電動キックスクーターの安全性をモニターするSuperpedestrianが危険運転を検知・制御のためNavmatic買収

電動キックスクーターの運営会社Superpedestrian(スーパーペデストリアン)は、マイクロモビリティ運営会社による車両の位置特定と、その動きのリアルタイム補正を助けるスタートアップNavmatic(ナヴマティック)を買収した。

両社とも、2021年6月に成立した買収の詳細を明かしていない。取引の関係者によると、買収価格はNavmaticによる2020年6月の400万ドル(約4億4100万円)の設立資金調達の、最後の資金調達ラウンドとそう変わらない。

Navmaticの買収は、Superpedestrianにとって車両の安全システムを強化するために当該スタートアップのスーパーフュージョン技術を採用できることを意味する。新しいシステムはPedestrian Defense(ペデストリアン・ディフェンス)と呼ばれ、安全でない乗り方(一方通行の道路を逆走、無茶な進路変更、歩道の走行、急ブレーキの繰り返しなど)を検知する。また、スクーターを減速または停止させてリアルタイムで利用者に知らせるか、その行動を正す。利用者は利用終了時に、カスタマイズされた安全トレーニングに使用する安全評価を受け取る。上手な乗り方をしていれば割引を受けられるが、常習的に安全でない乗り方をする利用者はブラックリストに載ってしまう。

スクーター関連の事故が増える中、クルマが関与する交通事故の大半の場面で活躍するであろう新たなテクノロジー企業を紹介する。Spin(スピン)Voi(ヴォイ)は、同様に利用者を見張り、歩行者を守るためにさらなる技術手段を導入した。といっても、Navmaticのように位置特定ソフトウェアに注力したのではなく、コンピュータビジョンのスタートアップであるDrover AI(ドローヴァーAI)とLuna(ルナ)に目を向けた。非妨害性カメラを搭載したSpinとVoiの車両は、Superpedestrianのものとは違って、ある程度の精度を伴って歩行者を検知する。Superpedestrianの良さは、スクーターの細かい動きに関するデータを通じて利用者の行動を精確に理解するところだ。

「現在の課題はスクーターに関連する弱者、つまり歩行者、障害者、ベビーカーを押す人を守ることです」と、SuperpedestrianのCEOであるAssaf Biderman(アサフ・ビダーマン)氏はTechCrunchに語る。「そのため、非常に正確な位置、利用者の行動の特徴付け、コンテキストアウェアネスが必要です。利用者が他者の通行権を邪魔していないか?利用者がデータを正しくトレーニングすれば、カメラは必要ありません」。

ビダーマン氏は、SuperpedestrianがマイクロプロセッサとNavmaticのソフトウェアをLINKスクーターのオペレーティングシステム上で実行しており、Superpedestrianのすべてのマップがそこで機能していると話す。そのソフトウェアはグラウンドトゥルースで高精度なマップの視界を含め、さまざまなセンサーでトレーニングされている。乗車中、スクーターから取得されたデータを分析するリアルタイム計算がマイクロプロセッサのエッジで行われ、GPS生データ、多次元の慣性感知、車両の動力学を組み合わせて、車両の位置と動きを非常に精確に計算する。

「Navmaticのソフトウェアがあれば、位置検知が著しく向上し、スクーター運転者や小型車両のわずかな動きでさえすぐに分析できるようになります」とビダーマン氏は語る。「現在、その反応時間は0.7秒です」。

Superpedestrianのディベロップメント&パブリックアフェア部門ディレクター、Paul White(ポール・ホワイト)氏によると、車両の位置の正確性向上は局地的な条件に応じて70~90%である。

両社は、そのような精確な位置データを車両動作の制御機能と組み合わせると、視界に関する潜在的に安価で確実に拡張可能な優れた解決策となると話す。

「1台のスクーターに1000ドル(約11万円)や2000ドル(約22万円)のLiDARを搭載するわけにはいきませんよね?」とビダーマン氏はいう。「センサーフュージョンがあれば、夜に視界が悪くなったり、カメラが汚れたり、何度も故障したりするなどの制限や、反射や影の影響を受けるGPSの制限を克服できます。できるだけ多くのセンサーを組み合わせることで、それぞれの良いところを享受し、学習と改善を続けることができるのです」。

参考に、ドローバーAIとルナの技術により、スクーター運営会社はデータに基づき利用者の動きを制御することもできる。しかしこの能力はまだSpinとVoiがコンピュータビジョンを使用しているすべての都市で利用されているわけではない。Navmaticのチップはスクーターとオペレーティングシステムを共有しているが、例えばドローバーAIのものはスクーターのOSと直接通信する個別の車載IoTユニットで稼働する。この機能は現在サンタモニカでSpinにより試験的に利用されている。Voiは警報音を用いて歩道の歩行者に知らせるルナの技術をケンブリッジで試験利用したばかりだが、今度はスクーターを減速する方法を模索している。

Superpedestrianはオペレーティングシステムからハードウェアまでフルスタックを所有することにより、オフザシェルフのオペレーティングシステムを購入する他の運営会社と比べて優れた車両の制御性を誇る。

「当社の技術を他社のものと統合する上で、たくさんの課題がありました。他社はコード行を変える必要があるたびに、製造業者に連絡しなければならなかったのです。変更まで1週間もかかります」。NavmaticのCEOで共同設立者のBoaz Mamo(ボアズ・マモ)氏はTechCrunchに語る。

この買収へのSuperpedestrianのソフトウェアファーストのアプローチは、現在会社への投資者の1人であるEdison Partners(エディソン・パートナーズ)のパートナー、Dan Herscovici(ダニエル・エルスコビッチ)氏にとっても魅力的だった。

「スクーター企業による他の買収のほとんどは、市場シェアにとって遊びのようなものです」と彼はいう。「マイクロモビリティ企業が車両を強化するためにIPとテクノロジーに頼ることは滅多にありません」。

エルスコビッチ氏は、Superpedestrianが歩行者の安全と都市の法令遵守の問題を解決するため市場で多くのソリューションを吟味し、自らも技術を開発することを検討していたと話す。製品化までの時間と速く行動する必要性のバランスを取ると、都市の許可を失う恐怖が絶えず頭をよぎる。Navmaticの買収は正しい判断のように見えた。

「マイクロモビリティ分野については3つの大きな顧客層がいると考えています」とエルスコビッチ氏はいう。「まずは利用者。マイクロモビリティ企業は一番に利用者のことを考えますね。彼らをどうやって惹きつけ、乗り続けてもらうか?次に都市や自治体。最後に忘れられがちなのは利用者以外。道路を共有している人達です。業界は安全規則に基づいて利用者の行動を修正する道を模索していて、この買収はその力を解き放つと思います」。

マモ氏は、都市が利用者の移動方法や、優れたインフラ上の決断を下す方法について見識を得る可能性を、ペデストリアン・ディフェンスが切り開くことも指摘している。

ビダーマン氏は、Superpedestrianが2021年約5万台のスクーターを製造しており、12月からすべての新車に新しいテクノロジーを搭載すると述べた。2022年はアップグレードした車両を新規開拓する都市に展開し、同社がすでに営業活動を行う都市の旧モデルと入れ替え始める。

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画像クレジット:Superpedestrian

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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