2019年のテクノロジーIPO、上場会社というジェットコースターから考えたこと

2019年は米国のテクノロジー系IPOにとってすでに活発な年となっている。UberLyftなど、非常に期待されていた一部のユニコーンは、IPOデビューと上場企業としての初期の株価で投資家を失望させた。FiverrZoomCrowdStrikeなど株価が急上昇している会社もある。食品テクノロジーブランドのBeyond Meat(通常一緒に見ることのない2つの単語だ)は、25ドルのIPO価格から239ドルの高値を付けた。

2019年のIPO企業のうち年初に上場した企業は、上場前の投資家と従業員のロックアップがまもなく期限切れ、多くの場合でIPOの180日後、新たな課題に直面する。上場前から投資家と従業員が保有している株式を売却することが可能となり、市場に流通する株式数が増えることになる。Lyftは、ロックアップの期限が切れる、株式市場へ多くの同社株式が流入するタイミングで、まだ2019年パッケージ(従業員向け株式購入プラン)の募集期間の初期段階にいる。次に何が起こるかに関係なく、非常に短期間でこのような印象に残るビジネスを構築した企業の軌跡を引き続き追うことができ、わくわくしている。

私は最近、ニューヨーク証券取引所(NYSE)でオープニングベルを鳴らし、当社のプラットフォームに300万人目の借り手を迎えた。2014年に当社LendingClubが公開企業の仲間入りを果たしたときの素晴らしい気持ちを思い出した。LendingClubはその年最大の米国のテクノロジーIPOであり、現在でも史上最大の米国のテクノロジーIPOの1つだ。バリュエーションは54億ドルで、取引初日には株価が67%も上昇した。我々はハードワークが報われたことを喜び、成長の次の段階に期待した。しかし、ロックアップの期限が切れる頃には、1株あたり15ドルのIPO価格に戻ってしまった。

それ以来、国内で最も成長率の高い消費者金融セクターの市場リーダーであり、年間2桁の成長を遂げているが、今日の会社の価値は2014年の5分の1未満だ。詳細は後述するが、非常に困難な時期をくぐり抜けてきた、と言うだけでも十分だと思う。目標に向かって行動し、成長と利益率の拡大を実現しながら、我々はようやく順調な流れに戻った。

我々の体験から得られた、IPO後の展開について考えたい方にとって有益かもしれないいくつかの洞察がある。ここでは、短期志向に陥る過酷な四半期目標ではなく(すでにあちこちで十分に語られている)、事前に知っていたら私にとって役立ったであろうと思われる点について取り上げる。

物事は意外な方向に展開する、本当に

IPOに至るまでの期間を、赤ちゃんの誕生を待っている期間と比べてみたい。知識として、新生児を家に迎えた後は、これまでとは状況が一変するだろうというのは知っている。しかし、頭でわかることと実際に体験することとは違う。株式上場というのは、会社そのものと、CEO、CFO、取締役会が時間をどのように使うかを劇的に変えてしまうイベントだ(そして、明らかに会社全体への波及効果もある)。2014年12月11日にNYSEのベルが鳴った瞬間から、すべてが変わった。

お金を稼ぐことが重要

あなたの会社の株式を買う投資家は、究極的にはあなたの会社の将来のキャッシュフローを評価する。将来のどこかのタイミングで「お金を見せ」なければならない日がきて、つまりその日には利益を上げている必要がある。AmazonはIPOの後、17四半期連続で合計28億ドルを失い、多くの懐疑論と批判の対象となった。同社は戦略を維持したまま、トップラインの成長を実現し、将来への投資を実行し、投資家の忍耐は報われた!

LendingClubでは、数百万ドルを投資して300万人以上の顧客を満足させる製品を開発し(顧客ロイヤルティの指標であるNPSは会社史上最高レベルの78%に達した)、競合他社を寄せ付けないための堀を拡げた。現在は、調整後純利益に基づく収益性の向上に努めている。

好むと好まざるとにかかわらず、スコアボードがある

上場すると、一部の人々はあなたの会社をビジネスだと考えるのをやめて、株価だと考えるようになる。株価というのはラジオ放送のようなものだ。あなたの株主、従業員、パートナー、取締役会―聞いているすべての人にいつも放送されている。

会社のカルチャーが変わらないようにとどめることはできないが、会社が大切にしている価値観を守り続けることはできるし、その必要がある。

株価が上がると、誰もがいい気分になる。しかし、株式市場が不安定だったり景気が良くない時には、多くの人が、現状についてあなたの意見を聞きたいと思うだろう。利害関係者とのコミュニケーションは、あなたの仕事を邪魔するものではなく、以前よりも非常に範囲が広くなったあなたの仕事の重要な部分である。利害関係者とのコミュニケーションに、時間を優先的に割いた上で、常に準備しておく必要がある。

マイクを共有している人がいる

何かを始めるとき、世界は2つのタイプの人々に分けられる。あなたを愛している人とあなたのことを知らない、気にしない人。上場会社の場合、多くの人が会話に参加してくる。業績に焦点を当てる記者がいる。報酬をもらって、あなたの会社やその戦略、見込み、価値について調査・検討するアナリストがいる。そういったアナリストは、あなたの会社とまったく同じような会社をカバーしたことがないかもしれない(結局、あなたは新境地を開いているのだ)。

「ショート」と呼ばれるまったく新しい種類の投資家、すなわち、あなたの会社の株価の下落に賭けている人たちが寄ってくることもある。そうした人々はすべて、あなたの会社の利害関係者に話しかけているため、彼らが何を言っているのか、それがあなた自身のコミュニケーションにどのように影響するのかを理解する必要がある。

マイクがオンになっていることに注意する

従業員全員が「オールハンズ」(全社員ミーティング)に参加した当時のことを思い出してほしい。そこでは、製品ロードマップの詳細、企業戦略、何が機能していて何が機能していないかを共有できたはずだ。もう同じことはできない。重要な非公開情報が漏洩するリスクというものを考えるとき、従業員(や友人や彼らのパートナーたち)に対して確保すべき透明性との間に、新しいバランスを見つける必要があることに気づくだろう。

それは行動とカルチャーが変わるということだが、自然にもたらされるものではない(少なくとも私にとってはそうではなかった)。従業員にとっては不快な変化だ。人々は十分に情報を共有されていないと感じると、たとえそれが会社にとって「必要な」不透明性であっても、会社に対する信頼を失う。LendingClubでは、できる限り定期的に従業員とコミュニケーションを図り、信頼関係を保つようにしているが、どこかで線を引く必要がある。

あなたの競争相手も聞いている

皮肉なことに、重要事項を従業員と共有する能力は限られているが、競合他社には多くを共有してしまっている。 株主やファンドマネージャーは、あなたの戦いの計画を知りたがり、毎四半期、決算説明会で詳細なアップデートを期待している。 あなたの競争相手も注意を払ってメモを取っていると考えて間違いない。

あなたの最も貴重なリソース

これまで述べてきた通り、上場企業であるということは、ビジネスに費やす時間が必然的に少なくなり、外部の物ごとに集中する時間が長くなることを意味する。これ自体悪いことではないが、ビジネスの勢いを維持するために、あなたが使えるリソースを別途確保する必要があるだろう。株式市場と対峙しようとしているとき、あなたの会社の経営陣の陣容が、数年前と比べて大して変わっていないのなら、私にとっては驚くべきことである。

会社のカルチャーは変わる、価値観に重点を置くこと

私はかつて、Googleの幹部に、会社が大きな変化の過程にあるときでもなお、カルチャーを維持する方法についてアドバイスを求めた。彼女は、会社のカルチャーが変わらないようにすることはできないが、会社が大切にしている価値観は守ることができるし、守らなければならないと語った。私がこれまで守り続け、また今あなたに伝えている彼女のアドバイスは、大切にすべき価値観を書き留め、その価値観に基づいて採用し、従業員のパフォーマンスを評価するということだ。

何年も前にこれを実践し始めた。会社が進化・成熟する中で、我々の価値観がこれほど一貫していたというのは驚くべきことだと思う。我々は、顧客をすべての中心に置く価値観を6つのコアバリューに体系化した。我々はNo.1のバリュー「Do What’s Right」(正しいことをする)に従っている。あなたがLendingClubberの価値観に触れたときに、LendingClubberという会社を知ることになるだろう。その価値観が、我々を素晴らしい存在にしている。

上場会社を維持することは気の小さい人には向いていないが、それによって人間的に成長できる。上場会社となることで会社に正統性が与えられ、株式の流動性が高まりそれによって成長が促進され、また次世代の人材をひきつけることができる。株式を上場することでより多くの消費者により多くの価値を提供できるようになり、この成長する産業に正統性を与えることになると、私は常に言ってきた。当社は500億ドル以上の融資を実行したが、まだ市場シェアのごく小さな割合を占めているにすぎない。困難に直面する時もあるが、我々は、米国人が活気を取り戻すのを本当の意味で助けるという夢を日々追いかけている。

IPO以来、融資や借り入れに関わる人々の表情を明るくするために一生懸命働いてきた。多様性のあるチームを構築し、強力なコアバリューを確立し、シリコンバレーの内外を問わず、フィンテックとテクノロジー業界全体を代表したいと思えるような会社を生み出すカルチャーを育ててきた。

上場という公の場への新しい参加者にとって、スポットライトを浴びる生活は波乱に満ちたものになるだろう。まずはこのステップ、そして次のステップにもおめでとう!

【編集部注】著者のScott Sanborn(スコット・サンボーン)はピアツーピア融資会社LendingClubのCEO。

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。