黒人創設者に投資せずにチャンスを逃す投資家たち

本稿の著者Craig Lewis(ジョセフ・ヘラー)氏は契約社員向けに開発されたシンプルなフィンテック給与計算プラットフォームであるGig Wageの創設者兼CEO。

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黒人である私は、米国でとても苦労している。テクノロジー業界では特に珍しい黒人創設者として、まったく勝ち目のない戦いを強いられている。

ベンチャーキャピタルからの資金が1%に満たない投資先には、制度化されたシステムの影響が重くのしかかる。私は起業家として活動してきたこれまでの約10年間で、成功した分だけ挫折や失敗を経験してきた。

黒人の起業家コミュニティを苦しめている格差にも耐えながらも、私は前進してきた。資金を調達しにくい中で最小限の資本とチャンスを確保しながら、黒人は存在感を示し、力強く前進している。

ハンデを負いながらも、自分のベンチャー事業に1300万ドル(約14億円)近くの資金を意欲的に調達したCEOとして思うことは、黒人の創設者が損をしているわけではないということだ。むしろ、力強く前進する黒人創設者を過小評価していることに気づかず、儲け損なっている投資家が損をしているのだ。

ベンチャーキャピタルとテクノロジーの融合(つまりこの2つをどのように機能させるか)をエンジニアリングの視点から考えると、答えにたどり着く。開発者やプログラマーになりたい人は通常、特定の学校やカレッジに進学することで、成功への階段を上り始める。

多くの黒人学生(特に男子学生)は以前から、高等教育を受けるためにスポーツに打ち込んでいる。テクノロジーに関する能力を教育機関に認めてもらう必要はあまりない。

黒人学生の両親やコミュニティは、スポーツに打ち込むことを後押しする。これまでの歴史で作り上げられた固定観念があるため、成功への道がそれしかないと思い込んでいる。学生がテクノロジーの世界へつながるレールに乗らなければ、つまり、多くのテクノロジー企業の創設者を輩出しているCal Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)、Stanford(スタンフォード大学)、Harvard(ハーバード大学)などに進学できなければ、すぐに「輪」の外に追いやられてしまう。これが、テクノロジー業界の黒人創設者にとって第一関門となり、その後もさまざまな障害を乗り越えなくてはいけない。

しかし私は、このような「障害」が黒人創設者の行く手を阻む壁ではなく、非常に大きな力を発揮するための重要なきっかけであると言いたい。

私の家族に起業家がおらず、一流大学についての情報を得る方法もなかったのは事実だ。良い成績を収め、特待生として卒業したにもかかわらず、Ivy League(アイビーリーグ)の教育が非常に価値のあるものであるということをまったく知らなかった。

私のスキルと成績があれば、全額支給奨学金のオファーがあったYale(エール大学)、Brown(ブラウン大学)、Columbia(コロンビア大学)、Southern Methodist(サザン・メソジスト大学)のような大学で、バスケットボールのスター選手としてプレーし、卒業することもできたかもしれない。しかし、それが可能であることも知らず、アイビーリーグの「輪」の中にいるメリットに関する知識もなかったため、私はそうしなかった。

私が大学で過ごした2000年から2004年の間に、多くのすばらしい企業がエリート校で創立された。私を含む多くの黒人学生に対して情報が遮断されるという傾向により、黒人学生の全体的な視野が形成され、それが見えない障壁となった。

その見えない障壁を突き破り、ぶれることなくハンデを克服し粘り強く前に進みつつ、私が対峙してきたような投資家や、私が創立したのと同じような会社と対話を続けるためには、黒人としての経験でのみ培える異次元の存在感が必要だ。黒人創設者は2021年以降、資金調達やテクノロジー企業を成功に導くためにその力を認識するだけでなく、解き放つ必要がある。投資家、ベンチャーキャピタリスト、起業家のエコシステム全体がそうしたことに留意することは賢明なことであり、非常に有益なことだ。

黒人創設者は発想を転換し続けることが必要だが、以下の5つの方法を実践しなければそれを実現することはできない。

黒人創設者のみなさん、資金調達の効果は忘れよう

黒人創設者(特にテクノロジー業界)には、資金不足を強調する屈辱的な統計が引き合いに出され「適切な方法で」資金を調達するためにワンパターンの台本が準備されている。ほぼ自動的にそのようなアプローチが採用されるようだ。そして、投資家のプレイブックとルールに従って投資家から資金を調達することを意図した、型にはまった起業家になろうとしている。

黒人創設者はこれに見合った資金調達策として、社会が押し付けることを黙って受け入れている。自分が交渉権を握っていることに多くの場合気づかず、自分のスタートアップの命運を投資家に委ね、媚びている。投資家が用意したこのようなプレイブックでは、黒人創設者になんの利益もない。今日からは自分自身の力を引き出すべきだ。

圧倒的な力を身につけ、専門知識を生かす

プレイブックは脇に置き、自分の専門性と独自性をもっと信じなければならない。

数年前、Mark Cuban(マーク・キューバン)氏がDallas Startup Week(ダラス・スタートアップウィーク)で基調講演を行い、成功への道のりを語った。同氏の主な主張の1つは「自分のビジネスを知り、自分のビジネスの短所に気づく」ことだった。とてもシンプルながらも、非常にインパクトのある内容だった。

私はキャリアを歩み始めて間もなく、スタートアップ企業で働いていた経験からベンチャーキャピタルについて学んだ。この分野を知り尽くしていたわけではなかったが、数年後に自分の会社のために資金を調達する際に、そこで得た若干の知識を参考にした。ベンチャーキャピタルとの取引には制限があったが、自分の経歴と専門知識(当時は給与計算テクノロジーの営業職)には自信があったので、自分の権利を堂々と主張するために交渉の席についた。

ベンチャーキャピタルは70億ドル(約7500億円)で会社を売却したり、350億ドル(約3兆7000億円)のAUM(運用資産)を持っていたりするかもしれないが、給与計算や給与計算テクノロジーには私ほど精通していないことを知っていた。このような強いマインドセットがあったからこそ、投資家に媚びるのではなく、投資家に向き合うようになり、対等な立場で交渉することができた。

すばらしい目標を共有する

人とのつながりや、ビジネスに必要な資金調達に至るすべての過程で、私はテクノロジー業界の黒人創設者として不当な扱いを何度も受けてきた。同じテーブルにつく人たちの中でも、世界観、政治的志向、宗教観など、不和の種となるものは数多くあるが、目の前のすばらしいビジネスチャンスに関与するという共通の目標を、関係する全員で共有することが何よりも大切だ。

そうすることで、ベンチャーキャピタリストが私個人や多様性を歓迎しているかを過剰に意識しないようにすることができた。起業家としての意欲的な気概を見せ、私の長所である黒人としての輝きに意識を向けることで、投資したいと投資家に思わせることができた。一言で言えば、情熱をもって意欲的に利益を上げようとする創設者に資金を提供したいと、投資家は思っている。あなたをあるがままに評価してくれる投資家を見つけよう。

できるだけ多くの投資家と会う

黒人創設者は、投資家と十分に向き合っていない。ベンチャーキャピタル界は総じて、黒人創設者のコミュニティを軽んじており、包括的なネットワークを拡大することができていない。現在マイノリティは、ベンチャーキャピタル業界にほとんど進出できていない。投資パートナーの80%は白人が占め、黒人(アフリカ系米国人)の割合はわずか3%に過ぎない。

黒人起業家はそれでも前に進み、表舞台に上がらなければならない。起業家が資金を調達する段階で顔を合わせる投資家は非常に多いため、機会を逸するたびに振り回されていてはならない。

現実的なことを言えば、資金調達には時間がかかる。見込みがある多くの投資家と話をすることで、私は現在の会社のために1300万ドル(約14億円)近くを調達できた。黒人創設者であれば資金調達にはさらに時間がかかり、もっと多くの人と会わなければならないだろう。ここで私は「障壁を乗り越え、ベンチャーキャピタルの関心を集めるのに十分な期間持ちこたえるための持久力があるか」と問いたい。貧富の格差を考えると、答えは「ノー」だろう。

Gig Wage(ギグウェイジ)の起業に乗り出した当初、投資家からの質問で一番多かったのは「どのくらい準備が整っているか?」だった。私は「目的を達成するまでの準備が整っている」と答える。そうすると投資家はもっと具体的に「銀行にはどのくらいの資金があるのか?あなたの奥さんは、このプロジェクトをいつまで続けさせてくれるのか?」と聞き直す。そして私は「銀行の残高がいくらかは関係ない、目的を達成するまで続けるつもりだ」と答える。

投資家は口には出さないが、資金調達のプロセスを持ちこたえるだけの経済的な能力と体力が私にはないだろうということを差別的に予想しており、このことに私は何度も大きく落胆した。銀行口座を見せれば、おおよそ9カ月から12カ月分程度の準備資金があったからだ。

黒人がベンチャーキャピタルから調達できる資金が1%にも満たないのは、米国社会の根強い人種差別が起業家のエコシステムにも影響しているからだ。それでも私は、これまで多くの投資家と面会を重ねてきた。絶対に成功するという意欲的な信念を持って耐えてきた。もう一度いうが、これが黒人の強さだ。

強靱さを備え、自分自身の力を発揮する

私は黒人男性として、米国の他の黒人男性と同じように、困難に耐えることで強靱さを培ってきた。警察への対応であろうと、麻薬、暴力、貧困で家族が苦しむ様子を目の当たりにすることであろうと耐えてきた。「投資家の会議や条件規定書を怖がる必要があるものか」とよく考える。私はもっとひどい仕打ちを米国の社会で受けてきた。

黒人創設者は強靱さを備え、自分の経験から得た力を活用する必要がある。そこから生まれる勝利を得るためのメンタリティは、ベンチャーキャピタリストに投資したいと思わせる類のメンタリティである。投資をしないで損をするのは、間違いなくベンチャーキャピタリストだ。

投資に値するのは「私はこの世界で不利な状況ではあるが、やめるつもりはない。柔軟に対応していくつもりだ。たとえ大変な状況でもそうする方法を考え出すのだ」という不屈の集中力を備えた人物だ。そのような人が画期的なビジネスアイデアを持っているとは限らないが、一般的に黒人には情熱があり、他の人が持っていない視点で物事を見ることができる。これは、ベンチャーキャピタリストが見落としている無限の可能性だ。

だからこそ2021年以降、特にテクノロジー業界の黒人創設者は、パラダイムを転換し、起業家のコミュニティで存在感を発揮し、力を取り戻し、黒人として最大限に輝くことで活動し続ける必要がある。チャンスを逃しているのは投資家であって、創設者ではない。遠慮する必要はない。勇気を持って大胆に行こう。

私自身が今できる一番良いことは、話題を提供し続け、格差を浮き彫りにし、黒人の起業家や専門家として成功して、世界全体のために貢献し続けることだ。力を保ち続け、先駆者として黒人の存在感を引き出していくことに尽力していきたい。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:アメリカGig Wageコラム

画像クレジット:Nuthawut Somsuk / Getty Images

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(文:Craig Lewis、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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