電気自動車のバッテリー交換サービス拡大に向けENEOSも出資するAmpleが176億円調達

サンフランシスコを拠点とするAmple(アンプル)は、バッテリー交換サービス拡大に向けシリーズCで1億6000万ドル(約176億円)を調達した。電気自動車(EV)の使用方法を全面的に見直したいと考える8年目のスタートアップである同社にとって、これまでで最大のラウンドとなる。

Ampleのアプローチは比較的単純だ。同社のモジュール式バッテリーパックを搭載した車が、Ampleの自動充電ポッドのある場所に行き、消耗したバッテリーをフル充電されたバッテリーと交換する。交換されたバッテリーはポッドの中で充電され、別の車に再装着される。

Ampleのバッテリー交換モデルは一見シンプルだが、同社はEVのバッテリーをまったく別の方法で考えることを提案している。同社はEVのバッテリーを、iPhoneのように充電が必要なものではなく、デジタルカメラのバッテリーのように交換可能なものにしたいと考えている。

米ドルで9桁の資金調達は、投資家が注目していることの表れだ。今回のシリーズCでは、Moore Strategic Venturesがリードし、タイの国営石油・ガス会社であるPTTとDisruptive Innovation Fundが参加した。既存の投資家から、日本の石油・エネルギー会社であるENEOS、シンガポールの公共交通機関であるSMRTも参加した。Ampleの資金調達総額は2億3000万ドル(約253億円)となった。

「我々は、電気自動車に大きな問題があることに気づきました」とAmpleの共同創業者John de Souza(ジョン・デ・スーザ)氏は話す。

業界の対応としては、DC急速充電器のような技術が開発され、充電時間を20~30分に短縮することに成功した。だがデ・スーザ氏は、充電時間の短縮は根本的な問題を解決するものではないという。「急速充電は大量の熱を発生させます。送電網はそれをサポートしていません」と同氏は語る。「仮に5分で充電できるバッテリーができたとしても、非常に強力な充電器が必要ですし、そのためにはあらゆる場所に発電所が必要になります」。

現在、Ampleはフリートに取り組んでいる。ベイエリアでは、Uberのドライバーが参加する5つのバッテリー交換ステーションを運営している。またニューヨークでは、タクシーやラストマイル配送向けEVレンタル会社であるSallyと提携した。だがAmpleは、このバッテリー交換サービスが一般消費者にも適していると考えている。Ampleの共同創業者であるKhaled Hassounah(カレド・ハスナ)氏は、バッテリー交換が、アパートに住む人など、充電設備が整っていない個人消費者にも有効だという。「私たちは、すでに製造されたEVではなく、これから発売される車により力を入れます」と同氏は付け加えた。

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Ample. Ampleの共同創業者であるジョン・デ・スーザ氏とカレド・ハスナ氏

Ampleはモジュール式システムを採用しているため、ドライバーは必要な分だけバッテリーを持ち歩けばよいという。これは、同社にとって、バッテリーの無駄遣いを減らし、車両の重量を減らすことを意味する。

Ampleのビジョンの多くは、自動車メーカーの賛同を得られるかどうかにかかっている。例えば、個人が自動車を購入する際、自動車メーカーは固定式バッテリーか、Ampleのバッテリーシステムを搭載した車両のいずれかを提供することになるとAmpleは想像している。

同社によると、このアプローチは、自動車メーカーと直接連携して10種類の車種で検証しており、いずれも車両の改造を必要とするものではないという。電圧ケーブルや冷却ラインなど、バッテリーと車の間に変更が必要なインターフェースがないわけではないが、実際のEVのアーキテクチャーは思ったよりもシンプルだ。

「自動車メーカーのマーケティング部門は、『これは超高性能バッテリーで、車と非常によく統合されており、切り離すことはできない』と言いたがります」とハスナ氏は話す。「実際のところは、完全に別個に作られています。テスラを含む自動車のすべてのバッテリーがそうです」。

「私たちは、システムをさまざまな車両とのインターフェースが容易になるよう開発し、バッテリーコンポーネントを車両からいわば抜き出しました」と同氏は付け加えた。

現在、Ampleは自動車メーカー5社と提携しており、その中には「世界最大級の自動車メーカーも含まれています」とデ・スーザ氏は話す。「フリートからの需要の高まりは、車の販売に熱心な自動車メーカーとの対話と密接に関係している」と付け加えた。

EVのコストの多くをバッテリーシステムが占めるため、これは魅力的な提案となるだろう。中国の自動車メーカーNio(上海蔚来汽車)は、このアイデアを市場に導入した。同社では、車両にバッテリーがある・なしを選んで購入できるオプションを提供している(後者の場合、Nioはバッテリーをリースする)。リースの場合、車両価格を7万元(約118万円)安くできる。創業者のWilliam Li(ウィリアム・リー)氏は5月「Nioはすでに中国のドライバーのために240万台以上のバッテリーを交換した」と語る。

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今後の展望として、Ampleは純粋に拡大に力を入れている。新しい都市で大規模な顧客と一緒に展開するということだ。興味深いことに、デ・スーザ氏は、EVへの移行を望むが必要な充電インフラがない国の政府から多くの関心が寄せられていると話す。

「問題は、インフラ整備よりも、どうやって走行距離を伸ばし、自動車をより電気的にするかということです」とハスナ氏は語る。「100万台の急速充電器を設置しても、誰も使わないのであれば、何も達成したことにはなりません」。

画像クレジット:Ample

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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