1500社以上のスタートアップがY Combinator初のオンラインプログラムを卒業――次回は1万社超えを目指す

史上最大のデモデイが6月16日に開催された。会場はシリコンバレーではない。Y CombinatorのStartup School Founders Trackと呼ばれるオンラインプログラムを卒業した1584社が拠点を置く世界各地がその会場だ。さらに、そのうち797社がデモビデオを一般向けに公開している

合計1万3321社からの応募に対し、2820社の入学が許可されたこの10週間におよぶプログラムでは、過去のYC卒業生がメンターとなり1対1の指導を行っていたほか、参加者はバーチャルオフィスでクラスメイトと議論を交わしたり、オンライン授業を受けたりしていた。

次は1万社受け入れられるかもしれません

— Y Combinator社長 Sam Altman

通常YCは、アクセラレータープログラムに参加するスタートアップを毎年ふたつのバッチに分けて合計100社ほど選出し、YCのパートナーやゲストスピーカーが参加企業にビジネスを成長させる方法について対面式で教えている。また、プログラムに参加するスタートアップには、諸々の指導に加え、7%分の株式と引き換えに12万ドルの資金が提供される。

しかしAltmanによれば、YCは「1年に数百社ではなく数千社を相手にできるような」方法を模索していた。その目標を達成するための最初の取り組みがYC Fellowshipだったのだ。このプログラムでは、通常のアクセラレータープログラムに参加している企業よりも若いスタートアップ数十社が対象となり、1.5%分の株式と引き換えに遠隔でのアドバイスが提供されていた。こちらのリストには、去年のYC Fellowshipプログラムを修了したスタートアップの中で、私たちが注目した企業を掲載している。

しかし、結局YCはFellowshipプログラムを中止することになった。その理由についてAltmanは「Fellowshipプログラムは、私たちが関わるスタートアップの数を一桁増やせるような取り組みではないとわかったんです」と言う。そこで、Altmanがスタンフォード大学で行ったオンラインコースの成功を受け、YCはStartup Schoolという名の大規模公開オンライン講座(MOOC)を開設した。この口座では、元FacebookのDustin MoskovitzやSlackのStewart Butterfieldといった起業家によるスタートアップの始め方についての授業や、SequoiaやKhoslaによる資金調達に関する授業、採用や多様性、広報についての授業が公開されている。

スタートアップに関する知識をもっと多くの人に伝えることで、YCは世界中の経済活動を活発化させると共に、自分たちのメインのプログラムを宣伝したり、同プログラムの参加者候補を育てたりしようとしているのだ。しかし、MOOCだと生徒に対する強制力がなく、彼らを十分にサポートすることもできないため、結果的にエンゲージメント率が下がってしまうということがわかった。

そして、ようやくたどり着いた答えがStartup School Founders Trackなのだ。このプログラムへの参加が許可されたスタートアップには、YCの卒業生がメンターとしてひとりつき、クラスメイトとなる他の参加企業20社が割り当てられる。YCからの資金的な援助はないため、スタートアップは株式を差し出す必要もなく、プログラムへの参加自体も無料だ。

10週間におよぶこのプログラムを”卒業”するには、動画で配信される授業を視聴し、合計10回開催されるオフィスアワーの少なくとも9回に参加し、自分たちの成長や経営指標に関するレポートを少なくとも10週間中9週分提出しなければならない。また、参加企業はメンターによる個別のフィードバックセッションや、メールでのサポートを受けることができる。

「素晴らしいことに、これがかなりうまくいったんです」とAltmanは初回となるプログラムに参加した7746人の起業家について話す。メインのプログラムで行われる夕食会は、Startup School Founders TrackではSlackのチャットルームで代替され、クラスメイトはお互いを助け合うようにコミュニケーションをとりあっていた。さらに、YC自体はどのスタートアップにも投資しなかったが、無料のホスティングサービスやその他のリソースの獲得にあたり、いくつかのスタートアップの支援を行ったとAltmanは言う。

Founders Trackに参加したスタートアップとディスカッションを行うYCの卒業生

最終的には1584社のスタートアップが同プログラムを修了した。各社のビジネスは、ドローンから代替エネルギー、AR、バイオテクノロジーまでさまざまだ。興味があれば、こちらからプレゼンテーションビデオを視聴できる。マウンテンビューのComputer History Museumで行われるメインのプログラムのデモデイほど、資料の内容は洗練されていないが、スタートアップのプレゼン資料らしいフレーズや右肩上がりの成長度合いを確認することができる。

「他のプログラムとの明確かつ重要な違いは、Frounders Trackがいかに国際的なプログラムかということです」とAltmanは語る。アメリカ国外へのリーチというのは、最近のYCの最優先事項だ。例えば、昨年同社はStartup Schoolのイベントを世界各地で行い、その結果、メインプログラムの2017年の冬季バッチは、22か国から参加者が集うこれまでで1番国際的な回となった。

しかし、1500社を超えるFounders Trackの卒業生は、メインのプログラムに参加した企業とは違い、卒業生のネットワークやソフトウェアをフルには利用できない。この点に関してAltmanは「このプログラムを『YC Startup School』と呼んでいないのには意味があります」と言う。まず、「YC Fellowship」という以前の取り組みの名称は、ある種の誤解に繋がってしまった。さらにYCは、メインのプログラムのような厳しい審査を受けていないスタートアップに、エリートの集まるネットワークの価値を薄めてほしくないと考えているのだ。

とはいえ、Startup Schoolを本格的なオンラインアクセラレータープログラムに変化させたことで、YCのリーチは一気に広がり、彼らはしっかりとしたノウハウを参加者と共有しながら、メインのプログラムの参加者候補を育てる仕組みを手に入れた。「もしもこのままうまくいけば、世界中に大きな経済的変化をもたらすことができると考えています。次は1万社受け入れられるかもしれません」とAltmanは語る。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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