Alphabetは量子技術グループをスピンアウト、Sandboxが独立した企業に

量子テクノロジーに、ついにその時が来たのかもしれない。

2022年3月初めには、世界でも数少ない「専業」の量子技術企業Rigetti Computingが、特別目的買収企業SPACとの合併で上場した。しかし2021年10月にはもう1つの企業であるIonQがSPACとの合併で上場し、Rigettiは量子技術の商用化を明白に打ち出した最初の上場企業になる機会を惜しくも逃している。そして、もう1つのライバルD-Waveは、SPAC経由の上場を発表している。このような「動き」の意味を考えてみよう。

上場への動きは確かに量子技術が理論の域を超えて前進している1つの徴候ではあるが、もっと強力なシグナルは、それがAlphabetと強力な関係を結ぼうとしていることだ。同社は米国時間3月22日、6歳になる量子技術グループであるSandbox AQを独立した企業にすると発表した。

SandboxでAIと量子技術のディレクターを務め、長い間、X Prizeの取締役でもあるJack Hidary(ジャック・ヒダリー)氏は、引き続きこのカリフォルニア州マウンテンビューにある社員55名の企業を率いる。同社は通信、金融サービス、ヘルスケア、政府、コンピューターセキュリティなどの商用製品を開発するエンタープライズSaaS企業と自称している。

Sandboxには、元Alphabet会長でCEOのEric Schmidt(エリック・シュミット)氏、元JPMorgan Chaseの幹部でクレジット・デフォルト・スワップの開発に携わったBlythe Masters(ブライス・マスターズ)氏、元パロアルト研究所のチーフサイエンティストJohn Seely Brown(ジョン・シーリー・ブラウン)氏など、羨ましいほどのアドバイザー陣も揃っている。

さらに注目すべきは、Sandboxが額面非公開で「9桁ドル」のファンドを展開していることだ。新しい外部投資家の中には、Breyer Capitalとその創業者Jim Breyer(ジム・ブレイヤー)氏がおり、同氏はSandboxの顧問団にも加わった。その他にも、投資家集団の中にはSection 32、Guggenheim Investments、TIME InvestmentsそしてT. Rowe Price Associatesの顧問を務めるアカウントも名を連ねている。

AlphabetがSandboxのスピンオフを決意した理由の一部には、マーケットの需要もある。Gartnerによると、2023年は全世界の企業の20%が量子コンピューティングのプロジェクトに投資すると予想される。このパーセンテージは、2018年には1%未満だった。

Sandboxのコンピューティングパワーを有料で利用している顧客の中には、Vodafone Business、SoftBank Mobile、そしてMount Sinai Health Systemがいる。

量子技術への関心が高まっているのは、おそらく、真の意味で耐障害性の高い量子コンピューティング(量子物理学を利用して、多数の可能性の中から可能性の高い結果を判断する能力)は5年以上先になるかもしれないが、いわゆる量子センシング技術といった他の関連技術は急速に現実化しつつあるということがわかってきたからだろう。

実はSandboxも、量子コンピューターの開発や利用よりも、量子技術のAIへの利用にフォーカスし、特にサイバーセキュリティのプラットフォームを強化するアプリケーションを開発している。同社自身の言葉によれば「量子物理学とその技術には、量子コンピューターを必要とせずに、今日のハイパフォーマンスコンピューターを使って近い将来商用化できる側面が数多くある。そこから得られる量子シミュレーションは現実世界のビジネスと多様な産業の科学的課題にに対応できる。金融サービスやヘルスケア、航空宇宙、製造業、通信、材料科学など、その対応範囲は広い」という。

この声明はブレイヤー氏が2週間前に語ったことと重なる。その際、彼は私たちに「量子関連企業には国のセキュリティをめぐって大きなチャンスがあります。しかし、私が今日、投資の観点から本当に期待しているのは、必ずしも超大型資本集約型の量子コンピュータではなく、量子センシングのような分野です」と述べている。

ブレイヤー氏が例として挙げたのは、非常に強力で超軽量な医療用顕微鏡だ。「米国の一部の優れた病院では量子センシングの技術を試用しています。それは心臓医学や薬の発見に革命をもたらすでしょう」という。

つまり、ブレイヤー氏によると究極的には量子コンピューティングのプラットフォームが病気の発見やセキュリティの改善、データの保護などで大きな役割を果たすだろうが、これらのシステムの一部に対して部分的な応用も可能であり、今すでに政府や企業といた大きな組織が巨大な量子コンピューターの登場を待たずに量子技術の応用に取り組んでいる。いずれにしても、待つ必要がないともいえるかもしれない。同氏は「そちらの方に手を回す必要がある」という。

「現在、量子テクノロジーは、4〜5年後の量子コンピューティングのブレイクポイントには達していませんが、非常に大きな変化をもたらしています」とブレイヤー氏はいう。Sandboxのチームは、その先頭を走っているチームの1つだと、そのとき彼は示唆していた。

画像クレジット:Justin Sullivan/Getty Images

原文へ

(文:Connie Loizos、翻訳:Hiroshi Iwatani)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。