障がい者のための技術発展を目指す企業を支援するMicrosoftアクセシビリティー補助金

ハイテク界にも障がい者のための支援活動が数多く存在するが、アクセシビリティー問題で投資家を熱くさせることは難しい。だからこそ、Microsoft(マイクロソフト)のAI for Accessibility(アクセシビリティーのためのAI)補助金制度は大歓迎だ。障がいを負った人たちのためのAI活用の道を探る企業や団体を対象にしたAzureクレジットと現金による株式を要求しない経済援助だ。マイクロソフトは、視覚障がい者のための教育を支援するスタートアップであるObjectiveEd(オブジェクティブエド)をはじめ、10以上の対象団体を発表した。

この補助金制度は、少し前に500万ドル(約54億円)でスタートした。その条件に合うスタートアップ企業やプロジェクトをわずかでも補助しようと5年の期限を区切って行われている。もちろん、それらの人たちにマイクロソフトのクラウドインフラに親しんでもらおうという狙いもある。

申し込みは常に受け付けられ「障がいを負った人たちにAIや機械学習を役立てたいと模索する人なら誰でも、喜んで支援します」とマイクロソフトのMary Bellard(メアリー・ベラード)氏は話している。ただし「素晴らしいアイデアで、障がい者コミュニティーに根差している」ことが条件だ。

今回、補助金を獲得した中にObjectiveEdがある。今年の初めに私が紹介した企業だ。iPadを使った、目の見えない、または弱視の小学生向けのカリキュラムだが、目が見える子どもたちにも使うことができ、教師の負担が軽減される。

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そこには、ご想像のとおり点字も含まれている。点字を学ぶ必要のある子どもたちに対して、点字を教えられる教師の数は足りていない。一般的には、直接的な実践教育で教えられている。つまり、子どもが点字を(ハードウェアの点字ディスプレイを使用して)声に出して読み上げるのを教師が聞き、間違いを正すというものだ。高価な点字ディスプレイが自宅で自由に使える環境で、その技能のある家庭教師を雇える場合は別だが、この重要な教育が受けられるのは、週に1時間程度という子供もいる。

ObjectiveEdのアプリなどに使用する書き換え可能な点字ディスプレイ。

「点字ディスプレイに文章を送り、生徒がそれを声に出して読み上げると、マイクロソフトのAzureサービスがそれをテキストに変換し、点字ディスプレイの文章と比較する。そして必要に応じて間違いを正し次に進む。そんなことができたら最高だと私たちは考えたのです。すべてをゲーム形式にします。楽しく学べるようにね」とObjectiveEdの創設者Marty Schultz(マーティー・シュルツ)氏は話していた。

それが、この会社の次なるアプリで可能になる。今や音声のテキスト変換の精度は十分に高く、さまざまな教育やアクセシビリティー目的の使用に耐えられる。あとは、生徒が点字訓練の時間を取れるようiPadと点字ディスプレイを用意するだけだ。1000ドル以上もするハードウェアだが、目の見えない人に金をかけてはいけないなんて決まりはない。

点字の識字率は低下している。音声インターフェイス、オーディオブック、画面読み上げなどが普及し実用性が高まったことを思えば無理もないと私が言うと、シュルツ氏とベラード氏は口を揃えてこう指摘した。メディア消費の上ではオーディオに依存できることは素晴らしいが、書かれたものを真剣に読みたいとき、または多くの教育の現場においては点字は不可欠なものであるか、または発話に代わる非常に便利な代替手段なのだと。

シュルツ氏もベラード氏も、教師に取って代ろうとは決して考えていないという。「教師は教え、私たちは子どもたちの訓練を支援します」とシュルツ氏。「私たちは授業の専門家ではありません。教師の助言を受けて、これらのツールを生徒たちが使いやすいように作るのです」。

マイクロソフトの補助金を受け取った団体は、このほかに10団体あり広範囲の多様なアプローチや技術をカバーしている。例えば、私が気に入ったのはSmartEar(スマートイヤー)がある。ドアベルの音や警報音などを傍受して、スマートフォンを通じて耳の聞こえない人に知らせるというものだ。

また、ロンドン大学シティ校では、個人用のオブジェクト認識のための素晴らしいアイデアを持っている。テーブルの上のマグカップやキーホルダーを認識するという程度のことは、コンピュータービジョンシステムにとっては実に簡単なことだ。しかし目の見えない人の場合、システムがマグカップやキーホルダーを特定してから、例えば「それはドアの脇の茶色いテーブルの上にあります」などと教えてくれたら非常に助かる。

以下に、ObjectiveEd以外でマイクロソフトの補助金を獲得した10の団体のプロダクトを紹介する(それぞれを詳しく調べてはいないが、今後調査するつもりだ)。

  • AbiliTrek(アビリトレック):さまざまな施設のアクセシビリティーを評価し解説する障がい者コミュニティーのためのプラットフォーム。個人の必要性に応じて検索結果を選別できる。開発元は同名のAbiliTrek。
  • SmartEar(スマートイヤー):環境音(ドアベル、火災警報、電話の呼び出し音など)を能動的に傍受し、小型のポータブルボックスかスマートフォンから色付きのフラッシュを点滅させて聾者コミュニティーを援助するサービス。運営元はAzur Tech Concept(アザー・テック・コンセプト)。
  • Financial Accessibility(フィナンシャル・アクセシビリティー):プログラムやサービスと人との最適なマッチングのための情報や活動を提供するインタラクティブなプログラム。運営元はBalance for Autism(バランス・オブ・オーティズム)。
  • The ORBIT(ジ・オービット):個人向けオブジェクト認識をAIシステムに訓練するためのデータセットを開発中。盲人コミュニティーで使用されるツールでの重要性が増している。開発元はCity University of London(ロンドン大学シティ校)。
  • BeatCaps(ビートキャップス):ビートトラッキングを使用して字幕を生成し、音楽のリズムを視覚化する新しい音声転写方式。聴覚機能障がい者に音楽を体験してもらうための視覚化技術。開発元はCommunote(コミュノート)。
  • EVE(イブ): 聴覚障がい者のための、発話を認識しリアルタイムで自動的に字幕を生成するシステム。開発元はFilmgsindl(フィルムグシンドル)。
  • Humanistic Co-Design(ヒューマニスティック・コ−デザイン):個人、組織、施設が協力し合い、デザイナー、メーカー、エンジニアが、障がい者のために技能を発揮できるよう認知を高めるための生活協同組合。運営元は同名のHumanistic Co-Design。
  • MapinHood(マッピンフッド):視覚障がい者が職場やその他の目的地へ歩いて行くときのルートを選択できるナビゲーションアプリを開発中。開発元はトロントのスタートアップであるiMerciv (イマーシブ)。
  • I-Stem(アイ-ステム) / I-Assistant(アイ-アシスタント):文章の読み上げ、音声認識、AIを使い、教室での対面によるテストに代わるインタラクティブで会話的な代替手段を生徒たちに提供するサービス。運営元はinABLE(イネイブル)。
  • ADMINS (アドミンズ):大学の書類をオンラインで記入することが難しい障がい者に業務支援を行うチャットボット。開発元はOpen University(オープン・ユニバーシティー)。

この補助金は、ユーザーが現在勉強中で明かりを消してはいけないような緊急のニーズに応えるために、Azureクレジットまたは現金、またはその両方で支払われる。このプログラムに適合すると思われる活動に携わっている場合は、ここから申し込める

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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