電動キックボードから始める日本型マイクロモビリティ、“全ての人の移動の自由”を目指すLuupの挑戦

提供:Luup

「日本は豊かだ。だが、50年後、100年後を見据えると、どうだろうか。高齢者が人口の3分の1になったり、人口も1億人を割り、5000万人くらいになってしまうという試算もある。長期的な課題は山積みだ。なので、事業を立ち上げるならば、50年後、100年後に、ちゃんとインフラになっているものを作りたいと思った」(Luup代表取締役社⻑兼CEO、岡井大輝氏)

電動キックボードは近未来的な便利な乗り物としてのハードウェアに注目が集まりがちだが、代表取締役社⻑兼CEOの岡井大輝氏が率いるLuupが目指すのは、その機体を使ったシェアリング事業「LUUP」の提供を通じて、全ての人の移動の自由を実現すること。ユーザーはアプリを使い、事業者が設置した電動キックボードを検索し、利用する。解錠や支払いもアプリで行う。

電動キックボードは今や世界中で注目を浴びている。LimeやBirdといった米大手の事業者が説明するところの「環境に優しい」、「車での移動を減らし渋滞を緩和できる」、「女性でも気軽に乗れる」など、他の乗り物にはない利点があるからだ。だが一方で、事故に関する報道も目立ち、安全性を懸念する声も少なくはない。

現在、日本における「安心で安全」な電動キックボードのシェアリング事業の“あり方”を模索しているLuup。同社は実証実験を重ねることにより、この国に最も適した状態でサービスの提供を開始することを目指している。TechCrunch Japanでは、マイクロモビリティ推進協議会の会長も務める岡井氏に、同社が目指す“日本の移動の未来”について話を聞いた。

Luup代表取締役社⻑兼CEO、岡井大輝氏

Luupが解決したい課題

岡井氏はLuupを創業後、オンデマンドの「介護士版Uber」のような事業を立ち上げていた。数時間だけ働きたい主婦や元看護師らを、必要としている家庭と繋ぐマッチングサービスだ。だが、岡井氏はこの事業を断念。日本の現在の交通の仕組みでは、“人が人の元に行く”C2C事業が成り立たちにくいと考えたからだ。

「『移動のインフラを作りたい』ということが先行しているわけではない。『介護士版Uber』のようなサービスが当然のように成り立つ社会を作りたいと思い、現在の事業に至った」(岡井氏)

移動のインフラを作る上で、なぜ電動キックボードを選んだのか。岡井氏は2018年にベイエリアを訪れた際、いわゆる“ブーム”に乗っかるような若者だけではなく、主婦、女性や、子供の頃にキックボードに乗っていなかったと思われる世代までもが日常的に電動キックボードを利用している姿を目の当たりにし、「これは(日本でも)乗られる」と感じたという。

そんなLuupが目指す「移動のインフラ」とは、既存の公共交通機関と重ならない領域における移動手段だ。岡井氏は「JRが太い動脈を引いてくれたと思っている。その毛細血管を僕たちが作っていく」と説明。そんなLuupにとって、数キロメートル程度の短距離の移動に最適な電動キックボードを使用することは当然の流れだと言えるだろう。

懸念されている安全性に関しても、電動キックボードだからこそ力を発揮できる部分もある。IoTの力により、「事故多発エリアでは機体を停止」、「特定の危険エリアではスピードを遅く」、といった制御が可能だからだ。持続可能な移動インフラに構築を目指すLuupは、官庁はもちろんのこと、地域との会話を何よりも重視している。自治体や地元の警察は、例えば「どこでどれくらいの事故が起きているのか」や、混雑しやすいエリア、時間帯を理解している。ニーズの理解、そしてデータの共有によって、各地域のニーズに応じた、安心で安全なシェアリング事業が成り立つ。

地域と話を進める中、海外のように電動キックボードを街中に無造作に配置するのではなく、駐輪ポートに機体を設置する形でのシェアリング事業展開を求める声が多かった、と岡井氏。日本ではほとんどの国民が駅やバス停、駐車場から、乗り物での移動を始めるため、そのような場所に駐輪ポートを設置するのが現実的と思われる。そして同氏いわく、自動運転の社会実装後も、「ドアからドア」のシームレスな移動の恩恵を、必ずしも“全ての人”が間も無く受けられるとは限らない。そのため、Luupでは自動運転車や電車を降りた後の移動手段を、高齢者や障がいを持つ人たちに提供していきたいと考えている。機体も2輪だけでなく、3輪、4輪、そしてシート付きの4輪も用意。高齢者向けの機体に関しては、常時ブレーキがかかっている状態になっているなど、高齢者による安全な利用を重視した設計になっている。

「高齢者が下り坂を走行する際に(通常の電動キックボードを操作するように)少しづつブレーキをかけるのは不可能だ。握力も少なく、判断も難しい。高齢者向けの機体に関してはIoTにも気を使っており、転倒した時や、あらかじめ家族が設定したエリアから離れた場合は、家族にアラートが飛ぶような形にしようと考えている」(岡井氏)

Luupは11月5日、埼玉県秩父郡横瀬町にある秩父自動車学校にて、住民の高齢者を対象とした電動キックボードの試乗会を実施した。

Luupでは高齢者や障がいのある方の他にも、訪日外国人観光客のサービス利用を想定。人口の都市への集中、そして地方の過疎化は世界中で起こっており、ここ日本も例外ではない。だが一方で、インバウンド訪問者は急増。政府の「明日の日本を支える観光ビジョン」では、2030年までに訪日外国人旅行者数を6000万人に増やすことが目標として掲げられている。その際に、地方を訪れるインバウンド訪問者に、どのような交通手段を提供すべきだろうか。岡井氏は、ピーク時のみ人が流れ込む地方において、バスでは採算が合わず、そもそも「人がいない」地域において、ライドシェアは難しいと考えている。一方、世界中にユーザーがいる電動キックボードであれば、インバウンド訪問者の移動ニーズを満たす事ができるのではないか。

電動キックボードのシェアリング事業、提供開始に向けて

Luupが目指すのは、あくまでも電動のマイクロモビリティによる移動の自由。同社に電動キックボードというハードウェアに対する執着心はないが、その機体を使ったシェアリングサービスを提供開始することで、目標に向け、踏み出す。Luupはこれまで、日本の各地で多くの実証実験を行ってきた。サービスの提供開始に向けて、安心で安全な電動キックボードのシェアリング事業のあり方を模索している最中だ。

ここ日本では、電動キックボードが公道を走るには、ナンバープレート、バックミラー、ウインカー、ヘッドライトなど、国土交通省が定める保安部品を取り付け、原動機付自転車登録をし、免許証を携帯する必要がある。日本の現行規制上では、電動キックボードは原付自転車として扱われるからだ。

法制度の背景もあり、岡井氏は、Luupが日本で電動キックボードのシェアリング事業を展開するには「完全なるローカライゼーション」が必要だと話す。原付としてであれば、「対話なし」に今すぐにでも公道を走れるわけだが、同氏はそれは論外だと言う。サービス提供の開始は「必ず自治体と話をした上で」(岡井氏)。

車道は世界中で同じ規格だが、歩道は市区町村単位で違う。「なので、国ごと、市区町村ごとのローカライゼーションが必要。(電動キックボードの走行が)この街だと車道のみで歩道は不可、この街は車道も不可で自転車レーンは可、みたいなものを市区町村ごとに決めていくべき。そして日本において、課題の中心にあるのは高齢者の移動。高齢者が利用できることがマスト。でなければ、人々にとって協力する理由はない。『楽しいからやろう』は道理として通らない」(岡井氏)

Luupは最近では、事業者が規制官庁の認定を受けた実証を行い、得られた情報やデータをもとに規制の見直しに繋げていく「規制のサンドボックス制度」に認定された実証を、横浜国立大学の常盤台キャンパス内の一部区域で行っている。だが、岡井氏にとってサンドボックス制度は、あくまでもサービス提供に向けた「手段の1つ」。どういう場所では安全か、どういう場所では危険か、実証データを可能な限り多く貯めていき、それをもとに、何がどう、なぜ懸念で、逆になぜ自転車であれば問題ないのか、といった議論を進めていくのが本筋だと同氏は言う。

「座組としては、国家戦略特区もあれば、サンドボックス制度もある。それ以外にも、(道路使用許可をいただいて埼玉県横瀬町での実証実験が終わっているが)、様々な選択肢がある。だが、結果はどれも一緒。ちゃんと実証をし、その上で関係省庁と対話するしかない。それこそが王道。誰かを騙したり別の圧力などで(規制を)緩和したとしても、その後に負が生まれるだけだ」(岡井氏)

長期的なビジョン、目指すは地元と自動車メーカーを繋ぐ架け橋

Luupの運営する事業は、大きく分けて2つ。国内の電動キックボードのシェアリング事業であるLUUPと、ゴルフ場やリゾートホテルなど大きな私有地に多くの機体を卸すB2B事業だ。同社は機体を、自社で日本に合った要件として企画し、工場にOEMで依頼する形で、「自社製造」している。だが、長期的には、製造の部分に関してはメーカーに譲り、オペレーションに特化していく予定だ。

「将来的には、2輪、4輪(の機体)はメーカーが作るべきだと思っている。自治体やメーカーと話を重ね、地元と自動車メーカーを繋ぐ架け橋になりたい。Luupのサービスだったら、『ちゃんと朝、充電されている』、『便利だけど、あまり放置されていない』、『ちょっと危ない運転をするとペナルティで乗れなくなる』など、オペレーション面での“エクセレント”を強みにしていきたい。エクセレントの定義は、地元が求める水準にちゃんと合わせること。それが僕たちの役割だと思っている」(岡井氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。