3回の倒産危機を救った自作の在庫削減ツールを世の中へ、ハモンズが1.2億円を調達

ECやリアル店舗向けの在庫削減クラウドサービス「FULL KAITEN」を開発するハモンズ。同社は6月12日、大和企業投資、ユナイテッド、ベンチャーユナイテッド、みずほキャピタル、京銀リース・キャピタルを引受先とする第三者割当増資により、約1.2億円を調達したことを明らかにした。

本ラウンドはハモンズにとってシリーズAにあたるもので、2017年5月に大和企業投資から資金調達をして以来2度目となる。同社では今回調達した資金をもとに人材採用を進め組織体制を強化する計画。合わせてFULL KAITENの新バージョンや新機能の開発を進めるという。

小売業者にとって切実な在庫の問題を解決

FULL KAITENは小売事業者が抱える在庫の問題を解決するクラウドサービスだ。小売企業の在庫データをもとに取り扱うひとつひとつの商品に対して、これからどれくらい売れるのかを独自のアルゴリズムで予測。現在保有する在庫と照らし合わせ、適正な量なのかどうかを自動で導き出す。

ハモンズ代表取締役の瀬川直寛氏の話では、FULL KAITENの大きな特徴は3点だ。

1つ目は数万〜数十万の取扱商品を適正在庫、過剰在庫、不良在庫に自動で分類した上で、削減リストを数クリックで自動生成できること。資金繰り悪化の原因となる在庫の増加を検知し、削減すべき在庫の推奨セール価格まで提示する。

「重要なのは、いかに不良在庫になる前に在庫を動かしていくか。在庫が過剰になっている時にいち早く抽出して、セールなどで上手に販売していくことが必要。『気づいたら売上は増えているものの、売れない在庫も増えている』というありがちな問題をなくしたい」(瀬川氏)

2つ目は最適な仕入れ量を自動で算出できること。これには大きく2つの側面がある。要は「そもそも売れない商品は仕入れない、もしくはポテンシャル以上の量を仕入れない」ようにする一方で、「売れる商品についてはしっかりと仕入れる(機会損失を減らす)」ということだ。

瀬川氏によると、仕入れについては担当者が勘と経験に基づいて「どの商品を、どれくらい仕入れるか」を決めていることも多いそう。前回すごく売れたからという理由で安易にたくさんの在庫を抱えてしまうことが、経営を圧迫する原因にもなりうる。

FULL KAITENの場合は商品ごとの販売データを使って、各商品がピーク状態にあるのか、下降トレンドにあるかといった状況を分析し、適切な仕入れ量を計算するという。

そして3つ目が在庫の収益性を分析し、粗利が上がるような売り方を見える化できること。粗利を軸に考えた際に、自社にとって重点商品といえるものは何か。そしてそれをどのように売るのがいいのか。たとえば「他のどの商品と一緒に購入された時に粗利が増加したか」を始め、自社の粗利を伸ばすための方法を自動で分析するという。

「小売事業で売上を増やそうと思った時、絶対にやるのが在庫を増やすこと。ただやみくもに在庫を増やせば、売上が上がっても売れない商品も溜まるばかり。これまでも小売企業は担当者をつけて在庫のコントロールをしようと努力してきたが、商品点数が多いところほど人力でやるのには限界があった。FULL KAITENはシステムでその限界を解決する」(瀬川氏)

もともとは自社ECの課題解決のために生まれたツール

FULL KAITENのストーリーで興味深いのが、もともとは自社の課題を解決するために作られた社内ツールであったということだ。

ハモンズは2012年5月の創業以来、自社でECサイトを運営してきた。2014年2月から続けているベビー服EC「べびちゅ」では3回ほど倒産しかけたそうだが、そんな時に危機を救ったのが自作の在庫削減ツールだったという。

「今でもよく覚えているが、最初は2015年の12月。このままでは翌年2月の給料が払えないからと、『不良在庫を徹底的に削減しよう』と動き出した。ただ考えてみるとそもそも不良在庫とは何を意味するのかも曖昧。そこから在庫に関する議論が始まって、最終的に不良在庫かどうかは在庫の数だけでは判断できず、これからどんな売れ方をするのか予測する必要があるという結論に至った」(瀬川氏)

ハモンズには統計学や機械学習、コンピュータシミュレーションといったバックグラウンドを持つ理系出身のメンバーがいたこともあり、まずは移動平均のロジックを使って不良在庫を洗い出す仕組みを開発。該当するものはセールで販売し、危機を乗り切ったという。

ハモンズのメンバー。写真右から2番目が代表取締役の瀬川直寛氏

ところがその半年後には在庫がたまり、またピンチが訪れる。

「不良在庫を算出する仕組みはできても、そもそも不良在庫を生まない(仕入れない)仕組みはできていなかった。そこで予測結果を活用して、不良在庫になる商品を仕入れないで済むシステムを作ろうと。合わせて過剰在庫のコントロールをできるような機能もとりいれた」(瀬川氏)

このようなプロセスを繰り返した結果、不良在庫リスクを極小化する独自アルゴリズムの開発に成功。今では年間で在庫が17回転するような体制を構築できている(中小のアパレルECではだいたい5~6回転が多いそう)。

この自社ツールのアルゴリズムや汎用性をアップデートしたものこそが、2017年11月にリリースしたFULL KAITENだ。現在はアパレル企業を中心に、家具やスポーツ用品を扱う小売事業者などがすでに導入済み。導入企業数は非公開だが、規模でいくと月商1億円以上の企業がほとんどとのこと。現状は7割がECで、残りの3割がリアルな店舗だという。

同社では今回調達した資金をもとに組織体制を強化し、マーケティングやセールスを本格化していくほか、長い期間の需要予測ができる機能を備えた新バージョンの開発にも取り組む。

「近年ECであればCVRやCPAなどを最適化するためのツールが増えている。もちろんこれらのツールは価値があるが、『○○率』の改善は分母が大きいからこそインパクトがある。小売の場合は商品こそがカギで、売上を増やすには商品を増やすのが王道。だからこそFULL KAITENはどの商品をどのくらい保有しておくべきなのか、何を売れば効果的に売上が上がるのかを把握し、実行に移せるようなサービスにしていきたい」(瀬川氏)

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TechCrunch Japan

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