Apple、ヘッドホンのBeatsを32億ドルで買収へ(FT紙報道)

これはAppleにとって過去最大の買収になるかもしれない。Financial Timesによると、AppleはBeats Electronicsの買収交渉の最終段階にある。Beatsは人気のヘッドホン、Beatsのメーカーであると共に、音楽サービスのBeats Musicを提供している。

もし契約が成立すれば、来週には発表されると同紙は報じている。両社は一部の財務条件でまだ合意していない。

この買収で最も驚かされるのはその規模だ。Appleは買収に関して非常に慎重だった。この会社は、企業を買うために巨額を投じることを好まない。

それは、Appleが買収に消極的という意味ではない。過去18ヵ月間、Appleは24社を買収した。最近の大きい契約は、PrimeSenseの買収だった ― それでもAppleはわずか3.5億ドルしか支払っていない。

直近の収支会見でApple CEO Tim Cookは、理にかなえば買収に多額を投じる用意があると語った。Beatsの買収は理にかなったというわけだ。これは、一連の大型買収の第一弾になるかもしれない ― だとすればAppleにはカルチャーシフトが起きている。

高すぎるヘッドホンは実入りがいい

Beatsブランドの人気は非常に高いため、Appleはオーディオアクセサリーの販売にこのブランドを使い続けるだろう。Appleは、他のデバイスにもBeatsブランドを使うことが可能だ。

Beatsを作ったのは、ラッパーのDr. Dreと、Interscope Geffen A&M Recordsの会長、Jimmy Iovineだ。最初のBeatsヘッドホンは “Beats by Dr. Dre” のブランドで2008年に売り出された。当時、同社の製品はMonster Cableが独占製造していた。この契約は2012年に期限切れとなり、それ以来同社は自社で製品を製造している。

Apple端末にはイヤホンが必ずついてくるが、ここ数年ヘッドホンの人気が高まっている。オーディオマニアはBeatsのヘッドホンを嫌う傾向にあるが、同社は十分な市場シェアを獲得することに成功している。これらのヘッドホンは高すぎると広く考えられているため、これは非常に実入りの良い市場だ。Appleが、ポータブル音楽市場でこの分野を支配することの意味はそこにある。

さらには音楽サービスもある。2012年7月、Beatsは音楽ストリーミングサービスのMogを買収した。後に、Mogのサービス自体は閉鎖された。そして2014年1月、Beats Musicとして再スタートを切った。

Beats Musicは未だに新参であり、ユーザーもごくわずかだ。買収価格が非常に高いのはヘッドホン事業のためであり、音楽サービスではない。

同サービスはSpotifyやRdioという定着したサービスと競合する。追加機能は殆どない。全体的に、ブラウジング体験はずっとビジュアルで、タイポグラフィーとジェスチャーが強調されている。音楽の推奨にも力を入れている。

音楽市場は聞き放題のストリーミングサービスへと確実に移行しつつある

2009年にAppleが別の音楽サービス(Lala)を買収した時、サービスは閉鎖され、開発チームはAppleの他のプロジェクトに配置された。Beats Musicが存続するのか同じように閉鎖されるから不明だ。

しかし、一つ確かなことがある ― Appleは楽曲ダウンロードに深刻な問題を抱えている。音楽市場は聞き放題のストリーミングサービスへと確実に移行しつつある。

米国レコード協会の2013年のレポートによると、ストリーミングは音楽業界で他を圧倒する成長分野であり、前年比39%で伸びている。比較して、ダウンロードは2012年からわずか1.1%しか成長していない。

もしAppleが何も手を打たなければ、Spotifyをはじめとするサービスが同社のシェアを食うだろう。音楽レーベルとの契約がAppleに移管されるかどうかは不明だ。いずれにせよAppleは、どこかの時点でレーベルと再交渉する必要がある。Beatsの買収によって、Appleは音楽ストリーミンプサービスのやり方を知っているチームを迎えることになる。

Appleは既にストリーミングサービスを自身で実験している ― しかし実験は必ずしも成功しなかった。最初はiTunes Matchたった。年間25ドル[日本では3980円]で、最大2万5000曲をクラウドに保存できる。このサービスはパソコン内のMP3とiTunes Storeで購入した曲すべてを同期して、iPhoneやiPadからこのカタログをストリーミングで聞くことができる。非常に便利ではあるが、Appleの音楽ビジネスのモデルを真に変えるものではない。やはり曲は買わなくてはならない。

2013年6月、AppleはiTunes Radioを開始した。くつろいだラジオ体験だ。しくみはPandoraとよく似ている ― 音楽の好みに合わせて自分専用のラジオ曲を作る。しかし聞き放題のストリーミングサービスとは大きく異なる ― 特定の曲を検索して聞くことはできない。

最後に、この買収の敗者が一人いる ― HTCだ。2011年、HTCはBeatsの50.1%を3.09億ドルで買った。後に同社はその持ち株を2回に分けて売り戻した。一度目は480万ドルの純損失、二度目は8500万ドルの利益だった。

しかし、あの持ち株50.1%は今なら16億ドルに値する。換言すれば、HTCはAppleによる買収によって12.9億ドルの利益を上げていたかもしれない。そうなれば、この数年間急速に縮小してきた携帯電話メーカーにとって大きな助けになっただろう。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook