高騰で注目高まるEthereumの仮想通貨、日本で売買所、取引所の開設が相次ぐ

ether

パブリックブロックチェーンEthereumの仮想通貨Ether(略称ETH)を扱う売買所と取引所が日本国内で相次いで登場した。Etherは2015年末から2016年3月にかけて価格が暴騰、ピーク時には時価総額11億ドルを越え(2016年3月13日時点)、ビットコインに次ぐ時価総額第2位の仮想通貨として注目が高まっていた。

bitFlyerが取引サービスをオープン

2016年4月15日、bitFlyerはプロ投資家向けビットコイン取引所「bitFlyer Lightning」においてEther取引サービスのベータ版をオープンした。同社では確認書類の提出状況により複数の利用条件を設定しているが、Ether取引サービスを利用するには個人の場合「ビジネスクラス」(銀行認証と運転免許証またはパスポートの提出)以上、法人の場合「コーポレート1」(登記簿、銀行認証を含む法人確認書類)以上である必要がある。

今までも、日本にいながらEtherを取引する手段はあった。サンフランシスコに本社を置くビットコイン取引所のKrakenでは日本語メニューを使いEther取引が可能だった。他の海外の取引所に口座を作り、ビットコイン、Ether、その他の仮想通貨(いわゆるオルトコイン)の取引を手がけていた日本の投資家もいる。こうしたやり方と、bitFlyerとは何が違うのかを聞いてみた。

bitFlyerでは、海外企業ではなく同社でEtherを取引するメリットとして(1)日本人によるユーザーサポートが受けられること、(2)各種キャンペーンを随時実施していること、それに加えて(3)プロ投資家向けツール(各種オシレータ、損益計算、ニュースやIF DONE、STOPオーダー、トレールオーダなどの複雑注文)を活用できることを挙げている。さらに同社は日本における現時点での法解釈に従い、仮想通貨の価格に消費税を織り込んで運営していることから、海外の取引所を使う場合に比べて追加の消費税課税が発生するリスクがないこともメリットとして挙げている。なお、Ether以外の仮想通貨(オルトコイン)の取り扱いも「要望に応じて増やしていく」としている。

coincheckの売買所は半月で取扱高1億3000万円に

今回の取引サービスの開設に先駆け、日本市場でEtherを売っていた会社がある。

レジュプレスが運営するビットコイン取引所のcoincheckでは、2016年3月14日よりEtherの売買を開始している。3月中の売買取扱高は約1億3000万円とのことだ。ユーザーどうしが仮想通貨を取引する「取引所」ではなく、運営会社自らが仮想通貨を売り買いする「売買所」の形態を採った理由として「そもそもEtherは日本でほとんど流通していなかったので取引所は成立しにくい。そこで、まず当社が日本にEtherを持ち込む形とした」(レジュプレス取締役COO大塚雄介氏)と説明している。スマートフォンアプリから売買でき、クレジットカードを使える利便性がある。米ドルおよびユーロによる売買も可能だ。同社はEtherの「取引所」も近々オープンする予定だ。

仮想通貨で資金調達したEthereumプロジェクト

仮想通貨Etherは、初期段階ではEthereumプロジェクトの資金調達手段だった。Ethereumプロジェクトは2014年7月に仮想通貨Etherをビットコイン建てで販売するクラウドセール(仮想通貨販売による資金調達)を実施、1850万ドル相当(約20億円相当)を調達。当初の売り出し価格はドル換算で約0.3ドル/ETHだった。

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Etherの価格推移(価格はビットコイン=BTC建て)。2016年に入って急上昇し、3月13日にピークに達した。

このEtherの価格は、2015年末時点では0.91ドル/ETCだったが、2016年に入ってから急上昇が続き3月13日には14.2ドル/ETHの値を付けた。クラウドセール時の47倍まで暴騰した形となる。Ether以外の仮想通貨も同時期に上昇、「オルトコイン」全般への注目も高まった(価格はCrypto-Currency Market Capitalizationsによる)。

スマートコントラクトの「ガソリン」代が上がる懸念も

Etherにはスマートコントラクトの「ガソリン代」を払う通貨としての意味もある。ブロックチェーンEthereumはスマートコントラクトの基盤として名乗りを上げた。スマートコントラクトとは、契約内容を記述したプログラムをブロックチェーン上に記録して改ざん不能とし、自動執行するものだ。金融分野のデリバティブ取引(関連記事)、シェアリングエコノミー(例えばSlock.it)などスマートコントラクト活用のアイデアは多数登場し、多くのチームが取り組みを進めている。仮想通貨Etherの目的の一つが、このスマートコントラクトの「ガソリン」、すなわちプログラム実行への計算リソース割り当てに対する料金支払いの手段になることだ。

スマートコントラクト基盤としてEthereumに取り組む立場から見ると、Etherの高騰には良い側面と懸念すべき側面がある。良い側面は、Ether高騰によりEthereumプロジェクト(Ethereum Foundation)の財務状況が良くなり、Ethereum関連ソフトウェアの開発の資金が潤沢になることがある。懸念すべき側面は、スマートコントラクトの実行に支払う料金がEther建てなので、料金が上がってしまうのではないかということだ。金融、証券分野に向けたブロックチェーン実証実験を多数手がけているカレンシーポートCEOの杉井靖典氏は「スマートコントラクトを使いたい人にとってはEtherの高騰は嬉しくない」と話している。

Ethereumの事業推進を進める日本のスタートアップ、スマートコントラクトジャパン創設者の佐藤智陽氏は「Etherの上昇は、Ethereum Foundationの財務状況が良くなり、Walletなどソフトウェアプロダクトの開発の加速にも繋がるため、良い要因だ」と話す。懸念点については「Ethereum上でプログラムを動かす料金は『Gas Price × Gas』 で決まる。Gasはプロトコルで定められているが、Gas Priceはマイナー(ブロックチェーン採掘者)が設定できる。Etherの価格が上昇すればGas Priceを下げることができるので、Ether上昇は必ずしも料金上昇につながらない」と話している。実際、Etherが暴騰した2016年3月以降、Ether建ての平均Gas Priceは下降傾向にある。ただし、ドル換算した平均Gas Priceは、2015年末と2016年4月13日時点を比較すると3.46倍に上昇している(グラフの数値に基づき計算)。今後の変動を見守る必要はありそうだ。

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スマートコントラクトの料金であるGas Price平均価格(単位はG(ギガ)Wei、WeiはEther×10のマイナス18乗)の推移。Ether価格高騰の後で価格は半減しているが、Ether高騰のあおりでドル換算では3倍以上の価格となった。

Ethereumは、複数の技術が競い合うブロックチェーン界にあって、大きな注目と才能を集めるプロジェクトでもある。前出の佐藤氏は「Ethereumは、非営利のEthereum Foundationとオープンソースのプラットフォーム、そしてDecentralization(分権化)を念頭においたプロトコルを、発明者のVitalik Buterinを筆頭に何千人もの開発者が作っている。他に類がないプロジェクトだ」と話す。特に、今後の登場が予告されているEthereumの将来版“Serenity“では「シャーディングや並列処理などスケーラビリティへの配慮、ゼロ知識証明プロトコルの組み込みなどプライバシーへの配慮が設計に盛り込まれている」(佐藤氏)。

Etherが暴騰した時期はちょうど現行版の”Homestead”リリースの登場と重なっている。今後のEtherの価格にも、Ethereumへの注目度、期待度が織り込まれることになるはずだ。

最後に大事な話を。Etherの価格はビットコイン以上に振れ幅が大きく、投資家にとっても価格変動の予測が非常に難しいようだ。Etherの価格は3月13日にピーク価格を記録した後、暴落が続く局面もあった。短期的な価格の振れ幅の大きさを楽しみたい人や、Ethereumの未来への長期的な投資をしたいと考える人にとってEtherは魅力的に見えるかもしれないが、リスクもまた大きいことをお忘れなく。

投稿者:

TechCrunch Japan

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