2日で約3000語を暗記、スマフォ世代の英単語学習アプリ「mikan」はTinderライク

「2日で3800単語」とか、「2週間で8000単語」とか、いままでちょっと聞いたことがないスピード感で英単語が学習できるとするアプリ「mikan」は、これまでの単語学習アプリと毛色がだいぶ違う。6月に株式会社mikanを創業した宇佐美峻さんは、「圧倒的にいちばん速く覚えられるアプリ」を目指していて、すでに実績も出始めているという。

mikanでは左右にスワイプすることで次々とカードをめくっていくようなUIを採用している。これは、去年あたりからアメリカの若者の間で流行している出会いアプリの「Tinder」が生み出し、多くのアプリが採用しているスマフォ・ネイティブといっていいUIだ。デート候補として表示される相手を「いやー、ないわー」「会ってみたい!」に直感的に分けていくTinderに対して、「これは色がイマイチ」「このパンツいいね!」というようにファッションアイテムの好き嫌いをユーザーごとに学習するファッションアイテムのキュレーションのようなサービスでの応用がある

mikanの場合、次々に表示されるカード上の単語について、「意味が分かる」(右)、「分からない」(左)とスワイプしていくのだが、Tinder同様に、片手で手軽に、そして高速にカードがめくれるのが特徴だ。

mikanでは10単語を1セットにして、次々とスワイプする。右へスワイプした既知の英単語は消え、左へスワイプした未知の英単語は残って再び画面に現れる。10単語で1周したときに、未知語が6つあれば、2周目には6単語が表示される。2周目に覚えた単語は3周目に出てこない。というように、ただ「知ってる、知らない、知らない、知ってる。あ、さっき覚えた。さっき見たけど、やっぱりまた意味が分からない……」などと左右にスワイプしているだけで、10→6→3→1→0というように、覚えていない単語だけを高速に繰り返して復習していける。10単語1セットとして、慣れると1セットを1分程度で消化できるという。以下がデモ動画だ。

10単語が1分だとすると、3800単語なら、どのぐらいか? 答えは2日だそうだ。試験的に3800単語を2日間で覚えるというこを7人にやってもらい、2日目の最後に400単語のテストをしたところ、平均定着率は82.4%だったという。記憶というのは時間とともに薄れるので、集中的に暗記をした直後のテストの定着率をもって3000語を「マスターした」ということはできないだろうが、従来の学習法から考えると驚くようなパフォーマンスだ。単調な暗記作業とは異なる、ちょっとしたゲーム感覚で細切れ時間が活用できるのは面白い。

英語学習合宿が話題になったことがキッカケ

mikanを創業した宇佐美さんは東京大学で機械情報工学を専攻する4年生。そろそろ周囲が就職活動を始めていたとき、「このまま行くとオレも就職しちゃうという危機感」から休学を決意。いまはmikanの実証データを集めるために47都道府県を回る全国行脚の準備中だ。各都道府県で、英語学習に取り組む学生を中心に、テスト利用者を20人ほど集めて合宿形式で「1日で1000単語を覚える」というのにユーザビリティーテストを兼ねて取り組む。もし成果がでれば、この初期ユーザーがmikanのエバンジェリストになってくれるという読みもある。

宇佐美さんは、別に英語アプリで起業しようなどと思っていたのではなく、「英語を教えていたら、お金になり始めた」ことが起業のキッカケだったと話す。

もともと起業には強い関心があり、クラウドソーシングの「クラウドワークス」やアクセラレーターの「MOVIDA」でインターンを経験していて、最初からシリコンバレーを目指していたという。「スタンフォードの大学院に行きたい」ということから、まずはTOEFLに申し込んだ。ところが、試験日当日まで一切勉強せず、「申し込んだら勉強すると思ったんですけどね、4万円が無駄になりました」と笑う。そこでまず、英語の勉強をするしかない時間と場所を決めてやろうと、今年3月に2週間の合宿を実施した。友人らに声をかけると、結構みんなが来てくれた。

その合宿の様子をブログやFacebookでシェアしているうちに、学生以外の社会人からも「行きたい」と連絡が来るなど、問い合わせが10件、20件と増え、話題になりはじめたという。5月に実施したTOEFL合宿には約60人が参加するまでになった。

合宿ビジネスでは労働集約型のマンパワーがモノを言う世界になる。そうではなく「アプリとかWebサービスとか、スケールするもので実施できないか」と考えて、5月にMacを買い、iPhoneアプリを作り始めたという。

アプリのアイデアは、自身が行ったExcelを使った英単語学習法が元になっている。まず日本語と英語が対になったものをExcelに1万語分、打ち込んだリストを作る。学習済みの単語については、このExcelの表の右側に「1」を付けていって、これを並べ替え。覚えていない単語だけをプリントアウトして覚える。次に「2」を付けてプリントアウト……、というのを繰り返した。

宇佐美さんは「数が少なくなっていく喜びを感じたんですよ。それで、これをアプリにしたらいいんじゃないかと思いつきました」という。この話を聞いたぼくは、正直それは意識の高い東大生ならではなのじゃないかと問い返してしまった。1万語を用意するのも、自分で進捗管理するのも、ちょっと並じゃない。

ただ、宇佐美さんは、これまでにmikanアプリを試していて面白いパラドックスに気付いたという。自分で工夫する人は、かえって成績が悪かったのだという。愚直に右へ左へとスワイプしまくった人のほうが成績が良く、逆に自分で工夫してプラスアルファの学習をしようとした人は成績が伸びなかったのだという。つまり、愚直にやるだけで誰でもできるという可能性はある。

mikanはまだ一般公開しておらず、MVPとして宇佐美さんが実装したiOSアプリが存在するだけだ。mikanは自己資金で設立していて、チームは3人。現在は資金調達のために個人投資家を回っているが、資金目的ではなく、「内部の支援者として入って頂きたい」という。アプリの一般公開は年内を予定している。

英語学習で似た状況にある中国や韓国にも「いま直ぐにでも行きたい」(宇佐美さん)が、当初は日本に集中する。また一部、フランス語や中国語などを学習している受講者に単語帳を実験的に作ってもらうなど、多言語展開も視野には入れているという。マネタイズはフリーミアムを検討しているそうだ。


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TechCrunch Japan

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