2022年、もっと「エイジテック」に注目しよう

この2年間、私たちの多くは、画面を通してしか高齢の身内と会うことができず、安全とひきかえに物理的な距離を取りながら、年老いていく身内を見守ってきた。今回のパンデミックでは、何よりも高齢者の脆弱性が浮き彫りになった。創業者、投資家、ジャーナリストなど、テック業界の関係者はみんな「エイジテック」にもっと注意を払う必要がある。

「エイジテック」はニッチな分野ではなく、人口の高齢化は一部の国に限られた話でもない。世界保健機関(WHO)の最新レポートによれば、2030年には6人に1人が60歳以上の高齢者になり、80歳以上の高齢者は2020年から2050年にかけて3倍の4億2600万人に増えると予想されている。

またレポートには「人口の高齢化と呼ばれるこのような分布の変化は、高所得国で始まったものですが(例えば、日本では人口の30%がすでに60歳以上)、現在では低中所得国が最も大きな変化を経験し始めています」と書かれている。「2050年には、世界の60歳以上の人口の3分の2が、低中所得国に住んでいることになるでしょう」。

WHOの報告書は続けて「グローバル化、技術開発(交通・通信など)、都市化、移住、ジェンダー規範の変化などが、直接的・間接的に高齢者の生活に影響を与えています」と述べている。公衆衛生上の対応としては、現在および予測されるこれらの傾向を把握し、それに応じて政策を策定する必要がある。

大手テック企業は、こうした高齢人口増加の可能性をとらえ、既存のプラットフォームやハードウェアに新しいサービスを作り始めている。例えば、2021年12月初めにAmazon(アマゾン)は「Alexa Together」を正式に発表した。これは、Alexaデバイスを介護者のためのツールに変えるもので、ユーザーが助けを求めることができる機能や、緊急時のヘルプライン、転倒検知、デバイスの設定を管理するためのリモートアシストオプション、いつもより活動的でないことを家族のだれかが確認できるアクティビティフィードなどを備えている。一方、Google(グーグル)は、2020年老人ホームで「Nest Hub Max」の簡易版インターフェースの試験運用を開始した。これは、ロックダウン時に入居者が孤立感を感じないようにするための取り組みだ。

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しかし、私がもっと興味を引かれているのは、エイジテックに焦点を当てたスタートアップだ。ハードウェアのイベントを取材していると、高齢者向けの技術を開発している企業が多いことに勇気づけられる。来週のCESでの発表はまだほとんどが伏せられたままだが、イベントのエイジテック系のスタートアップをまとめて紹介する予定だ。

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2021年1月に開催された前回のCESでは、Nobi(ノビ)のスマートランプが最も興味深い製品の1つだった。このスマートランプは、転倒や不規則な動きを検知すると介護者に警告を発したり、人が立ち上がって歩くと自動的に床を照らしたりする、控え目なシーリングランプだ。

そのときには他にもエイジテック関連のプレゼンテーションがいくつか行われたが、その中には、非営利団体のスタートアップアクセラレータープログラムであるAARP Innovation Lab(AARPイノベーションラボ)による9社のプレゼンテーションも含まれていた。その多くは、高齢者が介護施設に入居するのではなく自宅で過ごす「エイジ・イン・プレイス」を支援するものだった。その中には、既存の構造物や敷地に合わせてアクセス可能なモジュール式の仕事場や自宅スペースを提供する「Wheel Pad」(ホイールパッド)、自宅で利用者の転倒リスクを予測できる体重計「Zibrio」(ジブリオ)、家族やその他の介護者が利用者の様子を確認できるApple Watchアプリやウェアラブル(ジュエリーなども含む)を開発する「FallCall Solutions」(フォールコール)などがある。

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しかしハードウェアができるのは今のところその程度だ。世界中のスタートアップは、介護者のニーズにも目を向けている。介護者の燃え尽き症候群は大きな問題だが、テクノロジーで支援できる余地がある。例えば現在シンガポールとマレーシアで展開しているHomage(ホーミッジ)は、今後2年間でさらに5カ国に進出する予定だ。同社は介護者を評価し、患者とのマッチングを支援するために、各医療提供者のプロフィールを作成し、また看護師と協力して、医療提供者が手動移送技術などの必須タスクをどのように実行できるかを評価する。これらのデータはすべて、マッチングエンジンによって使用され、家族や患者にとって介護者を見つけるプロセスを迅速にすることができる。

一方、英国では、Birdie(バーディ)が介護事業者を支援するためのソフトウェアツールを構築している。これには、管理コストの削減、介護者のチェックイン、投薬に関する通知をリアルタイムに行うことができるものなどがある。このスタートアップの目標は、よりパーソナライズされた予防的なケアを提供することで、成人が年齢を重ねても自宅で長く暮らせるようにすることだ。

家族構成の変化にともない、世界の高齢者は徐々に孤立化していて、それはテクノロジーを使っても解決するのは難しい問題だ。しかし、オンデマンドの高齢者支援とコンパニオンシップのプラットフォームであるPapa(パパ)は、高齢者の孤独感に対処することが有望なビジネスモデルになることを示している。マイアミを拠点とし、現在27州で事業を展開しているこのスタートアップは、前回の6000万ドル(約69億1000万円)のシリーズCからわずか7カ月後の先月に、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2が主導するシリーズDで1億5000万ドル(約172億7000万円)の資金を調達したことを発表した

誰もが安全だけでなく、快適さと尊厳をもって人生の終わりに到達する権利を持っている。テクノロジーは高齢者が愛する人たちから遠く離れざるを得ない社会力学の変化に対する解決策の一部となり得る。私の新年の抱負の1つは、TechCrunchでもっと多くのエイジテックスタートアップを取り上げることだ。もし私が注目すべきスタートアップをご存知ならshu@techcrunch.comまでメールを送って欲しい。

画像クレジット:eclipse_images / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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