10周年を迎えるAmazon Kindle

10年前の今週、Amazonは最初のKindleをリリースした。それは、扱いにくい物理キーボードと250MBのオンボードストレージを備えた、巨大で不格好で醜い代物で、さらに399ドルという高額なものだった。だがそれは6時間未満で完売し、次の4月までそのような状態が続いた。アマゾンは、本当に何かを引き当てたように見えた。

最初のKindleがリリースされてからの10年は、出版業界にとって荒れ狂う日々となった。かつては地元の書店の脅威となり、メグ・ライアンのロマンティック・コメディーの元ネタともなった、Barnes&Nobleは、順次閉店している。一方、Bordersは完全に閉店した。そして、大手出版社たちは徐々に統合された

AmazonはKindleが展開し始めたときに、すでに支配的な道を歩んでいたが、同社の電子書籍リーダーの急激な成功は、出版界に対するAmazonの締め付けを強化しただけだった。最近の報告によればAmazonは電子書籍の売上の80%以上を占めている

電子書籍リーダーの登場は、当初私たちの知る物理的書籍の終焉の始まりかと思われた。かつて見られたような、今もなお業界に余韻を残すNapsterのような初期のP2Pサービスの影響の影響を受けた、不況の音楽業界との類似性を思い出さずにはいられなかったのだ。

物理的な書籍の売り上げは、年を追うごとに急速にかつ着実に落ちていった。Nielsen Bookscanによれば、2011年と2012年の両方で、印刷された書籍の売上高はそれぞれ9%減少したが、デジタルの売り上げは増加した。2010年までに、Amazonはハードカバーよりも多くの電子書籍を販売するようになっていた、その前の2年間で電子書籍の売り上げはし1260%という驚異的な伸びを示した

もちろん、物事は決して単純なものではない。2009年に紙の書籍が死んだと宣言した同じ勢力の多くが、今は同じことを電子書籍リーダーに対して言っている。最近紙の書籍の売り上げが復活しつつあるからだ。そして実際に、電子書籍の売り上げは少しばかり減少している。CNNは素早く紙の書籍の復活を宣言し、印刷を宣言し、ガーディアンの記事は電子書籍リーダーを、過ぎ去った技術的流行の「不格好で流行遅れな」遺物として取り上げた。

マーケットも痩せている。かつてはトッププレイヤーの地位を占めたSonyは電子書籍リーダー市場から完全に撤退し、Barnes & Nobleもそれに続くかのように見えた。(しかし、実はそうではないのかもしれない。正直なところ、Barnes & Nobleで何が起こっているのかを誰か知っているだろうか?)。

数人のプレイヤーたちは、まだ熱心にプレーを続けている。特に目立のはKoboだ。これはCoke(Kindle)に対抗するRC Colaのような位置付けだ。しかし、他の多くの分野と同様に、Amazonは相変わらず支配的だ。かつてiPodがそうだったように、Kidleはこのカテゴリーの同義語になったのだ。フライトアテンダントが離陸時に、機器の名前を呼ぶことによって、それを理解することになる。

先月行われた新しいKindle Oasisのリリースによって、同社はこの分野へのコミットメントを再確認し、このカテゴリーの終焉に関する噂に対処するためのいくつかの数字を発表する機会を与えられた。同社が報道資料で指摘しているように、このときのPrime Dayは米国だけではなく世界でもKindleの販売は史上最高の日となった。もちろん、何かを「史上最高のもの」と呼ぶことと、実際の売上高を開示することとは同じではない。そして会社にとって有利な数字を見せられるときを除いて、同社は実際のデータを何も公開しないのだ。なのでその解釈は読者自身にお任せする。

もう1つのKindleの主要な資産がKindle Direct Publishingであり、これは電子書籍リーダーと同じ年に導入された。それは、出版業界に向けて放たれた別の矢であり、書き手たちに拒絶レターや持ち込み原稿の山を回避できるプラットフォームを提供し、彼らの物語やアイデアを世界に広める機会を与えたのだ。

例えば、Hugh HoweyはKindle Directを用いて、彼のディストピア小説Woolシリーズを出版した。そして数年前には彼の作品がほぼ毎月6桁の収入をもたらしてくれていると語っている。Howeyが自分の電子書籍の権利を自分で持つことができたことで、大きな収入につながっているのだ。そして後に大ヒット映画オデッセイとなった小説は、当初著者のAndy WeirがKindle Directを使って書籍を99セントでダウンロードできるようにしたときに注目を集めた。

Kindle Directの大半のタイトルが、HoweyやWeirレベルの成功を見ることはないと考える方がおそらく安全だ。しかし、旧来の紙の書籍著者たちの大部分も、スティーブン・キングやJ.K.ローリング程の売り上げを達成してはいないのだ。

この分野は近年爆発的に成長している。2010年から2015年の間だけで、ISBN登録件数は15万2978件から37万7125件へと375%も増加した。(AmazonのCreateSpaceのアカウントはその成長の大部分を占めているが、そこにはKindle Directの数は含まれていない、なぜならそこでは著者はISBNなしで公開することができるからだ)。実際、小規模な出版社や独立した著者による電子書籍販売の成長は、より大きなプレーヤーたちの減少を埋め合わせるような形で進んでいる。

このフォーマットは、自費出版にまとわりついていた旧来の悪いイメージを捨て去ることにも成功した、これはライバルであるMacmillaのPronounが閉鎖を余儀なくされる一方で、AmazonがKindle Singlesプログラムで厳選されたトップライターたちを採用したからだ

おそらく、これはより大きな問題を浮かび上がらせることになるだろう。出版は、その初期からAmazonのDNAの中心に存在してきたが、その他の膨大なカテゴリーを扱うようになったことで、会社は巨大組織と化している。Kindleの発売以降Amazonは、オーディオブックの大手AudibleデジタルコミックストアのComixology、そしてそして読書人のための人気あるソーシャルネットワークであるGoodreadsを買収してきた。

そして出版社や書店が、技術専門家たちが当初予測していたよりも、耐久力があることが分かったとしても、定期的に起こる紛争によって、Amazonを悪人またはいじめっ子として名指しすることは、ますます容易になって来ている(しかし、Appleは、Amazonの価格設定力を弱めるための、出版社たちとの協力に対して多大な対価を支払った)。

ビジネスがこの先どこへ向かうかに関わらず、私たちの変わりゆく「本とは何か」に対する認識の中で、Kindleは自身をその最大の功労者として位置づけることになるだろう。電子書籍は読書の真の未来ではないかもしれないが、既に何百万人もの人びとにとって、書かれた言葉に触れるための主要な手段となっている。

おそらく、「書籍」は書店や図書館にその居場所を見出し、この先も私たちの生きている間は、物理的な棚の上に印刷された書物が並び続けるだろう。しかし、「書籍」はまた、私たちのコンピューター、私たちの電話、そして私たちのKindleの中にも存在して行くのだ。

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(翻訳:Sako)

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TechCrunch Japan

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