陰険な解雇をされた25歳の共和党スタッフが著作権法改革の闘士になるまで

Strike Me Down

DC界隈*の誰かが、知的財産(intellectual property, IP, 知財)の抜本的な改革に関する共和党の公式報告書があることを嗅ぎつけ、著作代理店にそのドキュメントをインターネットから削除させ、執筆を担当したスタッフを解雇させた。しかしその、こそこそとした政治工作は裏目に出た。若き犠牲者Derek Khannaはたちまち、エンタテイメント業界や通信業界が行うロビー活動に反対する生ける殉教者として、ニュースメディア上のスターになった。彼が批判した巨額のロビー活動は、イノベーションを犠牲にしてまで反海賊法をごり押しすることで、かねてから悪名高い。〔*: DC界隈、日本なら‘永田町界隈’。〕

それから3か月後にKhannaは、携帯電話のキャリアよりも消費者の権利を優先せよという陳情に10万名の署名を集め、それに基づいて、消費者優先を法制化し、今や存在しない委員会のドキュメントに彼が記した原則を支持するよう、大統領府と議会を説得した。そしてその説得は成功した。陳情成立の翌日には、大統領府(ホワイトハウス)からの支持を法案化する作業が始まった。その公式文書には、Khannaへの感謝の言葉も載っていた。

[ツイート訳: 携帯電話を消費者がアンロックできるよう努力している。それは、自由の問題だ。自分の電話機だから、自分でアンロックできるべきだ。]〔筆者のホームページ。〕

知財のエキスパートで、科学技術政策に関する人気の高いブログTechDirtを主宰しているMike Masnickは、“連中は彼を解雇して黙らせようとしたが、逆に彼への関心が高まり、デジタルの草の根運動において、彼に強大な声を与えた”、と述べている。“そのため彼は非常に短期間で(しかも予期しない)大きな成功を収め、彼の、携帯電話のアンロックに関する陳情は、これらの問題に関する古い考え方と新しい考え方の違いに、強い光を当てた。古い考え方は“罰則”中心型だ。新しい考え方はオープンであること(openness)とつながり(connectivity)の力を重視する。そして、両者が衝突するときには、ほとんど毎回、新しい方が勝利する”。

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党公認の報告書なのにスケープゴート

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その25歳の共和党員は、下院の保守的な政策シンクタンクRepublican Study Committee(共和党調査委員会, 以下RSCと略記)の嘱託だった。彼が書いた公式報告書は、アーチストのために鷹派的な知財保護を主張する団体、たとえばRecording Industry Association of America(RIAA, Napsterの訴訟で有名)などと違って、“著作権法をめぐる三つの神話とそれらの解体にどこから着手すべきか”を、明らかにしようとしている。

保守派のお題目である自由市場主義に依拠しつつ報告書は、“著作権は資本主義の自由放任の原則のあらゆる側面を侵犯している。著作権の現行の体系では、コンテンツの製作者に対し、コンテンツの独占が、保証され、法によって守られ、国の助成金すら得ている”、と論じている。

著作権に関する現状維持派を批判する人たちは、その悪例の典型として、Amazonの、“ワンクリックで今すぐ買う”ボタンに対する特許取得努力をよく取りあげる。それは特許の濫用であり、誰にでもできる当たり前のようなことを法で保護しようとしている、と彼らは批判する。物理財と違ってソフトウェアには稀少性がない。Amazonもそのほかのオンライン小売サイトも、まったく同じボタンをまったく同じ時間に使える。報告書は暗に、政府や司法の介入なくAmazonとその競合他社が自由市場で自由に競争することが重要、と示唆している。

その大胆な報告書は、こんな新聞見出しを生み出した: “An Anti-IP Turn for the GOP?”(共和党は反知財派に変身か?)。これはThe American Conservative紙に載った見出しだ。学習委員会は党の検討を経ることなく、勝手に報告書をWebサイトから削除し、公式の謝辞(お詫びの言葉)を載せた: “昨日みなさまがご覧になった著作権法に関する政策概要記事は委員会内の適切な検討なく公開されたものです…ここにその過誤をお詫びし、不注意に関する全責任を負うものであります”(委員会の事務局長Paul Teller)。今や存在しないドキュメントと同じく、Khannaもまた、ご都合主義的に嘱託契約を打ち切られた。

firing and going rogue

解雇され一匹狼に

委員会(RSC)は、この試練に関して完全に沈黙したため、かえって目立ってしまった。Khannaは、本誌TechCrunchにくれたメールで、次のように回想している: “この問題について報告書を書けと言われたから、書いたのだ。その報告書はオフィスにいた数人の人たちが読み、正規の手続きを経て承認された。Webサイトに謝辞を書いた事務局長のTeller自身も、校閲し手直しをして(その部分は今でも持ってる)、そのメモを承認した”。

Khannaは、彼をスケープゴートに仕立てた人物については何も言わなかったが、The Washington Examiner紙の報道では、それはコンテンツ業界と仲良しの下院議員Marsha Blackburnだ(政治家に対する本誌の格付けでは : Fの人)。Center for Responsive Politicsによると、共和党の全議員/候補者の中で、音楽業界からいちばん多く政治資金をもらっている人が、彼女だ。

Blackburnの事務所は、本誌のコメントリクエストに対して無返答だ。上のExaminer紙の報道が嘘なら、本誌などへのコメントで真実を明かした方が得策なはずだが。

彼の解雇理由は不可解だが、結果は明らかだ。彼は政治の世界の鼻つまみ者になった。あるテクカンファレンスで、一人の国会議員が彼の就職斡旋依頼を断固として断っている様子を、たまたま目撃したことがある。

村八分にめげなかったKhannaは、一匹狼として彼のオープンインフォメーションメッセージを発言していった。当然ながら彼が向かったのは、議会ではなく報道機関だ。彼はAtlantic紙の署名論説”The Most Ridiculous Law of 2013 (So Far): It Is Now a Crime to Unlock Your Smartphone“(2013年の今、もっとも滑稽な法律: 自分のスマートフォンをアンロックすると犯罪になる)を書き、なんとそれは、Facebook上で58000のLike(いいね!)を集めた(ざっと推定すると、ビュー数は100万を超えたと思われる)。

unknown friends in high places

高い所から未知の友が

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関心の高まりに乗じて彼は、その期せずして入手したセレブの地位を、Sina Khanifarに貸し出した。Khanifarの、携帯電話のアンロック禁止をやめさせよ、という陳情が、ホワイトハウスを動かし始めていた。今の合衆国の著作権法は、人びとがすでに所有している電子製品にも適用される。AT&TのiPhoneに関するサービスのひどさにうんざりしたユーザは、違うキャリアに乗り換えるための“アンロック”という方法を見つけた。そして、携帯電話のアンロックは向こう6年間著作権法の対象外、としていた国会図書館が今年突然、心変わりをした。

草の根コンビは、これまで多くの人が失敗したことに成功した。陳情の署名が、政府が公式にその陳情に対応しなければならない数である10万を超えたのだ。ホワイトハウスも、儀礼的な返答ではなく、その陳情を支持するという大胆で前向きな宣言を発表した

ホワイトハウスのシニアアドバイザーR. David Edelmanはこう書いている: “ホワイトハウスは、消費者は犯罪や処罰の危惧なく自分の携帯電話をアンロックできるべきだ、と信ずる11万4000名あまりのみなさまと同じ考えです。ご自分のモバイル製品の代価をご自分で払い、特別なサービス合意事項やそのほかの義務事項が契約中にない場合には、その製品をほかのネットワークで使えるべきです。それは常識であり、消費者の権利を守るための重要事項であり、また、活発な競争のあるワイヤレス市場が革新的な製品を生み出し、消費者のニーズを満たす堅実なサービスを提供していくためにも重要です”。

おそらくコンテンツ業界のロビー活動家たちは自覚していないと思うが、今のオバマ政権内部には、KhannaやKhanifarらの同類と言っても過言ではないオープンインフォメーションの擁護者たちが山のようにいる。ソーシャルメディアを活用する画期的な選挙戦を成功させたオバマ政権では、スタッフの多くが(そしてインターネット業界にいるスタッフの友人たちが)、選挙戦がそうであったように、政府自体をもインフォメーションフレンドリーにしよう、という合唱に参加しているのだ。

そもそも、ホワイトハウスの陳情システムであるWeThePeopleも、オバマが自分の政権をより参加性に富んだものにするために起用して、彼らのために特別の部署まで作った、テクギークたちの脳が産み落としたものだ。一部の陳情には言葉だけで応じたり、記者団相手のようなはぐらかしをすることもあるが(マリファナを合法化せよなど)、オープンインフォメーションの支持に関しては非常に強力で明白だった。

つい先月には、ある陳情に応えて、1億ドルというぞっとするような金額を国が金を出した研究にはオンラインで無料/自由にアクセスできるための環境作りに配分した。従来は、政府の研究資料でも高価な有料データベースからしか見られなかったのだが。

Khannaは結果的に、ホワイトハウスの中に自分の仲間を作った。皮肉なことに、二つの集団がブログやオンラインのツールを通じてオープンに結びつき、力を 発揮できたのは、彼が無公示状態でクビになったおかげだ。彼が殉教者にならなかったら、今の熱気はなかっただろう。そしてその圧倒的な大衆の支持と、前向きに応えざるを得ない今の状況がなかったら、ホワイトハウスも政策の処方箋を与える決断を、しなかっただろう。

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敵の急所へ向かう

Khannaの仕事はまだある。次は消費者団体Electronic Frontier Foundationのような、有名な科学技術政策提言組織と組んで、本格的な著作権改革を開始しなければならない。両者はすでに、国会図書館のような政府機関が持っている特権を終結させるための動きを開始している。そのためには、その特権を支えている事実上のデジタル著作権法、Digital Millennium Copyright Actを廃止または修正する必要がある。

国会図書館はすでに、ホワイトハウスの宣言を拒否しており、今後は強力なコンテンツロビーたちも拒否の唱和に加わるだろう。これからのKhannaらの敵は大金持ちで、団結力もあり、しかも鳴り物入りで派手な宣伝活動を展開するだろう。

その戦闘は、草の根活動家たちの気骨を試す。しかし結果の如何に関わらず、このデジタルのダビデがロビイストのゴリアテと戦う機会は、ギークな政府高官たちとの連合と、彼らの熱意を強力な声に変えたオンラインツールがなかりせば、あり得なかっただろう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

投稿者:

TechCrunch Japan

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