電力の供給も未来を開く鍵は「分散化」にある

[筆者: Hemant Taneja]

編集者注記: Hemant TanejaはGeneral Catalystのパートナーで、Advanced Energy Economy(AEE)の協同ファウンダ/会長だ。

電力産業の全史をとおしてひたすら、あらゆる問題への答が“規模拡大”だった。規模の経済というものがあるので、彼ら公益企業は、発電所をどんどん大きくし、効率と利益を上げることに邁進してきた。今現在も含め何十年にもわたって私たちは、そんなやり方で作られる電気を受け取ってきた。天然ガスや石炭、石油、核エネルギーをベースとする巨大な発電所から。

今、その産業は規模の限界に直面し始めている。エネルギーの利用効率が大きく上がってきたため公益事業の需要は減少しつつあり、また彼らは炭素排出量をめぐる厳しい規制に従わなければならない。地球規模の気候変動が私たちの発電システムに大きなストレスを与え、気候変動の深刻化とともに、より柔軟性と信頼性に富んだ新しい発電方法が求められている。もはや拡張よりも緊縮を求められる今の時代において私たちは、年老いたインフラストラクチャをアップグレードするための新しい方法を見つけるという、喫緊のニーズに迫られている。

私たちが安全でクリーンで安価なエネルギーを求めるのなら、これまでのやり方を続けることはできない。むしろ私たちは、まったく新しいやり方で成長していく必要がある。それは、個々の生産者やユーザを複数のプラットホーム上に分散集積して、少数の単体プラットホームの規模拡大をやめるという、シリコンバレーの最新のプレーブック(戦略手法)に似たやり方だ。

このような脱・大規模化によって大企業に挑戦しているスタートアップの例を、二つ挙げよう。これまで長年、自分の家を建てる人は必ず予備の寝室を作らせたが、でもそれらは年に数回しか使われない無駄なリソースになっている。そしてそれが今では、Airbnbの登場により、要らない寝室を宿泊用に貸して、副収入を得られるようになった。ホテル業界は電力業界に劣らず巨大だが、でも今やAirbnbは実質的に世界最大のホテルであり、しかもそれは大ホテルの新築による規模拡大ではなく、一度に一室ずつ地道に増え続けている。もうひとつの例は、オンデマンドのタクシーサービスUberだ。Uberでは自分の車を走らせている人が‘お客’を拾うことができる。これもまた、ほとんどいつも空いている3〜4席という無駄なリソースの有効利用による副収入の獲得だ。今日ではUberは世界最大のタクシー企業だが、それは保有台数を増やすという規模拡大によってではなく、個人ユーザ(空き車提供者)の数が増えた結果にすぎない。

シリコンバレーの、このような、アンチ規模拡大の例を見るたびに思うのは、規模の経済ではなく規模縮小の経済を追うことこそが、電力業界がその差し迫った諸問題に前向きに対応できる方法だ、ということだ。

しかし私たちの多くは、空席の多い車や要らない寝室は持っていても、予備の発電機は持っていない。発電機は、数十万ドルはしなくても、数万ドルはするから、誰もが簡単に買える機材ではない。

小規模な発電所を高密度に整備し、それらを高度なグリッド技術で結びつけることにより、私たちのエネルギーシステムは今よりも安上がりになり、環境にやさしくなり、全体として柔軟性に富むので事故などに対する回復力も強くなる。

しかし、今、住宅やビルの上などで多く見られるようになっている屋上ソーラーパネルなどの小規模発電施設が、今後、電力のAirbnbやUberを可能にするだろう。ソーラーパネルの低価格化が進み、補助制度も良くなり、取り付けも容易になったため、誰でも気軽に屋根の上に置けるようになったのは、ここ10年足らずの現象だ。今ではSolarCityやAdmirals Bankのような企業が、この分野で活躍している。

発電の小地域化が本格化すれば、私たちの年老いたグリッドインフラストラクチャは粗大ごみになる。今のグリッドは、その設計からして、あちこちの、稼働状態の多様な小規模発電機から来る電力をうまく扱うことができない。それに対してGeneral Catalystから巣立ったGridcoが発明した電力ルータのような、新しい、柔軟性に富んだグリッド技術は、どんなソースからの電力でも受け入れてそれらを標準化し、ユーザ元へ配布することができる。

これら最新のイノベーションは、電力産業においても、大規模集中化よりも分散化の方が経済性が高いことを実証しつつある。小規模な発電所を高密度に整備し、それらを高度なグリッド技術で結びつけることにより、私たちのエネルギーシステムは今よりも安上がりになり、環境にやさしくなり、全体として柔軟性に富むので事故などに対する回復力も強くなる。さらに重要なのは、この変貌によって電気料金が地域の収入源になり、自分ちの屋根が副収入源にもなることだ。

しかし今の公益企業のCEOたちや、担当の行政官たちとの議論が示唆しているのは、長年のあいだに深く根を張ってしまった制度上の障害だ。エネルギーシステムの完全な分散化は、この障害を取り除くことから始めなければならない。

彼らの古い業態モデルや規制の枠組み、投資の形式等が、電力供給へのテクノロジの本格的な利用と、エンドユーザに対するサービスの変容を阻んでいる。でも経営環境の変化とともに、ステータスクォ(現状絶対主義)はもはや通用しなくなりつつある。関係者たちの説得も重要だ。たとえば投資家たちには、発電は分散化した方が資本利益率が高いことを理解してもらいたい。行政官たちは、発電を地域がコントロールできるようになり、地域の仕事や雇用が増えることを理解しなければならない。

このように、大きな産業が自分で自分をディスラプトできる好機は、めったに訪れるものではない。しかし、今の競争環境を見るかぎり、生き残るためにはそれしかない。しかも彼らがこれから敢行する変化は、変化の過程そのものが利益を生むのだ。巨大な中央集権モデルから分散プラットホームモデルへ移行することにより、私たちは安全でクリーンで安価な、よりよいシステムを作ることができる。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


投稿者:

TechCrunch Japan

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