APIの台頭

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編集部注:本稿はMatt MurphyとSteve Sloaneにより執筆された。Steve SloaneはMenlo Venturesに勤務する。

ソフトウェアが世界を支配する」と耳にするようになってから5年ほど経った。SaaSアプリケーションの数が爆発的に伸び、ソフトウェアに重要な結合組織と機能を提供するAPIの分野にイノベーションの波が押し寄せている。サードパーティAPI企業の数も急増し、それらの企業がソフトウェアの作成および流通のあり方を根本から変えつつある。

マイクロソフトのWindowsのような特定のプラットフォーム向けのソフトウェアを開発する方法として、アプリケーション・プログラミング・インターフェイス(API)は何十年間も重要な役割を担ってきた。最近では、SalesforceやFacebook、Googleといった新しいプラットフォーム・プロバイダーたちがAPIをソフトウェア開発者に提供するようになった。そうすることにより、彼らのプラットフォームへの依存性をつくり出すことに成功したのだ。

そして今、新種のサードパーティAPI企業がソフトウェア開発者たちに特定のプラットフォームへの依存から脱却する方法を提供し、彼らはアプリケーションをより効果的に流通させることが可能となったのだ。

過去数十年間においてビジネスの世界で活躍してきたのは、全体が1つのアプリケーションで構成されたインフラストラクチャーやアプリケーションだった。しかし、それらに代わって台頭しはじめたのがモジュール型のアプリケーションだ。モジュール型のアプリケーションは、小型かつ独立した再利用可能のマイクロ・サービスによって構成されており、それらのマイクロ・サービスを組み合わせることで、より複雑なアプリケーションを作成することができる。結果として、ソフトウェア開発者はユニークな機能の開発に専念し、外部のスペシャリストが開発したプログラムでその周りを補強すればよい。そして、そのプログラムにアクセスする方法がAPIなのだ。

速い、安い、スマート

アプリケーションに必要な機能のほとんどは、既に他の企業が苦労して開発したものと同じものだ。そのことに気づいた開発者たちは、車輪の再発明に貴重な資源を投入することを避け、より大きなプラットフォームが提供するAPIを活用することにした。SalesforceやAmazonがそのプラットフォームの例であり、最近ではAPIに特化した企業も現れた。サードパーティAPIの時代は始まったばかりだ。だが、これまでに開発されたソフトウェアを見れば、StripePlaidの支払いシステムや、Twilioの通話システム、Factualの位置情報データ、Algoliaのサイト検索機能などを、開発者たちがどのように活用できるのかが一目瞭然だ。

まさしく、この分野はブームとなりつつある。私が調べた限りでは、ProgrammableWebは約1万5000ものAPIを提供しており、その数は毎日増え続けている。これらのAPIをソフトウェアに組み込めば、単体で開発した場合より遥かに素早く完成させることが可能だ。

ソフトウェアを低コストかつ素早くマーケットに流通させることは大きなアドバンテージとなる。その一方で、もっと重要な利点もある。コア能力に特化する企業は、他者と差別化する機能、すなわち「秘密のソース」をより早い速度で開発できるのだ。

APIがソフトウェア開発のエコシステムに与える恩恵はとてつもなく大きいのだ。

もう一つの利点は、サードパーティAPIを利用することは総じて優れた方法だということだ。サードパーティAPIは、独自に開発されたAPIよりも柔軟性を持つ。ある機能を構築し、それを維持するには多大な労力を必要とするが、企業はその労力を過小評価する傾向にある。しかもそれらの機能はサードパーティAPIによって代用可能なのにも関わらずだ。そして最後のアドバンテージは、サードパーティAPIの開発者の方がより大きなデータにアクセスすることが可能であり、そのデータがネットワーク・エフェクトを創り出すという点だ。

そのネットワーク・エフェクトは優れた価格やサービス品質に見て取ることができ、AIを使ってそのデータの中から最も良いパターンを抽出することができる。例えば、Menlo傘下の企業であるSignifydは不正アクセスを見つけ出すサービスをAPIとして提供している。同社は100以上の企業から取引データを集めており、個々の企業による独自分析よりも高い精度で不正アクセスを見つけ出すことができる。

新種のソフトウェア企業

APIとしてソフトウェアをリリースすることで、そのソフトウェアが採用される可能性を高めることができる。多くの場合、ソフトウェアを利用する顧客はディベロッパーなのであり、ソフトウェアを特定の業界に対して垂直に売り込んだり、パッケージとして売り出すよりも販売プロセスがスムーズになる。収益モデルは常に反復的であり、利用される頻度が高まれば収益も増えるという、本質的にスケーラブルなビジネスモデルだ。APIベースの企業がもつエコシステムはまだ進化の途中ではあるが、そのような企業の特性が組み合わさることで、最終的にはより資本効率的で利益率の高いビジネスモデルが創り出されると私たちは考えている。

このチャンスは新参者の企業だけに与えられたものではない。既存の開発企業にとっても、独自の機能をAPIとして提供し、製品をアプリケーションからプラットフォームへと進化させる機会となるだろう。傑出した企業の中には、目標以上の成果を生み出すAPIビジネスを構築した者もいる。伝えられるところによれば、Salesforceは収益の50%をAPIから生み出しており、eBayは60%近く、Expediaではなんと90%だ。

このビジネスモデルは起業家や投資家たちを惹きつけている。次なる大流行アプリをゼロから創り出そうとしたり、需要があるのか分からない状態でマーケティングや流通のために多額の資金を投入したりするよりも、特定領域の機能を構築し、他のディベロッパーの武器商人となる方が理にかなっているのかもしれない。

APIモデルは、成功すれば資金効率性を得られ、時間が経つにつれてネットワーク・エフェクトが生まれるという強力な流通方法である。現在、900万人の開発者がプライベートなAPIの開発に取り組んでいる。これらの人材が、「企業より機能」というチャンスに目を向けることがあれば、パブリックなAPI開発にも大きな変化が生まれる可能性がある(パブリックAPI開発者は120万人に留まっている)。

バリュー・チェーンを見直す

これまではデータに最も近い企業や(例:システム・オブ・レコード、SoR)、ソフトウェアを自社のプラットフォームに依存させることが可能な企業こそが「ビックな企業」だった。APIの世界では、ビックな企業とはスマートな方法でデータを集め、それを他者に公開する企業なのかもしれない。

これにより新しいタイプの参入障壁が生まれる。Twilioは圧倒的な通信ボリュームをもつことから、個々の開発者では得られられないような割引を通信キャリアから得たり、多くの開発者が利用する支払いシステムをもつStripesが獲得している大口割引などがその例だ。Usermind(Menlo Venturesの投資先企業の一つ)などの企業は、既存のSaaSアプリケーション間のAPIによるコネクションを単純化するワークフローを創り出すことによって、複数のアプリケーションの運用を可能にしている。

今現在においてもAPIスタートアップのエコシステムは魅力的であるが、私たちはその魅力は増す一方だと考える。これまでの5年間、SaaSやビックデータ、マイクロサービス、AIといった企業志向のテクノロジーに対する世間の関心はとても高かった。この4つの分野が結合した存在こそ、APIなのだ。

企業向けソフトウェア開発の現場においてサードパーティAPIへの注目がさらに高まることで、これから数々の大物企業が生まれるだろう。プロセス間の人手を減らした販売モデル、循環する収益、分散化された顧客基盤をもつAPIのビジネスモデルはとても魅力的だ。それに加えて、アプリの開発者はユニークな機能の開発に専念することができ、特に重要なイニシャル・プロダクトを低コストかつ素早く流通することが可能となる。APIがソフトウェア開発のエコシステムに与える恩恵はとてつもなく大きいのだ。

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[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

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TechCrunch Japan

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