Airbnb、Uberから学ぶマーケットプレイスの作り方(1)マーケットプレイスを制限する

編集部注:本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説するPodcast「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。Off Topicは4月10日に大賞が発表されるJAPAN PODCAST AWARDS 2019にノミネートされている!

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。普段は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。これまでは、日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきました。Off Topicのポッドキャストでも発信してます。noteも不定期で更新しているので、他の記事もよかったら読んでみて下さい。

はじめに

米国スタートアップ業界で話題になっていた元Airbnbのグロース担当のLenny Rachitskyさん「マーケットプレイスの作り方」の記事を翻訳しました。Lennyさんから直接許可を頂いたので、今回は10パートのパート①をお送りしたいと思います。

本シリーズは、大きく3つのフェーズに分けての構成です:

1) フェーズ1:ニワトリとタマゴ問題について
・マーケットプレイスを制限すること(←今回の記事)
・サプライ側かデマンド側、どちらにまず集中するべきか?
・初期サプライの伸ばし方
・エンドユーザーの伸ばし方
2) フェーズ2:マーケットプレイスのスケールの仕方
・サプライ側とデマンド側のどちらが伸び悩んでいるかをどう判断するべき?
・スケール時のグロース戦略
・クオリティー担保戦略
・学び・やり直すと何を変える?
3) フェーズ3:マーケットプレイスの進化させる方法
・「Managed」(管理された)マーケットプレイスへの進化する方法とは?
・新規事業の追加方法

今回のテーマは、ニワトリとタマゴ問題のなかでも「マーケットプレイスを制限すること」について紹介する。

そもそも「マーケットプレイス」とは何か?

マーケットプレイスとは、デマンド(何かを欲しがっている人)をサプライ(何かを持っている人)に繋げて、その間に金銭取引が起きること。

マーケットプレイス企業とは、サプライもプロダクト/サービスも自社で抱えてなく、間の取引の管理などを行なっているだけのことだ。マーケットプレイス事業の目的は、サプライ側とデマンド側が効率良くマッチ出来て取引が取引が出来ること。

マーケットプレイスの代表的な企業は、以下だ。
Airbnb、Uber、Lyft、Alibaba、eBay、Etsy、Hipcamp、Doordash、Caviar、Rover、Postmates、Thumbtack、TaskRabbit、Craigslist

反対に、マーケットプレイスではないスタートアップは、
Delta Airlines(自社のサプライを抱えている)YouTube(金銭取引がない)Slack(サプライがない)

なぜマーケットプレイスは良いビジネスなのか?

マーケットプレイスは、良いビジネスだと言える。ポイントは5個だ。

1. ネットワーク効果
2. 参入障壁
3. 効率性
4. スケーラビリティ
5. 事業の柔軟性が高い

・ネットワーク効果
ユーザーが増えるほど、もしくはより使いやすい/安くなるほど、よりユーザーが増える(Lyft/Uberが良い事例)

・参入障壁が高くなる
ネットワーク効果が成立し始めると参入障壁が高くなる。今だとホテルはAirbnbに対抗できなくなっている。

・効率性が高い
サプライ(在庫)がない分、より安く、効率良くオペレーションを回せる。ホテル事業とAirbnb事業はそこで大きくコストの差が生まれている。

・スケーラビリティ
サプライ(在庫)がない分、スケールしやすい。ドッグホテルとRover(ドッグシッターと飼い主のマーケットプレイス)を比較すると、在庫コストや設置コストを考えなくて良いので、Roverの方がスケールしやすい。

・事業の柔軟性が高い
サプライ(在庫)がない分、ピボットしやすくなる。Uber BlackがUber Xへの事業展開した時も、自社で在庫を買わなくて済んだから早く一般向けの事業が展開できた。

マーケットプレイスの「ニワトリとタマゴ問題」

マーケットプレイスを始めるときに、最初のグロースサイクルを成立させるるのは大変だ。サプライ側もしくはデマンド側の片方を先にマーケットプレイスにコミットしてもらわなければ何も生まれない。

上の表は、制限をつけるための参考のチートシートだ。成功したほとんどの会社はマーケットプレイスに制限をつけいる。インタビューした会社の1社を除いて、マス向けへの成長の前にまずは自分のターゲットを絞っていた。制限というのは、地域別、もしくはカテゴリー別。サプライ側とデマンド側が同じ場所にある必要があれば、制限はほぼ必ず地域別。

ここでわかるのは、大きく事業を伸ばすためには、まずは小さくスタートすること。上記のリストは、左から地域別、カテゴリ別、制限をかけなかったマーケットプレイス企業にわけられている。

地域別で制限をかけたマーケットプレイス事例集

ここで、サプライとデマンドが直接会うプロダクトで、地域で制限をつけてグロースさせた例を紹介しようと思う。

事例1:Rover(ドッグシッターのマーケットプレイス)
「シアトルでスタートし、しばらくはそこだけにフォーカスした。シアトルは我々にとって最適なマーケットだったよ。犬が好きな人がたくさんいるし、テック系の人も多くいて旅行や出張に来る町でもある。しかも、Amazonが異常にドッグフレンドリー。アメリカでシアトルほどドッグフレンドリーな場所はないだろうね。このおかげでプロダクトの最適化が出来た。」— David Rosenthal氏(ex-Rover, GP at Wave Capital)

事例2:Airbnb(宿泊施設・民宿を貸し出すサービス)
「創業者が初期にニューヨークに集中した。同じようにAirbnbがグローバル展開をスタートした2011年には、地域をピックアップし、そこにひたすらフォーカスを当てた。」— Kati Schmidt氏(ex-airbnb)

事例3:Uber(配車アプリ
「新しいマーケットを開拓するプレイブックをAustin Geidt氏がリードしていたLauncherチームが作った。まずはサプライ側。目標は30人以上のドライバー獲得、1車あたりの到着時間を15分以内にする事。」— Andrew Chen氏(ex-growth at Uber, GP at a16z)

事例4:OpenTable(レストランのオンライン予約サービス)
「一つの地域に一定のレストランを確保した時に、OpenTableを使うバリューを顧客が感じていくれた事を学んだよ。レストランの密度が大事だった。大まかなルールだったのが、一つの町で50〜100店舗を獲得できればユーザーががっかりしなくなった事。」— Mike Xenakis氏(ex-SVP of Product at OpenTable)

事例5:Instacart(食料品の即日配達サービス)
「初期マーケットは需要がありそうな場所を選んでいた。例えば、冬が寒いシカゴとか。高い世帯収入、車が少ない世帯、頻繁に変わる天気な場所はデリバリーを欲しがる傾向にあった。」— Max Mullen氏(co-founder Instacart)

事例6:Breather(オンデマンドワークスペースサービス)
「1取引の合計時間が低かったので、『近さ』が大事だった(平均1取引は2時間ぐらいの部屋予約)。フラットアイアンビルみたいな高密度な場所だと予約可能なスペースを増やすとすぐにブッキングされていた。明らかなPMFだった。使われている時間や場所を見て、完コピしただけ。新しい事や、新しい町に行くのは間違い。まずは同じことを繰り返せるか?使ってくれたユーザーの次の場所も確保できるか?どうやって取引価格を倍にできるかを見るべき。新しいことはやらなくて良い。」— Julien Smith氏(co-founder of Breather)

事例7:Zillow(不動産売買マーケットプレイス)
「マーケットプレイスを始めた時には住宅ローンの金利レートを匿名でリアルタイムなおかつ正確に出すサービスはなかった。なので小さい市場から初めて、住宅ローン会社やブローカーにひたすらメールしてレートをマニュアルで毎日入力していた。」— Nate Moch氏(VP at Zillow)

カテゴリ別で制限をかけたマーケットプレイス事例集

事例1:TaskRabbit(お手伝い系マーケットプレイス)
「最初から幅広いことをやっていたが、一番人気カテゴリーでの流動性をかなり見ていた(便利屋、家事代行、引っ越し代行など)。需要に合う高いクオリティのサプライ側を用意するようにフォーカスしたよ。」— Jamie Viggiano氏(ex-marketing at TaskRabbit, CMO at Fuel Capital)

事例2:Eventbrite(イベント作成・管理サービス)
「コアなユースケースを見つけてトラクションを伸ばした。Eventbriteの場合、それはテック系ミートアップとカンファレンスだった。徐々にEventbriteの名前のサービスからの招待を見ることが普通になった。初期トラクションで一番伸びた分野なので、最初に集中させたよ。」— Brian Rothenberg氏(ex-growth at Eventbrite and TaskRabbit, Partner at defy)

事例3:Etsy
「最初は3つのカテゴリーの物しか売れなかった。それはビンテージ商品、クラフト用品、手作り用品だけ。」— Dan McKinley氏(ex-Etsy, Principal Engineer at MailChimp)

制限を一切かけなかったThumbtack

Thumbtack(サービスマーケットプレイス)
「通常のやり方は、Amazonが本でやったようにカテゴリーで制限をかけるか、YelpがSFでやったように地域で制限をかけるのが普通。我々は逆に最初から全カテゴリーと全地域に行ったので、長いごと資金調達できなかった。絶対上手くいかないと山ほど言われたが、我々の攻めていた領域の利用頻度を増やす必要があったので、この戦略をとったんだ。家で部屋のペンキ作業は数年に一回しか呼ばないので、それを最終的に年間8回から12回の利用頻度に増やしたのは浅く、広く地域とカテゴリーを取りに行くことだった。これをやらなければ我々は生き延びなかったと思う。」— Sander Daniels氏(co-founder of Thumbtack)

この記事の注意事項

・事例の成功した一番の理由はグロース戦略ではなく、単純にPMF(Product Market Fit)が成立していたから
・過去の戦略は今は使えないもの
・この記事は過去を思い出してもらったインタビューのまとめなので、記憶が曖昧かもしれない

最後に、この記事に貢献してくれた人を見てみよう

・Andrew Chen (ex-growth at Uber, GP at a16z)
・Babak Nivi (co-founder of AngelList)
・Benjamin Lauzier (ex-growth at Lyft, Director of Product at Thumbtack)
・Brian Rothenberg (ex-growth at Eventbrite and TaskRabbit, Partner at defy)
・Casey Winters (ex-growth at GrubHub, CPO at Eventbrite)
・Dan Hockenmaier (ex-growth at Thumbtack, founder of Basis One)
・Dan McKinley (ex-Etsy, Principal Engineer at MailChimp)
・David Rosenthal (ex-Rover, GP at Wave Capital)
・Georg Bauser (ex-Airbnb, CEO of Expansion Partners)
・Gilad Horev (VP Product at Eventbrite)
・Gokul Rajaram (Caviar Lead)
・Gustaf Alströmer (ex-growth at Airbnb, partner at YC)
・Hunter Walk (partner at Homebrew)
・Jamie Viggiano (ex-marketing at TaskRabbit, CMO at Fuel Capital)
・Julien Smith (co-founder of Breather)
・Kati Schmidt (ex-Airbnb)
・Max Mullen (co-founder Instacart)
・Micah Moreau (VP Growth at DoorDash)
・Mike Duboe (ex-growth at Stitch Fix, investor at Greylock)
・Mike Xenakis (ex-SVP of Product at OpenTable, Lecturer at Kellogg School of Management)
・Nickey Skarstad (ex-Director of Product at Etsy, VP of Product at The Wing)
・Nate Moch (VP at Zillow)
・Sander Daniels (co-founder of Thumbtack)
・Tal Raviv (growth at Patreon)
・Tamara Mendelsohn (VP and GM at Eventbrite)

次回は、米国最大級のマーケットプレイスが、どうやってサプライ側とデマンド側にフォーカスするのを決めたかをご紹介したいと思います。

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Written by Lenny Rachitsky (@lennysan) | Translated by Tetsuro (@tmiyatake1) | Edited by Miki (@mikirepo)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。