20の質問に答えて契約書を自動生成、「AI-CON ドラフト」がβ版公開――1.8億円の調達も

AI契約書レビューサービス「AI-CON レビュー」など、リーガルテック領域で複数のプロダクトを展開するGVA TECH。同社は9月3日、DBJキャピタルと西武しんきんキャピタルを引受先とした第三者割当増資により、約1.8億円を調達したことを明らかにした。

合わせてAIを活用した“契約書の自動生成機能”を備える「AI-CON ドラフト」のβ版の提供を始めたことも発表している。

弁護士が作る“法務格差”を解消するためのプロダクト

4月にも紹介した通りGVA TECHは弁護士の山本俊氏が2017年1月に設立したスタートアップ。同社ではビジネスにおける法務格差の問題を解決するべく、テクノロジーを駆使した複数のプロダクトを開発する。

法務の専門部署がないような企業が契約を交わす場合、通常は時間とコストをかけて弁護士に確認を依頼するか、十分な確認をせずに契約を締結するかのどちらかが多い。特に初期のスタートアップにとっては少しでも余分なコストを削減したいところだけれど、専門家に確認せずに進めた結果「契約書に潜むリスクを見落とし、自社が不利な契約を締結してしまった」なんてこともありうる。

山本氏自身も弁護士として複数の企業をサポートする中で「一方にとって圧倒的に有利な契約内容」になっている契約書を目の当たりにしてきたという。

その解決策としてGVA TECHが4月にリリースしたのが、AIによって契約書のレビューを自動化するAI-CON レビューだ。同サービスでは契約書のファイルをアップロードすると、1営業日以内に条項のリスクを5段階で判定し、修正案も提案。目の前にある契約書が自分にとって有利なのか不利なのか、人間に変わってAIがチェックしてくれる(現在はAIで判定した結果を弁護士が目視でチェックしているという)。

契約書のレビューにAIを活用するプロダクトとしてはつい先日も「LegalForce」を紹介したけれど、細かい機能面やアウトプットの内容には違いがありそうだ。

条項のリスク判定画面

修正案のレコメンド画面

AI-CON レビューは現時点で業務委託契約や秘密保持契約、投資契約など10種類以上の契約書に対応。無料の登録者数は1000社を突破した。

山本氏によると今の所は法務リテラシーが高い層を中心に、大手企業からベンチャー・スタートアップまで幅広い企業で使われているそう。今後はレビューの精度を上げることで、法務に関する知見がないユーザーでもより使いやすいサービスにすることが目標だという。

「今のAI-CON レビューは統計情報を元に契約書の内容が有利か不利かを判断しているので、この情報を自社として呑むかどうかを別途判断する必要がある。Google翻訳で英語を訳すのに近いような状態で、それ(機械的に翻訳されたもの)をベースに修正すれば業務の効率化にも繋がるけれど、出てきたものを完全に信じて使うにはまだ精度の改善が必要だ」(山本氏)

今後は「事業性も理解したレビュー」についても実現したいそう。これは利用者の事業内容や会社のフェーズも踏まえて条文の内容チェックや修正案の提案をするもので、「ここまでいくと弁護士のヒアリングにも近く、かなり使えるものになるのではないか」と山本氏は話す。

質問に回答すれば自社に合った契約書が自動生成

そしてGVA TECHがレビュー業務と並行して変えようとしているのが、前工程にあたる契約書の作成業務だ。

同社では6月よりAI-CON ドラフトという名称で主にスタートアップやフリーランス向けに、17種類の契約書テンプレートを無料で公開。今回新たにAIを活用した契約書の自動生成機能を追加して、β版として提供を始める。

「AI-CON ドラフト」利用イメージ

質問に回答していく様子

同サービスは契約条件に関する簡単な質問に20個程度回答することで、条件に合った契約書のテンプレートが自動で生成される仕組み。山本氏いわく「契約書作成時の弁護士によるヒアリングに近い」流れになっていて、「弁護士のヒアリングするパターン(各質問および回答)と条文群を両方機械学習にかけて、最適なものをマッチングするようなイメージ」だという。

「たとえばNDA(秘密保持契約書)の場合でも、入退社に関わるもの、業務提携の前提になるもの、業務委託と一緒に結ぶものなど条件ごとに最適な内容は異なる。質問に対する回答に沿った形でカスタマイズされたNDAのフォーマットが作られるのが特徴だ」(山本氏)

自動生成機能についてはリリース時点で対応しているのは秘密保持契約書のみ。9月中旬にはシステム開発契約・保守契約、アドバイザリー・コンサルティング契約、コンテンツ制作契約などの業務委託契約全般に対応する予定で、年内には販売代理店契約書、売買契約書など約20種類の契約書をカバーする計画だ。

ビジネスモデルとしては作成する契約書1通ごとに料金が発生する仕組みを検討しているが、まずはβ版として利用者あたり1通のみ無料で提供する。

「意外と自分の取引実態に合った契約書を持っている人は少ない。たとえば契約書の雛形をネットでダウンロードしていたり、自分の手元にないので相手方にもらっていたような場合、自分にとって不利な内容だと知らずに毎回使い続けてしまっているようなこともある。特にそういった人たちが、少しでも自社の取引実態に合った意味のある契約書を使えるようにしたい」(山本氏)

まだ限定的ではあるものの、これまで手がけていた契約書のレビュー業務に加えてドラフトの作成業務にも対応範囲を広げたAI-CON。契約書に関する業務は大きく(1)ドラフト作成(2)レビュー(3)交渉(4)契約締結(5)管理というプロセスに分かれるが、「AI-CONでは合意形成までのプロセスを効率化したい」という思いがあるそうで、今後も「AI-CON ○○」のように同シリーズのプロダクトが増えていくようだ。

GVA TECHではこれまでエンジェル投資家とチームメンバーから約6500万円を集めているが、VCからの資金調達は今回が初めてとなる。

調達した資金は主にエンジニアや法務人材などの採用とプロダクト強化に用いる計画。まずは2019年の春頃を目処にAI-CONシリーズ全体での登録者数5000社の達成を目指すという。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。