1000円ですごいVRを体験できるハコスコ――ANRIが出資、博報堂と提携

 

FacebookのOculus VR買収以降、VR(仮想現実)を取り扱うプロダクトに今まで以上の注目が集まるようになった。同社のOculus Riftもそうだし、Oculusと同じく南カリフォルニア大学の混成現実研究所から生まれたSurviosもそう。サムスンはGalaxy Note 4をセットして使う「Samsung Gear VR」を発表しているし、日本でもFOVEのような製品が登場している。Kickstarterなんかを見るとまだまだ新しいプロダクトは登場しそうだ。

これらの製品の幾つかは僕も体験したことがあって、そのリアルさには驚かされた。Oculusをセットし、イヤフォンをつけてジェットコースターの映像を流すと、急降下のタイミングで思わず叫び声が出そうになってしまった。

ただこれらの製品、まだまだ日本では買えなかったり、買えてもそれなりのお値段だったりと、普及という点では難しい。VRをマーケティングに使いたいなんて声は聞くが、実際に端末を配るわけにも行かず、展示会などでは複数の端末を並べるも、「30分待ちのアトラクション」のようにみんなが順番を待って利用しなければならない。

そんな経験をスマートフォンとたった1000円のキットで実現してくれるのがハコスコの手掛ける「ハコスコ」だ。

プロダクトの素材はダンボール

ハコスコの素材はなんとダンボール。それにレンズが1枚付いているだけというシンプルなもの。折りたたまれた状態で販売されているので、利用するにはダンボールを組み立て、レンズをはめればOK。5分とかからずに完成する。完成したハコスコのスリットに対応アプリ(パノラマ写真、動画、CGなど)を立ち上げたスマートフォンを挿入すれば、VRコンテンツを体験できる。

単眼と二眼(視差を利用した立体視に対応)、スマートフォンのサイズに合わせて複数のバージョンが用意されている。それに加えてダンボール製ということで、ユーザーがいろいろとカスタマイズして使っているそうだ。なお、現在はより簡単なしくみで、かつ視野角の確保できる単眼モデルに注力している。

ほかのVR関連プロダクトを幾つか体験してきた僕なので、正直「ダンボールとスマホだけではたしてどんな体験ができるのか?」と思っていたのだけれど、いざ使ってみるとこれが驚くほどのクオリティだった。視野が覆われ、頭の動きとほぼリアルタイムに画像が追随する。もちろん単眼なので立体映像ではないし、音声まで連動するわけではない。そのあたりの是非はあるかも知れないが、そもそもOculusなんかと比較する意味のあるプロダクトではないと思う。単眼ならスマホで広い角度の画像を見れるし、あまり「VR酔い」をしにくそうなので僕としてはこれで十分だと思う。

ハコスコ代表取締役の藤井直敬氏は、MITの研究員を経て独立行政法人理化学研究所(理研)に務める人物。脳科学総合研究センター適応知性研究チームPIとして、SR(Substitutional Reality:代替現実技術)システムの開発に携わってきた。そんな藤井氏は「工学の人はスペックに向かってしまう。だがSRの研究で分かったのは、スペックではなくて、(脳科学的な観点で)利用者が『本物だ』と信じれるかどうか。Oculusと同じ文脈で考えても仕方ない」と語る。ダンボールというとGoogleも同様のプロダクトを作っていたが、こちらは藤井氏曰く、Oculusをどれだけ安価に再現するかという方向性を持っており「我々とはまた違う」とのことだった。

理研発のベンチャー

藤井氏がもともと手がけていたSRシステムも、これはこれですごい体験ができるそうだが、実際に体験するには最低でも数十万円の機材が必要になる。部屋ごとシステムに対応しようものなら数百万円と普及するような価格ではない。この研究の成果を最大限に簡素化して作ったのが、ハコスコなのだという。

実は理研には「理研ベンチャー認定・支援制度」と呼ぶ制度がある。研究の中で生み出した技術のライセンスを使って起業することを許可しているそうで、藤井氏もこの制度を使ってハコスコを創業した(余談だが、わかめスープで有名な理研ビタミンやコピー機、光学機器メーカーのリコーなど、僕らに身近な製品を出しているメーカーも理研にルーツがあったりする)。

同社の創業は2014年7月。メンバーは藤井氏とその妻でCOOを務める太田良恵子氏の2人で、外部に複数の協力者がいる。ビジネスモデルは(1)ハコスコの販売、(2)配信チャンネルの販売、(3)コンテンツ製作――の3点。すでに企業やブランドとのタイアップが進んでおり、「2人でやっているとは言え、初月から黒字の状況」なのだそう。出荷数もすでに4万台(個?)を超えた。今後は専用アプリの配信チャンネルを拡大するほか、コンテンツの拡大を進める。

ANRIが出資。博報堂との提携も

同社は11月にANRIから3000万円の資金を調達しており、今後はエンジニアをはじめとした人員拡大を進める。「今までも外部に協力者がいたが、一緒に考えてくれる、一緒に作れるという人が欲しい」(藤井氏)。

また12月19日には、博報堂および博報堂プロダクツとマーケティング向けソリューションの共同開発についても発表した。すでに企業のマーケティングなどでマネタイズしているハコスコだが、今回の提携によってその動きを強化する。スマホと1000円のキットでVRを体験できるのだ。前述のとおり展示会で「30分待ちのアトラクション」になっていた体験を、ハコスコを配布して一斉に体験するなんてことができたりするというわけだ。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。