4年制大学をディスラプト、MakeSchoolのクレイジーな起業家がTC Tokyoに来て話すぞ!

Airbnbの共同創業者の2人に2009年に初めてサンフランシスコで会ったとき、ぼくは「こいつらはクレイジーだ」と思った。泊めた、泊まったなんてことを、勝手にエンドユーザーにやらせるなんて、頭がおかしい。日本で言えば消防法とか旅館業法とか規制もあるだろうし、事故やトラブルがあったらどうするのか? そう聞くと、Airbnbの創業者らは「だって、問題があったら規制当局から電話でも来るよね。今のところ何も来てないし、問題なんてないね」と、シラけた感じで言うのみだった。彼らは、自分たちはCraigslistより安全だとも胸を張った。

Airbnb創業者たちは、楽しそうで自信たっぷりだった。ぼくもそのとき初めてだったAirbnb体験が、あまりに楽しいものだったので、確かに今は人々が経験を通して理解していないだけで、いずれこれは広がるのかもしれないなと思ったのを良く覚えている。

そんな風に、Y Combinatorがシード投資する起業家にはクレイジーなアイデアを語る人が少なくない。世の中を変えようという大きなアイデアを真剣に追求していて、話を聞くと、何だかものすごく説得力があったりするケースがある。おぉ! という感じで面白くてクレイジーなやつらが多い。

MakeSchoolの共同創業者でCEOのジェレミー・ロスマン(Jeremy Rossmann)も、まさにそんな若者の1人だ。激しいアフロヘアだったジェレミーに東京で初めて会ったとき、ぼくはジェレミーと、こんな会話をした。

「ちょ、ちょっと待って。つまりそれって、MITとかスタンフォードみたな大学を置き換えるってこと? ガチで大学と競争するってこと?」

「うん。その通り。3年もしたらMITよりウチを選ぶ学生が出てくるよ」

ジェレミーが共同創業者であるMakeSchoolは、既存の4年制大学をディスラプトしようとしている。Y Combinatorの2012年冬バッチに参加していたサンフランシスコベースのスタートアップ企業だ。

18日、19日に迫ったTechCrunch Tokyo 2014でジェレミーに講演を頼んで日本に来てもらうことにしたので、MakeSchoolのことを少し紹介したい。

最初のビジネスモデルは実は大ゴケ

MakeSchoolは過去半年でピボットして、この10月には社名を変えている。もともとは「MakeGamesWithUs」という名前のスタートアップだった。高校生や大学生にゲーム開発を指導し、そうして生まれた大量のゲームによる収益の30%をレベニューシェアとして徴収する。それがMakeGamesWithUsの当初の狙いだった。

「ゲームはたくさんできたし、学びに来た学生たちも喜んでくれましたよ。17歳で初めて作ったゲームで1カ月1000ドルの売上があった、なんて夢みたいな話でしょ? すごく喜ぶよね。大成功ですよ。でも、ぼくらにとっては300ドルで何人のエンジニアが雇えるのかって話なわけで。ゼロ人ですよ。ダメなビジネスモデルでしたね」

このモデルで何が起こったかというと、iOSでゲーム開発をして売上を立てていたということを履歴書に書いて、大手ネット起業に就職していくハッピーな学生たちがたくさん生まれたということ。そこでジェレミーたちは、生徒から直接授業料を取るモデルに変更したのだという。ゲームから生まれる収益は100%作った生徒のもの。これが、1年前からとても上手く回り始めているという。

面白いのは、授業料を払えば誰でも入れるというわけじゃないところ。応募の80%は門前払いとしていて、合格率は20%程度なんだとか。これはUCLAやボストン大学といった、アメリカのトップ10校より1ランク下の合格率で、MakeSchoolが狙っているのは、まさにここの層の学生だとか。

「大学のコンピューターサイエンスの学位を置き換えたいんですよ。いまはサマープログラムをやっただけだけど、今後は1年のコースを15人の生徒でスタートする。来年も1年コース。その次の2016年には2年のコースを開設する。うちの生徒は2年で必要なことを学んで、GoogleやFacebookに就職するようになる」

サマープログラムにはMITから来た生徒もいたそうだが、非常に評判が良くて、またMakeSchoolで学びたいし、同じ期間の学習なら、むしろMITより効率的で有用だと言っているそうだ。

「アメリカの大学は学費がすごく高いという問題がある。インフレ率より速いペースで学費が上がっています。学位を取るためだけに4年間で1000万円から2000万円かかる。これは生活費をのぞいて、ですよ。だからアメリカ人はみんな大学に行くために貯金をするんです」

「授業品質の問題もある。コンピューターサイエンスの教材は現実に追い付いていません。例えば機械工学や建築って、そんなに変わらないじゃないですか。いま最高の建築学科の教授は、たぶん20年後もそうでしょう。でも、コンピューターサイエンスはそうじゃない。この分野は過去20年で、コンピュータサイエンスの全歴史を通してよりも多くの発明が行われました。いまの大学教育だと、仕事を始めたときに学校とは全然違うことを学ばなければならなくなるんです」

日本でL型大学、G型大学の議論があるように、社会に出てすぐに役立つ実践的な知識と経験、例えばフロントエンド開発だとかiOS開発とかをやるのが、旧来の大学とMakeSchoolの違いの1つ。そうかといってコンピューターサイエンスの基礎理論を飛ばすというような話ではない、というジェレミーは言う。

「MakeSchoolでも理論を飛ばしたりはしていません。企業側に「何を分かっていてほしいか?」と聞いています。GoogleもFacebookも基礎理論は大事だといいますからね。データ構造やアルゴリズムは重要。でも、Facebookに行って実際どんなアルゴリズムをいちばん使ってるんですかなんて聞く人は、今まで大学関係者にはいませんでしたからね」

「ぼくらにはMITやスタンフォードのようなブランド力はないかもしれない。ぼくらのゴールは、FacebookやGoogleといった企業のお墨付きを得ること。こうした企業からの推奨が増えれば増えるほど、生徒にとってMakeSchoolは理にかなった選択になってくる。Facebookが、MakeSchoolのカリキュラムやった人なら雇う、というようになりますからね」

「大学だと4年間かけて1000万円とか2000万円。一方われわれのコースだと2年間で500〜600万円。シリコンバレーにコネクションを持っているので、Y Combinatorのパートナーや起業家、投資家にも会える。MakeSchool経由でインターンシップの紹介をするので、ひと夏だけで150万円は稼げるし、もしインターンシップが得られなかったら返金にも応じます。4年制大学に行った友だちより、2年早く800万円とか900万円の年収でスタートを切れるわけです。Googleなら新卒で1000万円が稼げる今の時代、大学院に行かない人が増えているし、Googleなんかは学部卒をバンバン雇ってますよ。今でも研究者になる気があるなら、4年制大学がベストの選択です。だけど大学院や博士課程に行こうと思わない人たちも、すごく多いわけです」

「4年制大学だと必修科目も多いですよね。文学とか哲学とか。ぼくらもそういうのが大事だとは思っていますよ。でも、そんなの仕事を始めてからやったっていいじゃないですか。人間として大事な教養は長く学ぶものです」

コンピューターサイエンスの基礎と、実践的で現代的なプログラミングの両方を学んだソフトウェア・エンジニアの需要は爆発しているが、大学の教育変革が追い付いていないとジェレミーは言う。

「MITやCMUなど、コンピューターサイエンスで良い教育をしているところは数が限らている。需要のほうが供給よりはるかに多いんです。MITって新入生が1年で何人か知ってますか? 1年で、たった1000人ですよ。このうち300〜400人ぐらいがコンピューターサイエンス専攻です。数万人の需要に対して、これじゃ、ぜんぜん足りていません」

「MITだと受験者の7%ぐらいが合格します。でも、試験に落ちた人のうち上位7%を受け入れたとしても学生の質はほとんど同じだと統計的に言われてるんです。つまり、今はそのぐらい応募が多い。質の高い学生のほうが大学の数より多いので数万人の学生がMakeSchoolのターゲットです」

需要があるのになぜ大学は定員を増やさないのか?

「応募してくる一部のトップを取れば十分と思っているんです。トップ・オブ・トップの学生の質で競争しているからです。MakeSchoolがMITなどの大学に勝てるのは、就職での結果による競争で勝てるからです。インセンティブが違うんですね。それに、大学というのは巨大な官僚組織。そんなに簡単に変われませんよ」

アメリカの大学はもう1つ大きな問題を抱えているとジェレミーは言う。

アメリカの大学には終身雇用に相当する「テニュア」の資格を持つ教授と、そうでない教員がいる。テニュアの教授は研究で評価はされるが、学生からの人気や評判によって辞めさせられることがない。一方、非テニュアの教員は給与が低く、安定もしていない。ニーズはあるのに、MITは教員の予算を削減する方向にあるのだという。こうした教員にとって、教える喜びがダイレクトに感じられるMakeSchoolは評判が良いのだという。「ぼくらは研究とは関係がないので、こうした教員をより良い待遇で迎えられるんです」

ところで、ジェレミーはときどき日本に来て、投資家や教育関係者、ネット企業の関係者らと議論をしたりしているようだ。中国だと北京大学、日本だと東大やDeNAの名前が彼の口から出てきた。MakeSchoolの日本展開はあるのか?

「楽天なんかは英語化を推進しているし、シリコンバレーのスタートアップ企業のマインドセットや技術を持った人たちをインターンとして受け入れるのは理に叶うはず。逆に、日本からシリコンバレーに学び来るというのもあり得る。すでにこれまで2人ほど日本からの参加もあったけど、とても優秀だったし、もっと来てほしいですね」

大学をガチでディスラプトしようというシリコンバレーの人たちの目線の高い発想と、それをガシガシ推進しているジェレミーの話は聞き応えのあるセッションになると思う。TechCrunch Tokyoのチケットにはまだ少し余裕があるので、今からでも是非来場を検討してほしい。

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投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。