香港のスタートアップエコシステム強化を目指すFoundersHKが最初のデモデーを開催

2年以上におよぶ政治的混乱、および新型コロナウイルスのパンデミックを乗り越えた香港で、FoundersHKは、香港のスタートアップコミュニティを強化するために設立された。イベントおよびメンタリングネットワークとして開始されたFoundersHKは、先日FoundersHK Accelerateの最初のデモデー(香港本拠のスタートアップの資金調達と世界市場への進出を支援するための同社のエクイティフリーのアクセラレータープログラム)を開催した。

さまざまな分野を代表する11のスタートアップ(ペットケア、フィンテック、保険、教育など)がメンターや投資家など約500人の聴衆を相手にプレゼンテーションを行った。これらのスタートアップは、150の応募チームの中からFoundersHKのクリエーターが選択したものだ。FoundersHKのクリエーターには、BEA Systems(2008年に85億ドルでOracleに売却)の共同創業者Alfred Chuang(アルフレッド・チュアン)氏、500 Startupsの前ジェネラルパートナーEdith Yeung(イーディス・ヤン)氏、Homecourt(ホームコート)の共同創業者Philip Lam(フィリップ・ラム)氏などがいる。

FounderHKの目的の1つは、香港のスタートアップエコシステムに希望を取り戻すことだ。その意味をヤン氏に尋ねると、次のような返答が返ってきた。「2019年、私が香港の空港に到着したときには、数千人の若者が抗議のデモを行っていました。私は悲しみに襲われ、この混乱で自分が感じたことを忘れないように写真まで撮りました。香港で生まれ育った人間として、何もせずにただ傍観することはできませんでした。そして、起業家精神を結集して、創業者たちがスタートアップを立ち上げるのをお手伝いするのが、今の香港に貢献する最善の方法だと感じました。そうしてFounderHKが生まれたのです」。

FounderHKの目的の1つは、スタートアップがより多くの資金を調達できるようにすることだ。「香港で活発に活動している多くの投資家たちは香港の地元の会社には投資していません。本当に皮肉な話ですが、香港で生まれたすべてのユニコーン企業は海外から資金を調達していました」とヤン氏はいう。

FoundersHKはスタートアップとメンターとのつながりを形成する。メンターの多くは香港出身で、Facebook(フェイスブック)、Microsoft(マイクロソフト)、LinkedIn、Apple(アップル)、Grab(グラブ)などの大手ベンチャー企業やテック企業に在籍している。FoundersHKは、2019年に最初にイベントを開催したが、パンデミックが発生した後は、教育イベントをオンラインで主催していた。

FoundersHKがエクイティフリーである理由の1つは、まずは香港のスタートアップカルチャーを変えることを重視したいからだ。「香港は利益第一主義の場所なので、FoundersHKが利益優先ではないと聞くと、多くの人が驚きます」とチュアン氏はいう。「私たちが何はさておき修正したいのは人と人のネットワーキングの問題です。人は他の人から学習しますが、香港のスタートアップコミュニティでは人のつながりが薄いため、学習が非常に困難です」。

チュアン氏によると、香港の創業者たちは最初自分がやろうとしていることを話すのを嫌うところがあるものの、ビジネスチャンスを活かそうとする意欲は強いという。「最初の1人が何が最大の問題なのかを話すと、すべての人がそうするようになります。皆が共通の問題を抱えていると認識するからです。そうして多くのチームがつながるようになり、カルチャーに変化が生じます」。

チュアン氏によると、数百のスタートアップがFoundersHKのメンターシッププログラムを終了したという。FoundersHKがこのアクセラレータープログラムを始めた理由の1つは、多くのチームが投資家にアプローチする前にサポートを求めていたからだ。500 Startupsの前ベンチャーパートナーBonnie Cheng(ボニー・チェン)氏はFoundersHKに引き抜かれ、FoundersHK Accelerateの運営を任された。このプログラムでは、参加スタートアップが毎週FounderHKのリーダーたちとチェックインミーティングを開く。また、Sequoia Capital(セコイアキャピタル)、Goldman Sachs(ゴールドマンサックス)、Alibaba(アリババ)、Monks Hill(モンクスヒル)、Matrix Partners(マトリックスパートナーズ)といった企業の社員で構成されるメンターシップネットワークも用意されている。

「香港のスタートアップコミュニティを支援し、どのようなスタートアップがあるのか知りたいと思っている香港出身投資家たちを世界中から集めています」とヤン氏はいう。

この数週間は、デモデーに向けたスタートアップたちの準備に費やされた。また、彼らが自分たちを必要以上に控えめに表現することのないようアドバイスも行われた。これはFoundersHKが推進したいと考えているもう1つのカルチャー面の変化だ。「資金の調達は確かにこのアクセラレーターの大きな目的ですが、本当に重要なのは、スタートアップたちに何をすべきか、つまり、自分たちの魅力とそれをプレゼンする方法を教えることです」とチュアン氏はいう。「我々の仕事の大半はスタートアップと彼らがプレゼンする相手である投資家たちをつなげることです」。

FoundersHKには、スタートアップがしかるべき市場でパートナーを見つけられるよう支援するという仕事もある。香港は小さな市場なので、ほとんどのスタートアップたちは、最初から東南アジア、米国、中国本土などの地域への進出を目論んでいる。

これらの海外市場から100人を超える投資家たちがFoundersHK Accelerateのデモデーに出席した。

「多数の香港スタートアップのプレゼンテーションに世界中から100人もの投資家たちを集めるなどということは、これまでになかったことです」とチュアン氏はいう。「これは初めての試みであり、これが今後のプログラムに繋がっていくことを願っています。立案者はボニーで、我々の目的はこうしたイベントをどんどん増やしていくことです」。

FoundersHK Accelerateのリーダーチームの面々と最初の創業者たち(画像クレジット:FoundersHK)FoundersHKの最初の創業者たち

Sleekflowはソーシャルコマース企業向けに設立されたB2B販売プラットフォームだ。大半のソーシャルコマース販売者は、WhatsAppや他のメッセージングアプリを使って顧客と対話し、取引を成立させる。中央ハブが存在しないため、ソーシャルコマース販売者は多くの面倒な業務を行う必要がある。そのため、コンバージョン率を上げることができる貴重なデータを見逃してしまう。Sleekflowは、企業向けのSaaS販売プラットフォームで、カスタマーフローオートメーション(例えば買い物かごが放置されている場合に値引きを申し出るなど)や分析を行って、販売実績を維持する。Sleekflowには、メッセージングアプリ、ソーシャルメディアネットワーク、Salesforce(セールスフォース)などのCRMソフトウェアが統合されている。Sleekflowは、主に中堅企業向け市場やエンタープライズ向けだが、チャネルパートナーと協力して、海外展開を計画している。

DimOrderは「レストラン管理用スーパーアプリ」で、現在、香港の5%のレストランで使用されているという。共同創業者のBen Wong(ベン・ウォン)氏は、レストラン経営者の家族の出で、業務に費やす労働量を削減すると同時に利益を増やすソリューションを開発したかったと話す。DimOrderのフロントエンドには、注文、香港中の物流業者との統合による配達、およびマーケティングツールが配置されている。バックエンドでは、仕入れ、支払い、分析を処理する。DimOrderは、来年には、香港の108の学校向けに集中調理施設と学校給食の注文機能をフロントエンドに追加し、運転資金貸付、在庫管理、人事システムをバックエンドに追加する予定だ。来年は東南アジアに事業拡大する。

Spaceshipは、分断化した国際宅配便、特急便、小包サービス市場に特化した物流プラットフォームで、すでに10万人を超える利用者がいる。Spaceshipを利用することで、販売業者は、各物流プロバイダーの比較、出荷荷物の内容の宣言、出荷日時の選択、支払いを行い、出荷元から配達先まで荷物を追跡できる。また、消費者向けに、物流の予約、移転、引っ越しサービスも提供しており、マーケットプレイスやトラベルプランニングなどの分野でもサービスを立ち上げる予定だ。今後は、まず台湾に事業を拡大し、その後、シンガポール、タイ、日本などの市場にも参入する計画だ。

FindRecruiterは、企業が従来の方法よりも極めて迅速に人材を見つけられるよう支援する報奨金ベースの求人プラットフォームだ。共同創業者のLawton Lai(ロートン・ライ)氏は10年間採用担当者として実績を積んだ後、このスタートアップを立ち上げた。同氏によると、現在、空いたポジションを求人で埋めるのに52日くらいはかかるという。FindRecruiterは、アジア6か国に配置された各専門分野の500人を超えるオンデマンドの採用担当者と連係することで、この期間を約17日に短縮する。FindRecruiterでは、求人を掲載し、分野、専門知識、ニーズに基づいて求人側とリクルーターをマッチングする。FindRecruiterによると、同社のリクルーターは手数料で従来の25%以上を稼ぎ、毎月の売り込み電話に要する時間を30時間節約できるという。クライアントには、さまざまなスタートアップユニコーン企業と優良企業がいる。

PowerArenaは、製造作業を監視するためのディープラーニング分析プラットフォームだ。現時点では、主に電子および自動車分野を対象としており、Wistron(ウィストロン)やJabil(ジャビル)などの顧客がいる。多数のオートメーションマシンが稼働している製造フロアでさえ、72%以上の作業が今でも手作業で行われている、とPowerArenaの創業者たちはいう。製造業者がPowerArenaを使うには、画素数1080pのカメラを設置し、プラットフォームに接続してリアルタイム分析を行う。例えば製造プロセスで急に製造速度が低下した場合、PowerArenaは原因(工場の一部でメインテナンスが実施されているなど)を突き止めることができる。

WadaBentoは、人通りの多い地域に自動販売機を設置することで、レストランの業務拡張と利益向上を支援する。これまでに、香港で14万個の弁当を販売している。業務拡張を目指すレストランには通常、新規店を開くか配達アプリを導入するという2つの方法があるが、どちらもコストが高い。WadaBentoは、レストランが用意したランチボックスを回収して、同社の特許取得済みの自動販売機に入れる。食品は、配達中も自動販売機内でも65度以上に保たれ、衛生状態もIoTデバイスで監視される。WadaBentoは日本、米国、中国で特許を取得し、最近、香港最大の食料品チェーンと契約を結んだ。また、最初の海外市場である日本にも自動販売機を出荷した。2022年上半期までに、200台以上の販売機を設置する計画だ。

Retykleは、妊婦服や子ども服の再販売を容易に行えるようにして、衣服の無駄を削減したいと考えている。LVMHなどの高級ファッションブランドで10年間経験を積んだ創業者のSarah Garner(サラ・ガーナー)氏によると、子どもたちは、成長して18歳になるまでに平均で1700着の衣服が着られなくなるという。しかし、中古市場に流れてくる子ども服は5%ほどしかない。Retykleの目的は、できるだけ多くのアイテムが循環する状態を維持することだ。Retykleは、赤ん坊から10代半ばまでのアイテムを用意している。すべてのアイテムは委託販売される。売り手がRetykleに送った衣服は、すべてチェックされてからサイトに掲載される。アイテムが売れると、ユーザーにはメールで通知され、現金または口座振替で代金が支払われる。Retykleは来月シンガポールに、2022年にはオーストラリアに進出する計画だ。

Preface Codingは、拡張可能だがカスタマイズ可能なコーディングのクラスを提供するテック教育プラットフォームだ。生徒は先生をオンデマンドで予約できる。バーチャルでも対面でもクラスを受講できる。このプラットフォームで先生のトレーニングも可能で、ほとんどのクラスはマンツーマンで行われる。生徒は、3~15歳の子ども、大学生(特に米国やオーストラリアのアジア人留学生)、金融、マネージメント、コンサルティング業界の上級プロフェッショナルまで多岐にわたる。大学や銀行とも提携しており、今後世界中に事業展開していく計画だ。

ZumVetは、動画による獣医相談、自宅訪問、薬の配達(薬の処方と自宅での診断テストを含む)を提供するペットケアスタートアップだ。共同創業者のAthena Lee(アテナ・リー)氏によると、かかりつけの獣医のいない、または動物病院の少ない地域に住んでいるペットオーナー向けにZumVetを創業したという。獣医は、相談を受け、治療計画を作成し、遠隔からのサポートや往診も行う。Zumvetは開業獣医のネットワークを活用しており、ペットケア費用を安くするためにサブスクリプションプランも提供している。

Big Bang Academyは、STEAM(科学・技術・工学・芸術・数学)教育への需要の高まりに応え、子どもたちにとって学習を「映画のように魅力的で、テーマパークのように楽しく、授業のように教育的な」ものにするために創業された。その公認カリキュラムには、各生徒向けの動画、個別レッスン計画が含まれる。また子どもたちの自宅に届けられる実験キットを使った手作業によるアプローチも行われている。現在、200の対話型セッションが用意されており、コース修了率は70%とEdTechプラットフォームとしては高い数字を残している。ビジネスモデルとしては教育機関と提携したB2B、およびB2Cサブスクリプションモデルがあり、顧客の80%は繰り返し受講している。また、コンテンツの多様化と学習用おもちゃの開発も計画している。

YAS Microinsuranceは、わずか5秒でポリシーを有効化できるインシュアテックスタートアップだ。補償範囲には、ランニング、自転車、ハイキングなどでの事故も含まれる。最近、香港最大の公共バス会社の1つKowloon Motor Busと初めて提携し、乗客の持ち物の紛失や盗難、事故発生時の医療費などを補償の対象としている。創業から4カ月で80万ドル(約8950万円)の確定収益を達成している。この2カ月間で約6,300のポリシーが有効化されており、現在も毎週約600のポリシーが新たに有効化されている。

画像クレジット:guowei ying / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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