非プログラマーのために開発された機械学習のノーコードプラットフォーム「Obviously AI」、大日本印刷と提携し日本市場開拓戦略も進める

Nirman Dave(ニーマン・デイヴ)氏が起ち上げた2つのスタートアップは、まったく異なるものだが、どちらもDIYの精神を持っている。1つめは、高校卒業後のギャップイヤーに設立したCircuiTricks(サーキットリックス)という会社で、電子工学や物理学を学生に教えるためのキットを作っていた。そして現在、デイヴ氏は、技術的なバックグラウンドを持たない人でも機械学習モデルの構築とトレーニングができる、ノーコードのAI / MLプラットフォーム「Obviously AI(オビアスリー・エーアイ)」の最高経営責任者を務めている。バークレーに拠点を置くこの会社は、シードエクステンションを行い、ラウンドの総額は2カ月前に発表した360万ドル(約4億円)から470万ドル(約5億2000万円)となった。このエクステンションは、ディープテック分野の投資会社である東京大学エッジ・キャピタル・パートナーズ(UTEC)が主導し、Trail Mix Ventures(トレイル・ミックス・ベンチャーズ)とB-Capital(Bキャピタル)が参加した。

UTECのプリンシパルであるKiran Mysore(キラン・マイソール)氏は、AI / MLやコーディングのバックグラウンドを持たない友人が機械学習モデルを構築するのを手伝っていたときに、Product Hunt(プロダクト・ハント)でObviously AIを見つけたと、TechCrunchに語った。Obviously AIを使用し、他のAutoML製品との比較試験を行った後、マイソール氏は非常に感銘を受け、このスタートアップ企業に連絡を取り、投資ラウンドを主導することになったという。

この1年間、ノーコード / ローコードのスタートアップは多くの注目と、そして資金を集めている。Noogata(ヌーガタ)やAbacus(アバカス)などがその代表例だ。デイヴ氏によると、Obviously AIの適所は、データサイエンスチームを持たない中規模企業、あるいはデータ分析の知識はあってもプログラマーではない人たちのチームだという。

関連記事:企業向けノーコードAIプラットフォームのNoogataがシードラウンドで約13億円を調達

Obviously AIは「Edge-Sharp AutoML」と呼ばれる独自の技術を用いて、顧客のニーズに合わせてカスタマイズされた機械学習モデルを構築・教育し、顧客の既存のクラウドサービスやデータベースに統合することができる。同社では、マーケティング、ソフトウェア、ダイレクト・トゥ・コンシューマー、フィンテック、保険会社といった分野を中心に、現在3000社以上の顧客を持っており、Obviously AIのモデルにホストされた8万2000以上の予測モデルが、これらの顧客企業で使われている。

新たに追加調達した今回のシード資金は、アジア市場における事業拡大のために使用される。特に日本では、同社の顧客である国内最大級の印刷会社の大日本印刷(DNP)と提携し、市場開拓戦略を進めていく予定だ。

大日本印刷の研究開発マネージャーである下村剛哉氏は、TechCrunchにメールで次のように語った。「大日本印刷では、マーケティングや営業のための最先端の予測分析が非常に重要です。しかし、現在のツールは非常に複雑で、結果が出るまでに数カ月かかります。我々はObviously AIを使うことで、何人かのアナリストをシームレスに起用することができ、わずか数時間で稼働させることができました」。

デイヴ氏が、Obviously AIの共同設立者で最高技術責任者を務めるTapojit Debnath(タポジット・デブナット)氏と出会ったのは、2人ともハンプシャーカレッジの留学生だった頃のことだ。卒業後、2人はベイエリアのスタートアップ企業でインターンシップを始めた。デイヴ氏は、ライブストリーミング・ソフトウェア・プラットフォームを提供するStreamlabs(ストリームラボ)で、データサイエンスのインターンをしていた。

もともとビデオエンコーディングのアルゴリズムを担当するために採用されたデイヴ氏は、会社のマーケティングやセールスチームのために、機械学習モデルの構築にも多くの時間を費やした。小売業向けソフトウェアのスタートアップ企業であるb8ta(ベータ)で機械学習のインターンをしていたデブナット氏も同様の経験をしていた。

2人は、機械学習エンジニアの人材が不足しており、多くの企業が「市民データアナリスト」、つまりデータサイエンスを理解していてもコーディングの経験がない人に頼っているということに気づいた。

Obviously AIの機械学習モデルによるリポートのユーザーインターフェース(画像クレジット:Obviously AI)

「膨大なデータを扱う仕事をしているけれど、自分自身はプログラマーではない人たちがいます。そのような人たちのために、私たちはこのツールを開発しました。その目標は、データを理解し、そのデータを用いて、何時間も何日も待たずに、ソフトウェアを使って本当に速くモデルを構築できるようにすることです」と、デイヴ氏は語っている。

同氏とデブナット氏は、2018年に仕事を辞めてこのスタートアップに取り組み始めた。家賃代わりにAirbnb(エアビーアンドビー)ホストのために雑用をこなしながら、カリフォルニア大学バークレー校のSkyDeck(スカイデック)アクセラレータプログラムに参加し、投資家への売り込み方を学んだ。

デイヴ氏によれば、多くの自動AI / MLソフトウェアプラットフォームは「データセット上でたくさんの異なるアルゴリズムを総当りで実行し、最もパフォーマンスが高いものを選ぶ」という。例えば、100種類のアルゴリズムを実行してから最もパフォーマンスの高いものを選んだりするわけだが、これでは他のアルゴリズムを自動的に構築するのに費やした時間が無駄になってしまう。

Obviously AIのEdge-Sharp AutoMLが異なる点は、データセットに使用できる特定の機械学習モデル群を調べてから、顧客のニーズに合った上位5つのモデルを自動的に候補として挙げ、それらのハイパーパラメータを自動的にチューニングし、予測結果を返すところだ。

Obviously AIの料金プランは、月額75ドル(約8300円)からとなっている。同社の典型的な顧客は、データサイエンスのチームを持たない中規模企業や、あるいはデータサイエンティストが他の仕事に没頭している大企業の小規模なチームだ。

例えば、インドの小規模な小口金融会社では、15人ほどのチームが、どの申請者に融資をするかを手作業で決めていたが、これをAIモデルに切り替えることに決めた。彼らはObviously AIを使って、申請者が債務不履行に陥る可能性や、どれくらいの金額を融資すべきかを自動的に予測するようにした。現在、この会社のアプリではエンド・ツー・エンドでObviously AIが使われており、顧客は申し込み後すぐに融資を受けられる可能性のある金額を知ることができる。

もう1つのユースケースとして、ドイツのモバイルゲーム会社では、変動料金制を導入しようとしていたが、個々のユーザーがゲーム内トークンのような商品に、どのくらいの金額を支払おうとするかを把握する必要があった。彼らはObviously AIを使って、プレイヤーのゲームへの参加状況からそれを予測している。

Obviously AIが調達したシード資金の一部は、より多くのユースケースに対応するために、機械学習の研究開発に使用される予定だ。デイヴ氏によるとObviously AIは、顧客がデータを持っていて、何を予測すべきかがわかっている教師あり学習のユースケースに焦点を当てているという。一方、教師なし学習のユースケースは、顧客がデータセットを持っているが、何を求めているのか正確にはわからない場合で、機械学習モデルを使って、データに興味深いパターンがあるかどうかを判断するものだ。教師なし学習のアルゴリズムは、eコマース・プラットフォームにおける自動分類やレコメンドエンジンなどに使われる。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Obviously AIノーコード資金調達機械学習大日本印刷(DNP)

画像クレジット:Obviously AI

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(文:Catherine Shu、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

投稿者:

TechCrunch Japan

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