2人乗りの自律型デモ航空機「Maker」をArcher Aviationが公開、商業運航への「足がかり」に

Archer Aviation(アーチャー・アビエーション)は「Maker」(メーカー)と名づけられた自律型電動2人乗り航空機を米国時間6月10日に発表した。同社は同機を、2020年3月に発表済の、より大型の操縦士付き5人乗り航空機の認証取得に向けたテストに使用する予定だ。

6月10日に発表された航空機は、2024年に商業運転を開始した際に空を飛ぶものではない。だがArcherの認証責任者Eric Wright(エリック・ライト)氏は、TechCrunchに対して、自律型航空機から始めることでより効率的にテストプロセスを進めることができると語っている。

ライト氏は「2人乗りのMakerは、認証取得への足がかりとなるものです」と説明する。そして「これは飛行制御システムや電気推進装置など、私たちが認証を受ける航空機に搭載するものについての知識や認識を深めるためのテストベッドです。同時に私たちの試験を通して米連邦航空局(FAA)によるその設計への信頼を深めることができるようにするためのものでもあるのです。もちろん、FAAもその開発を見守ることになります」と述べている。

Makerと、まだ名前の決まっていない5人乗り航空機は、どちらも全部で12個のローターを持ち、そのうち前部6個のローターが傾く「ティルトローター」を採用しているという仕様上の共通点を持つ。このティルト機構により、航空機はヘリコプターのように垂直に上昇し、飛行機のように前進することができる。

両機はまた、それぞれ安全のために6つの独立したバッテリーパックを搭載しており、1つのバッテリーが故障しても残りのバッテリーが作動するようになっている。このバッテリーにより、両機は時速150マイル(時速約241.4km)で60マイル(約96.5km)の航続距離を実現している。2人乗り機は、翼幅が40フィート(約12.2m)で、重量は約3300ポンド(約1498.2kg)だが、より大きな機体ではもっと重くなるだろうとライト氏はいう。

画像クレジット:Archer

パロアルトに本社を置くArcherは、Makerが2000フィート(約608m)の上空から発する音は、わずか45dBだと予想している。この騒音仕様は、エアタクシーへの展開を目指している電動垂直離着陸機(eVTOL)メーカーにとって特に重要なものだ。一般の人々や規制当局に、同機の大量導入が受け入れられる可能性が出るのは、航空機が十分な静粛性を備えている場合に限られる。

Archerは、United(ユナイテッド)航空から10億ドル(約1096億円)の受注を獲得したと発表した後、2人乗り機の高品質なレンダリング画像を公開するなど、ここ数カ月の間にMakerに関する情報を少しずつ提供してきた(なお、このレンダリング画像の公開によって、ライバルのeVTOL開発会社であるWisk Aero [ウィスク・エアロ]から企業秘密の流用を主張する訴訟が起こされた)。米国時間6月10日のイベントは、38億ドル(約4167億円)の評価を受けている同スタートアップが、実際の航空機を一般に公開する初めての機会となった。

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このデビュー機が自律型である理由を聞かれたライト氏は、そのことでテストや検証のプロセスをより効率的に進めることができるからだと答えた。ライト氏は「航空機を自律的に動かすことで、航空機のパイロットが実際に操縦する必要なしに、より迅速に物事を進めることができます」という。「そうすることで、入力に対する機体の反応を、自律的な観点から、より早くより効率的に見ることができるのです」。

自律型エアタクシーが都市部で人々を運ぶようになるのはまだ先のことかも知れないが、Archerは他のeVTOL開発企業と同様に、長期的な青写真の中で、自律型エアタクシーを単に大型機の認証プロセスを促進するものではなく、運用可能な航空機として捉えているのだ。

ArcherのCEOであるBrett Adcock(ブレット・アドコック)氏は、別のインタビューの中で次のように述べている「輸送の世界に本当に大きな影響を与えようとするなら、長期的には、操縦士を使った方法でそれを実現することは本当に難しいと思っています。航空業界に入り、認証を受け、それをすぐにでも実現するという意味では、操縦士を使うやり方は確かに正しい方法だと思います。そして将来的には、乗客とネットワークの両方の安全性を高めるために、自律的な航空業界への移行が重要になってくると思っています。だから、業界がうまくスケールして大きくなるためには、ある程度の自律化は避けられないと思っています」。

創業3年目のこの企業は、2024年にロサンゼルスとマイアミを皮切りに商用運行を開始することを目指している。同社のシステムシミュレーションチームは、VTOL機離着陸場をどこに配置するかを決めるために、Prime Radiant(プライムラディアント)という名のシミュレーションツールを使っている。同チームを率いているのは、2020年12月にJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)に売却された、Uber(ウーバー)のエアモビリティ部門Uber Elevate(ウーバー・エレベート)の、元データサイエンス責任者だ。

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またアドコック氏は、エアタクシーのルートを考える際には必ず必要となる、ファーストマイルとラストマイルの車での移動を統合するために、ライドシェア会社との間で話し合いを進めているのだという。

同社の共同創業者であるGoldstein(ゴールドスタイン)氏は、2024年のローンチ予定に先立ち、パートナーである自動車メーカーのStellantis(ステランティス)と2つの施設についての作業を進めていると語った。1つは従来の航空産業のように年間数百機を提供する施設で、もう1つは将来的にさらに大量の航空機を製造する施設だ。

Archerには、自動車メーカーと同様の製造上のニーズがあるとゴールドスタイン氏はいう「多くの部品に軽量のカーボンファイバーを使用し、自動車と同様に電気モーターやバッテリーを使用するのです」。

カテゴリー:モビリティ
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画像クレジット:Archer

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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