2021年に倒産した米国スタートアップを振り返る

2020年、この特集記事の導入部分を書いたときは、2021年のその頃になっても、まだ私たちがいろいろな意味でその健康問題に強く影響を受けているとはまったく思っていなかった。2021年もまたホリデーシーズンもまた新種のウイルスに襲われ、さらにいろいろなことが変化しそうだ。そう、今はそんな状況だ。

しかし意外なことに、現在もまだグローバルなパンデミックのまっただ中であるにも関わらず2021年は、前年ほど多くの、有名なスタートアップの喪失が印象に残るという年ではなかった。

パンデミックの最初の1年は、すでにあっぷあっぷだった多くの企業にとって、まさに最後の藁のようなものだったのかもしれない。あるいは、資本ソースの流入で、水面上に頭を上げているのかもしれない。新型コロナウイルスで世界が一変した結果、ピボットに成功した企業もあれば、誕生した企業もある。

2021年は、QuibiやEssentialのような、2020年にあったような超大型の倒産もほぼなかった。しかし、パンデミックでない年でも、スタートアップを存続させることは非常に難しい課題であり、誰もが無傷で新年を迎えることができたわけではない。

Abundant Robotics(2016-2021)

総調達額:1200万ドル(約13億8000万円)

画像クレジット:Abundant

これは、うまくいけば2021年をロボティクススタートアップの記念すべき年にしたであろうスタートアップの、大失敗だ。ある意味でAbundantは、アグリテックのスタートアップとしてカーブの先頭を走っていた。それはどちらかというと、脱落者の多いカーブだった。最初の商用展開を行ってからわずか2年の、このリンゴの収穫ロボット企業は、静かに店を閉じた。同社はそれまでに1200万ドルを調達し、その中にはGV(元Google Ventures)が2017年にリードした1000万ドル(約11億5000万円)のシリーズAもあった。

農家は労働力不足が続く中で、ロボティクスとオートメーションに真剣に期待している。その中でJohn Deereのような企業は、自家製と買収によるソリューションに多くを投資している。果物農家のための大規模な収穫機ロボットなんて、そんなに難しくはないだろう、と誰もが思いがちだが、問題はどこがそれを作るかだ。

10月に、Waverly Labs hadがAbundantのIPを買収したことが報じられた。同社の技術は、形を変えて生き残るのだ。

Chanje(2015-2021)

画像クレジット:Chanje

2018年の11月にTechCrunchは、FedExがデリバリーバンの車隊を本格的に電動化するために無名のスタートアップと提携している、と報じた。同社はそのとき、2015年に創業されたカリフォルニアの中国が支援するスタートアップChanje Energyから1000台の電動デリバリーバンを導入する、と発表した。それまでの数年間でChanjeは、電動デリバリーバンを中国から輸入してFedExやRyderのような企業や、さらにAmazon(アマゾン)にさえ販売する企業として知られるようになっていた。そしてFedExなどの企業は、米国時間12月15日のThe Vergeの記事によれば、同社が2021年のある時期に「密かに店をたたんだ」ので、前のめりにずっこけてしまった。同社CEOの、一部の社員によれば「カリスマ的」で「自己陶酔型」の、Bryan Hansel(ブライアン・ヘンゼル)氏が提携していた中国企業が倒産した。ヘンゼル氏は投資家たちにChanjeの破片の買上げを訴えたが、無駄だった。The Vergeによると彼は、メモリアルデーの週末の前の金曜日に、Chanjeの最後の社員たちを解雇した。

報道によるとChanjeには元社員従業員たちに対する何カ月分もの給与とボーナスのバックペイ(法的に支払い義務のある未払賃金)があり、少なくとも4人が同社を訴えている。またRyderはChanjeがまだ同社に納車していない多くのバンに関して300万ドル(約3億4000万円)ほどの訴訟を起こしている。一方、FedExは、2018年に契約した1000台の電動バンをChanjeから受け取っていない。この宅配大手は、カリフォルニア州全域のFedExの補給基地に整備する予定だった充電インフラストラクチャの建設プロジェクトも、放棄せざるをえなくなった。その充電インフラにすでに投じた数百万ドル(数億円)の一部を取り戻そうとして、FedExはChanjeを訴えているが、見通しは暗い。

Dark Sky(2012-2021)

画像クレジット:Dark Sky

2020年3月にApple(アップル)は、天気予報アプリDark Skyを買収した。それは、地方重視の天気予報として人気があった。Appleも当然その機能に目を付け、それらの多くをiPhoneの天気予報アプリに導入した。最初からAppleは、Androidアプリは7月に閉鎖と契約していた。しかしそのiOSアプリとAPIサービスの命運は不確かだった。そのAPIサービスは他の開発者も利用し、Dark Skyの天気予報と天候データの履歴にアクセスできた。

2021年6月に、iOSアプリとAPIサービスは公式の期限を迎え、共同創業者のAdam Grossman(アダム・グロスマン)氏は「既存の顧客に対するDark SkyのAPIサービスのサポートは2022年末まで続ける。iOSアプリとDark Skyのウェブサイトも2022年末まで可利用である」と書いた。これはアプリとAPIの明示的な閉鎖発表ではないが、実質的には閉鎖だった。

Katerra(2015-2021)

総調達額:20億ドル(約2299億1000万円)

画像クレジット:Katerra

かつてKaterraは、建設テックの世界でアイドルだった。同社はプレハブ建築を主流にし、しかもクールにしたと言われる。成長とともにKaterraは意欲的になり、建設プロジェクトを軸とするテクノロジースタックを自分で持とうとした。オフィスビルでも、あるいはアパートでも。しかし2020年の終わりごろには、深刻な問題が起こった。同社は第11条倒産の瀬戸際といわれ、そのとき日本の投資コングロマリットであるソフトバンクが2億ドル(約230億円)で救済に乗り出したが、それは少なすぎ、遅すぎた。建設工程を上から下まで垂直統合するKaterraのやり方は、労賃と建築費用の高騰に追随できず、随所で納期遅れや費用超過に見舞われた。パンデミックも、遅れに貢献した。また、経理の不正が見つかり、頭痛に輪をかけた、とThe Wall Street Journalは述べている。

そのため、2021年6月1日にKatteraが20億ドルの投資を使い尽くした挙げ句、公式に閉鎖したと報じられても、大きなショックではなかった(最初にThe Informationがそのニュースを報じた)。2015年に創業したKaterraは、一時期40億ドル(約4598億6000蔓延)と評価され、8000人ほどの従業員を抱えた。閉鎖したときの従業員数は約2400名だったといわれる。この失敗は、最近の数年間で苦境を抱えたソフトバンク系大物プロプテックとして2番目にあたる。最初はWeWorkだった。Katerraの内部崩壊が全体としての建設テック産業への不信を招くかと思われたが、2021年、この分野には大きな投資が相次いだ。

Loon(2015-2021)

画像クレジット:Alphabet

9年間高く飛び続けたAlphabet(アルファベット)のLoonは、2021年早く地球に舞い降りたことがその最後の任務だった。2年あまり、Xの卒業生のスピンオフだったが、同社はこの、気球を使って恵まれない地域にインターネットの接続を提供するプロジェクトを地上に戻した。LoonのCEOであるAlastair Westgarth(アラステア・ウェストガース)氏はブログで、このプロジェクトは要するに利益を上げなかったのだと述べている。

「パートナー志願者はいくつも現れたが、長期的でサステナブルなビジネスを十分築けるほどの低コストを実現できなかった。ラジカルな新しいテクノロジーは本質的にリスクを抱えているが、かといってこのニュースを軽卒に伝えることはできない」。

Loonによると、技術そのものは今後も生き続けて、すでにProject Taaraのような装備で生き続けている。これまたAlphabet Xのムーンショットの1つで、光通信で高速インターネットを提供することを狙っている。9月にAlphabetは、さらに200件の特許をSoftBankに渡し、それらを同社のHigh Altitude Platform Stations(HAPS)で使ってもらうことになった。Alphabetのもう1つの空高く飛ぶムーンショットの仲間であるWingは相変わらず元気がいい

Houseparty(2015-2021)

画像クレジット:TechCrunch

日没の前のHousepartyは、空高くそびえた。パンデミックの初期のイニングでは、このソーシャルビデオチャットのアプリは、1カ月の新規ユーザー獲得数が5000万と主張した。隔離を課せられた人類は、バーチャルな接続を求めるからだ。しかし早回しをして今日このごろを見れば、Housepartyのパンデミック景気は同社の長寿に貢献しなかったようだ。9月にEpic Gamesは、Housepartyを10月に閉鎖すると発表した。同社を3500万ドル(約40億2000万円)で買収したと報じられてから、2年ちょっとしか経っていない。

かつて大人気だったこのアプリが閉鎖する理由は、いくつか考えられる。Clubhouseの上昇や、Zoomが必然的にもたらす疲労もあるだろう。閉鎖を発表するスレッドでHousepartyのCEOで共同創業者のSima Sistani(シマ・シスタニ)氏は、戦略の変化にすぎないと暗示している。

「メタバースというビジョンや、私たちがEpic Gamesで取り組んでいたプロダクトも、体験の共有がテーマだ。しかしそれは2Dのビデオよりリッチな形であり、むしろ、次世代のインターネットを形作る形式と位置づけるべきものだろう」とシスタニ氏はいう。

HousepartyはFortniteの音声チャットの中核的技術や、Epic Gamesのメタバースのもっと大きなプロジェクトの中で生き続けるだろう。

Pearl Automation(2014-2021)

自動車のアクセサリーを作っていたPearl Automationは、ステルスを脱してからわずか1年後に閉鎖した。元Apple(アップル)の技術者が作ったPearlは、ワイヤレスのリアビューカメラを披露し、すでに499.99ドル(約5万7500円)で発売していた。

2016年のTechCrunchレビュー記事でDarrell Etheringtonが「完全な魚眼体験、またはディスプレイの隅から隅までクルマの後方スペースで埋め尽くすワープ補正されたビューの間で切り替えることができる。また、必要に応じて、より多くの空や地面を見るために、ビューを上下に回転させることが可能だ」とまとめている。

Etheringtonはこの製品の工業デザインと最小限のソフトウェアを気に入っているが、アップグレードが必要な高級品とも述べている。「それでもこれは、特定のユーザー向けの製品だ。職人技の名機を愛する人、そのためにお金を払える人、最初から後部カメラのある現代のクルマを持っていない人、そして近く買い換える気のない人だ」。2021年は、これらの特殊な客層が同社を支えられなかったようだ。

Axiosによると、閉鎖の原因は売上の不振と、VCから5000万ドル(約57億5000万円)を調達したにもかかわらず高いバーンレート(資本燃焼率)だ。Crunchbaseによると、投資家はAccel、Venrock、Shasta Ventures、そしてWellcome Trustだった。

残念賞

Fry’s Electronics

ダラス2021年2月26日、米国の電子製品チェーンストアFry’s Electronicsは、そのすべての店舗を恒久的に閉鎖すると発表した。同社ウェブサイト上の声明によると「恒久的で全面的な終業という困難な決定をした」理由は消費者の購入習慣の変化と新型コロナウイルスパンデミックの蔓延だ。Fry’s Electronicsは米国の9つの州に31のストアがあった。テキサス州プレイノウの閉店したFry’s Electronicsのストア2021年2月25日撮影(画像クレジット:Xinhua/Dan Tian/Getty Images)

注意:これはスタートアップではないが、ここにないと寂しい。ベイエリアで生まれたこのエレクトロニクスチェーン店の2月の閉鎖は、同店の通路をうろつきながら成長した多くの人びとの心に、ポッカリと大きな穴を開けてしまっただろう。少年の私がうろついたのはフリーモント店で、外装の1893年万博のテーマはどうでもよかったが、店内で見たテスラコイルに魅了された。

現在のようなAmazon(アマゾン)が支配する世界で、Circuit Cityはすでになく、RadioShackも影が薄い。そんな中で、この奇妙で美しい獣が、できうるかぎり長生きしたことは、すごいの一言しかない。ピーク時にはFryの大型店は9つの州に34あった。しかし結局は、物理店だけという不利な環境に対して新型コロナが致命傷になった。これらの大型店は、跡地がものすごく大きいので、都市計画の難題になっている。

LGのスマートフォン

画像クレジット:Joan Cros/NurPhoto/Getty Images(Image has been modified)

過去2年間の他のパンデミックによる損失と違い、LGのモバイル部門の死は長い間待たねばならなかった。韓国の巨大エレクトロニクス企業は、Samsung、Appleそしてますます増えている中国のメーカーが支配する市場についていけなかっただけなのだ。4月に、LGはテレビやその他のスマートホーム製品にもっと時間を費やすために、携帯電話からの撤退を発表した。

Visionrare(2021-2021?)

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

そしてそのビジョンは本当に稀だった。創業者のJacob Claerhout(ジェイコブ・クレアハウト)氏とBoris Gordts(ボリス・ゴーツ)氏がVisionrareを立ち上げたとき、彼らは2つのトレンドを結びつけた。投資のゲーム化とNFTへの関心の高まりだ。その最終結果は、ユーザーがさまざまなスタートアップのNFTによる株を売買して人工的なポートフォリを築き、他と競合するプラットフォームだった。それにはY Combinatorのスタートアップの一部すら加わった。

暗号技術という側面は別として、Visionrareのピッチは興味深かった。その偽装的な株式市場は、非公認の投資家がそこからスタートアップへの投資の実績を得る可能性があり、いずれは、「次の採用候補者を探しているVCのためのシグナルになる」だろう。

そんなのバズワードの一種だ、と思っている方もおられると思うが、でも一部の起業家や投資家の言葉は違う。その言葉とは「違法」だ。投資のセキュリティがあればそのプラットフォームは合法だったのか? 本物のスタートアップの株を新しいNFTで売ることにともなう「法的複雑性」を過小評価して、共同創業者たちが有料マーケットプレイスを閉鎖してしまったという反感もある。

暗号資産のマーケットプレイスに難しい議論はないが、新興の業態へのVisionrare流のアプローチは警報ベルを鳴らした。そしてそれは、そんなに頻繁に起きることではない。にもかかわらず創業者たちは、同社をいずれ再ローンチすると約束している。彼らのLinkedInには継続して協働中とあり「新しいプロダクト」を作っているそうだ。

Nuzzel(2012-2021)

10年近く前にFriendsterのJonathan AbramsがNuzzelを立ち上げた。そのソーシャルなニュースリードサービスは、読んでる記事のヘッドラインを高輝度で表示し、友だちとシェアできた。そのシンプルで知的なスタートアップはすぐに熱心なファンができて、特に個人化されたタイムラインを欲しがるTwitterユーザーが多かった。Crunchbaseによると、Nuzzelは投資家から5100万ドル(約58億6000万円)を調達し、その中にはSalesforceのCEOであるMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏もいた。

2019年にNuzzelはScrollに買収され、当時後者はそのサブスクリプションサービスにアグリゲーションとキュレーションを加えたがっていた。NuzzelのチームからフルタイムでScrollに加わった者はいなかったが、アプリは以前どおりに使えた。ただし、2021年までは。

5月にTwitterがScrollをすくい上げ、同時にNuzzelを閉鎖した。後に削除されたブログ記事でNuzzelのチームは、Twitterとともにスケールするには再構築が必要と説明した。

ScrollのCEOであるTony Haile(トニー・ハイレ)氏は消されたポストでで「Nuzzelを愛し、当面、現在のままのNuzzelを維持できないことに落胆された方に申し上げるが、私もみなさんと同様に落胆している。さまざまな奇跡のような延命策を探したが、どれもだめだった。将来に関しては、Nuzzelの機能性はTwitterの一部として常に感じられるので、そのような結果に導けたことは良かったと思う」。

それから数カ月後に、良いニュースが飛び込んできた。私たちが知っていたNuzzelはもはやないが、そのアプリのもっとも愛された機能をTwitterは復活した。そのTop Stories機能は、Twitter Blueの有料サブスクリプションサービスでデビューする

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

原文へ

(文:Brian Heater、Mary Ann Azevedo、Natasha Mascarenhas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。