2人で手を握りあって入れる「MRお化け屋敷」が夏にデビュー、日本のTyffonが1億円調達

VR市場はB向けのバーティカル市場の立ち上がりが早いようだが、B2B2Cのエンタメ方面も盛り上がりそうだ。AR/VR/MR時代にホーンテッド・マンションを作り直すとしたら、こんな感じになるだろうという独特の世界観と、それを可能にする先進的なMR技術を作っている日本のスタートアップ企業がある。 今日インキュベイトファンドから1億円の資金調達を発表した「Tyffon」(ティフォン)は、この夏にも商業施設などで体験できるMRコンテンツ展開を始める。早速ぼくは東京・三田にある同社で以下のような何とも空疎な空間を歩くことで、ひと足早くこの未来感のある「21世紀のホーンテッドマンション」ともいえる「Magic-Reality: Corridor」を体験してきた。

上の写真を見ればわかる通り、体験者は何もない空間を歩く。ぐるぐる歩く。だけど、体験者がみているのは、以下のようなおどろおどろしい怪物が徘徊し、死体がうめく呪われた洋館の世界だ。

上の動画をよく見るとお分かりいただけると思うが、これは単なる360度動画ではない。体験者は自分の腕や、自分が手に持つランタンをVR中の画像上で見ることができるが、これは自明のことではない。VRヘッドマウントディスプレイとして利用するHTC Viveのカメラから取り込んだ映像をリアルタイムに3次元空間に再度落とし込み、仮想空間内の光などを反映した上で体験者に見せているのだ。だからこれはVRではなく、MR(Mixed Reality)と呼ばれる。

足元を見ると自分の足が見えるし、隣に立っている同伴者も見える。つまりドキドキしながら館に足を踏み込んだ2人が一緒に仮想空間に「入った」ような感覚を作り出す。そんな現実と仮想が混じる世界を作り上げようとしている。VRコンテンツは長尺になると体験者が感じる「孤独」が問題と言われることもあるが、こうした複数人で入れる仮想世界のMRには大きな可能性を感じるところだ。

やろうと思えば、際限なく怖くできてしまう

今回のTyffonへの出資を決めたインキュベイトファンドの投資家、赤浦徹氏は、取材に訪れたぼくに対して「事前にトイレに行ってください」と念を押した。初めはお決まりの冗談なのかと思ったが、必ずしも誇張ということではなかったようだ。これは、かなり怖い。

暗がりから襲いかかってくる化け物は、本当に……、襲ってくるし、うめき声を上げるゾンビだか死体だか分からない何かが目の前の毛布の下でうごめく。仮想空間内で壁に当たらないように廊下を進んでいくと、上にあるクロマキー処理のための単色カーテンで区切られた狭い空間をぐるぐる歩くことになる。だが、実際には館の中は小部屋に分かれて、次々と背後で嫌な音を立てて扉がしまったりする。ある時はエレベーターに入ったと思えば、ものすごい速度で落下するような映像に包まれる。

「床を振動させたり、体験者に風を当てるとか、そうしたこともやっていきたいですね」

そう語るのはTyffon創業者で代表取締役の深澤研氏だ。4D映画のように冷気や匂いなど、まだまだ体験をリアルにするためにやれることはあるという。ただ、商業施設で導入するとした場合、あまり利用者が怖がりすぎないよう安全面の配慮が必要そうではある。実際、ぼくが体験した10分ほどのコンテンツは怖さを抑え気味にしていたものだそう。本当は化け物に食べられてしまって腸内を歩くコンテンツとか、後ろから大きな口が追いかけてくるようなものもあるそうだ。ぼくが体験したコンテンツは初心者向け。同じ方向にぐるぐる回るものだったので方向感覚も保てたが、コンテンツによっては迷宮の中を歩くようなものにできるし、どんな長大なコンテンツも原理的には可能という。当然こうしたコンテンツには年齢制限が課されることになる。

HTC ViveのようにカメラがあるVRヘッドマウントディスプレイを使って撮影した映像を、仮想空間内に再現して合成するコンテンツというのは今のところ多くない。撮影した腕を3次元空間内に再現するのは自明の処理ではなく、普通にやると単に平面にカメラ映像を貼った感じになってしまう。これを曲面のようにするのは特殊な処理で、ほかにも撮影した人物などを館の中の照明の方向や色に合わせる処理をすることで没入感を作り出しているそうだ。

ぼくがやったデモでは2万匹のイナゴにわっと囲まれるという、実に嫌なシーンもあった。そろそろと廊下を歩いていると壁に何かがいる。何だろうとランタンを近寄せて照らすと、赤いイナゴがぞわぞわうごめいている。もっとランタンを近づけるとイナゴがサッと散る。かと思えば背後でドアがバタンと閉まり、狭い空間に閉じ込められる。そして大量のイナゴがどこからともなく沸いてきて、イナゴの大群に襲われる。頭でCGと分かっていても、これは本当に気味が悪いものだった。と、同時にいくら背中にそれなりの処理性能のPCを背負っているとはいえ、高度なCG処理だなとも思えた。聞けば、3万匹程度は実用的な速さで動かせるという。

ホラーの世界観に魅せられた少年

Tyffonの深澤氏は、2011年11月の創業以来、アプリ開発を手がけてきた。撮影した顔写真がソンビになり動き出すという一種のセルフィーアプリ「ゾンビブース」は2012年のリリース以来、バージョン2の続編も含めて3500万DLという大きなヒット作品となり、アイテム課金で黒字化していたそうだ。

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深澤氏はゾンビブースやMacig-Reality Corridorを作るべき経歴と嗜好をもっている。

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Tyffon創業者の深澤研氏

「これが中学2年生のときに描いた絵なんです」。そういって指差したオフィスに置かれた油絵をみると、立派なホラーテイストの頭蓋骨。14歳の息子が描いたとしたら親が将来を心配してギョッとしそうな絵ではある。聞けば、5歳の頃に体験したディズニーランドのホーンテッドマンションの影響を強く受けているのだとか。テクノロジーとアートの融合する領域で何か作りたかった、という深澤氏は、3DのCGアニメーションを作って海外の映画祭で上映するなどアート方面の活動もしていた。大学では情報科学の1領域としてフェイシャル・アニメーションを研究していたし、Tyffon創業に前後して顔写真から表情の動くアニメーションを作る技術を持つ、モーションポートレートにも参画していた経緯もあるという。

2014年にディズニーのアクセラレーターの第1回プログラムに選ばれて渡米。参加8社のうち1社のみが日本のスタートアップだったといい、このときディズニーからシード投資も受けている。実は同じプログラムに参加していたのが、スターウォーズの丸いキャラ「BB-8」で知られるスフィロだ。BB-8が生まれたキッカケはまさにこのディズニーのプログラムで、ディズニーCEOのロバート・A・アイガーがアクセラレターの初日、2日目とやってきて、そこでスフィロと話をしたところから、あの愛嬌のあるBB-8は生まれたそうだ。

グローバルにみれば、似た領域で取り組んでいるスタートアップとしてThe VOIDZero Latencyがある。どちらも、お化け屋敷やホーンテッド・マンションといったジャンルと異なるシューティングゲームを作っている。

すでにTyffonは大手メディア企業と組んで都内で体験スペースを設けることが決まっているほか、テーマパークや大手小売店舗からの引き合いがあるという。設置面積が小さくて済むメリットから都市型アミューズメント施設を中心に導入が進みそうだ。Tyffonは米ディズニーからも投資を受けているので、海外展開にも期待したいところだ。

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TechCrunch Japan

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