは、小型化を実現しただけでなく、トランスミッターとレシーバーを一体化し、性能も高めることにもなった。このサイズにしては高性能、という意味ではない。彼らは、普通に高性能なのだと主張している。

「小型のLiDARは性能が劣るという誤解があります」とフェアー氏は言う。「私たちが採用しているシリコン・フォトニックのアーキテクチャにより、非常に高感度のレシーバーをチップに搭載できました。従来の光学技術では組み立てが難しかったでしょう。そのため私たちは、この微小なパッケージに、部品を追加したり外来の部品を使ったりすることなく、高性能なLiDARを組み込むことができました。一般的なLiDARと張り合える性能を達成できると、私たちは信じています。しかも、ずっと小型です」。

テストベッド上のチップベースのLiDAR(左上からファイバー入力、配線端子、移相器、回折格子エミッター)

このチップは、他のフォトニクス・チップと同じく、通常の方法で製造できる。これは、研究段階から製品化へ移るときに大きな利点となる。

今回のファーストラウンドの投資で、同社は規模を拡大し、この技術を研究室から外へ持ち出してエンジニアや開発者の手に届ける予定だ。正確な仕様、サイズ、消費電力などは、用途や使用する産業によって異なるため、Voyantは他分野の人たちからの意見を聞いて決めることになる。

自動車業界(ミラー氏によると「LiDARを作っている企業がなく、そこに参入を目指している企業もないので、かなり大口の利用者になります」とのこと)だけでなく、彼らはさまざまなパートナー候補者と話を進めている。

今のステージでは、9桁の資金を調達するような他企業に圧倒されそうだが、Voyantには、今ある何物とも違うまったく新しいものを作り上げたという強みがある。その製品は、InnovizやLuminarの人気の高い大きなLiDARと肩を並べて、安心して共存できる。

「私たちは、ドローン、ロボティクス、もしかしたら拡張現実といった、さまざまな分野の大手企業に話を持ちかけるつもりです。これにいちばん興味を示してくれる分野を探したいのです」とフェアー氏。「私たちは、一部屋分の大きさのコンピューターがチップサイズになったときと同じ、革命を目の当たりにしています」

Voyantが調達した430万ドル(約4億6500万円)は、Contour Venture Partners、LDV Capital、DARPAによる投資だ。当然、彼らはこのようなものに興味を持っているはずだ。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。