2つの新しい取り組みがベンチャーファンドに直接投資する人々の範囲を広げる可能性

Acrew Capitalのメンバー。彼らはDiversity Capital Fundと呼ばれる最初のグロースファンドのメンバーでもある

ベンチャーファンドは歴史的に自身の投資資本について限られた種類のリミテッドパートナー(LP)に頼ってきた。1つのグループは年金基金、大学基金、病院システムなどの機関投資家だ。2つ目は企業。3つ目は裕福な個人と、多くの場合そのファミリーオフィスだ。

つまり、かなり狭い世界だが、今週発表された新しい、非常に異なる2つのイニシアチブがいずれもその方程式を変えようとしている。そしてまもなく同様の取り組みの先駆けとなる可能性がある。

Arlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏が最初にニュースを発表した。同氏は有色人種、女性、LGBTQコミュニティのメンバーが創業したスタートアップへの投資に特化するベンチャーキャピタルのBackstage Capitalの創業者だ。要するに、Backstageの中心には多様性がある。しかし、自身が黒人であるハミルトン氏は、多様な創業者だけに資金を提供することに興味はない。社会経済的にもさまざまなバックグラウンドを持つ多くの人々が、アセットクラスとしてのベンチャーキャピタルに投資できる環境づくりにも関心を持っている。

そのために同氏は今週初め、未公開企業への投資プラットフォームのRepublicで新しいファンドを開いた。非適格投資家を含む誰もが、Reg CFまたはRegulation Crowdfunding(レギュレーションクラウドファンディング)と呼ばれる証券取引委員会の規則の下で投資できる。

ハミルトン氏は、Reg CFで企業が調達可能な上限、すなわち12カ月の期間内で107万ドル(約1億1300万円)に達した。わずか100ドル(約1万600円)の投資に招かれた2790人の投資家にとっては数時間に感じられたはずだ。しかし次の展開があるかもしれない。この規則は2020年11月に元SEC議長のJay Clayton(ジェイ・クレイトン)氏の下で変更され、2021年3月から企業は最大500万ドル(約5億3000万円)をクラウドソーシングできるようになる。

このプロセスは次期SECチーフの下で進みが遅くなる可能性がある。バイデン大統領は、規制当局出身で元ゴールドマンパートナーのGary Gensler(ゲイリー・ゲンスラー)氏を任命した。同氏は上院の承認を受ける必要がある。新政権はまた、トランプ政権の後半に進められた措置の多くを見直している。ただし、すべてのシステムが機能すれば、もうすぐ非適格投資家が他の大規模なベンチャーファンドに出資するよう招待されるだろうと容易に想像できる。

機会がやってきた

今週2つ目のイニシアチブは、ハミルトン氏にとって同じ目的を持っている。つまり多様な投資家をLPに迎えることができる。ただしアプローチは異なり、適格投資家のみを対象としている。適格投資家とは、基本的に年間20万ドル(約2100万円)の収入があるか100万ドル(約1億600万円)以上の純資産を持つ個人を意味する。

ベテランベンチャーキャピタリストのTheresia Gouw(テレジア・ゴウ)氏が率い、パロアルトとサンフランシスコを拠点とするアーリーステージのベンチャーキャピタルであるAcrew Capitalが始めたファンドが米国時間2月3日、従来のグロースステージのファンドにひねりを加えて立ち上げていると明らかにした。現在のLPに新しいファンドへの投資機会を与えることに加え、レイターステージのプライベートビークルに投資する機会が必ずしもなかった多くの女性、有色人種、過小評価された個人にビークルを開放する。

ここで重要なのは、グロースステージの投資にAcrewが力を入れていることだ。より多くの女性や有色人種がシードステージ投資の仲間入りをしている一方で、アーリーステージの資金調達から収益を生み出すには長い時間がかかる。一方、グロースステージのファンドは投資先企業が通常「エグジット」に近いため、より独占的だ。そのため、ミューチュアルファンドやヘッジファンドなどにとって非常に魅力的であり、Acrewが現在、招き入れようとしている種類の個人が入り込む余地はほとんどない。

Backstageと同様、多様性はAcrewのDNAに組み込まれている。Acrewは、ゴウ氏が以前在籍したファンドで、Aspect Venturesの同僚のLauren Kolodny(ローレン・コロドニー)氏、Vishal Lugani(ビシャル・ルガーニ)氏、Asad Khaliq(アサド・カリク)氏、Mark Kraynak(マーク・クレイナク)氏と共同で創業した。

Acrewはチーム全体の88%が女性で、63%が過小評価された経歴を持っているという。そんな同社が多様なエンジェル投資家、取締役会メンバー、経営幹部をレイターステージの投資の世界に引き込むことに率先して公に取り組むことに驚きはない。

新しい取り組みを通じて投資のための新たな資本を獲得するBackstageのように、フィンテックとサイバーセキュリティに焦点を当て、他の多くの中でも高いバリュエーションを得たチャレンジャーバンクのChimeに出資したAcrewの新しい取り組みは包摂的かつ戦略的だ。

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コロドニー氏が説明するように、役員室の多様性を高めることに力を入れるスタートアップが増えている。多様な個人から成るLPの基盤を持ち、そうした個人を興味深い取締役会のポジションにつなげられれば、Acrewだけでなく、新しくLPになる企業にとっても、さらにすべての関係者にとって上手く機能するはずだ。

実際、Acrewのパートナーらはこのアプローチのために同社がこの先も他社と異なる存在でいることを望んでいない、とコロドニーはいう。「私たちの希望は、5年後、多様で独立した取締役会メンバーと多様な経営幹部が企業で増えることを支援するベンチャーキャピタルが他に例がない戦略になってしまわないことです」。

「その希望は」と同氏はつけ加えた。「この取り組みにより、ベンチャー企業への期待に関する新しい基準を人々が受け入れることです」。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:Backstage CapitalAcrew Capital

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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