Apple上級副社長へインタビュー: 「HEYアプリへの対応もApp Storeのルールも変える予定はない」

TechCrunchは米国時間6月18日、Basecamp(ベースキャンプ)がiOS App Storeで販売しているHEY Emailアプリの件について、Apple(アップル)のPhil Shiller(フィル・シラー)上級副社長に電話取材を行った。取材の中でシラー氏は「問題のアプリが今のままApp Storeで販売を続けることを可能にするようなルール変更を行う予定はない」と語った。

「現時点で、App Storeに関して変更を検討しているルールはない。App Storeの現行ルールの範囲内でこのアプリを機能させるために開発者にできることはたくさんある。それをぜひ行っていただきたい」とシラー氏は言う。

HEY Emailアプリに対するAppleの対応に世界中が注目している。HEY Emailアプリの完全版の利用料金をアプリ内課金ではなくHEY(ヘイ)のウェブサイト経由で支払うようにしたことを理由に、App Store審査の初期承認をすでに受けていた同アプリのアップデートがApp Storeによって繰り返し拒否されていたことを、2人の創業者David Heinemeier Hansson(デヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン)氏とJason Fried(ジェイソン・フリード)氏を含むベースキャンプの開発者たちがツイートしたためだ。

HEY Emailアプリは現在、App Storeからダウンロードするだけでは使うことができない。ヘイのウェブサイトでサブスクリプション料金を支払ってはじめて使えるようになる。

「ユーザーがアプリをダウンロードしただけではそのアプリが機能しないのは、われわれの望むことではない」とシラー氏は語り、アプリ外にあるのと同じ決済機能をアプリ内でも利用できるようにすることをApp Store登録の条件にしているのはそのためだ、と説明した。

誤解のないように言うと、HEY EmailはApp Storeに登録されている大半のアプリに課されているルールに違反している。このルールの例外は、音楽、書籍、映画など特定の外部コンテンツを表示するための「リーダー」と呼ばれるアプリと、エンドユーザーではなく組織や企業を対象とする一括購入料金オプションのみを提供しているアプリだけである。

シラー氏はTechCrunchの電話取材に対し、HEY Emailはそのような例外アプリではない、とはっきり答えた。

Nextflixをはじめとする「リーダー」タイプのアプリについてシラー氏は「例外アプリとしての扱いはすべてのソフトウェアを対象としたものではない」と語り、「メールアプリが例外として認められることはなく、これまでも認められた前例はない」と説明する。

実は、HEY EmailのMac用アプリは、現在iOS用アプリがApp Storeで警告されているのと同じ理由ですでに拒否されている。iOS用アプリのオリジナルバージョンは誤って承認されただけであり、そもそもApp Storeに公開すべきではなかった、とシラー氏は言う。

そうなると問題は、現行のApp Storeルールを専門的に分析すればHEY EmailがApp Storeから削除されずに済む方法が見つかるのか、ということではなく、そもそもアップルの対応が妥当なのかどうか、という点になる。

私はシラー氏に、アップルは、App Storeにアプリを公開しているすべての企業から、その企業がiOSファーストであるかどうかにかかわらず、収益の一部を受け取る権利があると考えているのか、と質問してみた。

「そう質問したくなる気持ちはわかるが、われわれはそのように考えているわけではない」とシラー氏は答えた。

現行ルールの範囲内でApp Storeでの公開を継続させるためにベースキャンプが導入できたであろう決済方法はいくつもある、とシラー氏は語り、実際に「アプリ内とウェブサイトで異なる料金を課金する」、「追加機能付きの無料版を提供する」などの方法を例として挙げてみせた。

とはいえ、ユーザーに課金するデジタルサービスを開発するのであれば、アプリのユーザー体験向上と決済システムの安全確保のために、アプリ内課金の仕組みとアップルの決済システムを使ってほしいと考えている、とシラー氏は語る。

シラー氏によると、HEY Emailは1つの方法として、まずは基本的なメール閲覧機能を持つアプリの無料版または有料版をApp Storeに公開した後で、そのiOS用HEY Emailアプリを使って利用できるアップグレードされたメールサービスをiOSまたはHEYのウェブサイトで提供することができたはずだという。さらに別の方法として、すべてのフィードを読み込むことも別サイトで課金できる有料フィードを読み込むこともできるRSSアプリを使う手もあった、とシラー氏は語る。いずれの場合でもApp Storeからダウンロードした時点ですぐに使えるアプリができたはずだ。

多くのユーザーにとってよりなじみ深い別の方法は、やはりアプリ内課金によって有料版にアップグレードできる無料版アプリである。

もちろん、残念なことに現行ルールの下では、ヘイはアプリ内で何らかのアップグレードサービスを宣伝することも、それに言及することさえもできないため、そのようなサービスはアプリ外のチャンネルで売り込むしか方法はない。

現在繰り広げられているこの議論についてTechCrunchのSarah Perez(サラ・ペレツ)が記事にまとめてTechCrunchウェブサイトに投稿したので、最新の情報を確認するためにぜひご一読いただきたい。そして、米国時間6月18日、Facebook(フェイスブック)のゲームアプリがルール違反を理由にApp Storeの公開承認を5回も拒否されていたことをThe New York Times(ニューヨーク・タイムズ)が報じた。こうしたニュースはすべて、アップルの開発者向けイベント「WWDC」が開催直前であるうえに独占禁止法違反の疑いでEU(欧州連合)がアップルの捜査を始めるのも目前という、まさに最悪のタイミングで飛び込んできた。

普段からアップルに関する記事を書く機会が非常に多く、App Storeに関するルールの個人的解釈のせいでアプリがアップルから拒否されるのではないかと舞台裏でいつも心配する開発者の姿をこれまで頻繁に目撃してきた者として、私はこの問題について自分なりに真剣に考えてきた。

個人的に、今回の件は、突き詰めるといくつかの明快な事実で成り立っていると思う。HEY EmailがApp Storeのルールに違反しているのは事実だ。つまり、問題は「HEYによる違反を正当化するためにはどのようにルールを歪曲あるいは拡大解釈すればよいか」ということではなく、「そもそもそのようなルールは存在すべきなのか」ということである。

アップルがこのような状況であえて地雷を踏むような対応をしているのは、自分たちは正しく公平なことを行っているという認識がアップル社内にあるからだと思う。App Storeというプラットフォームを作ったのはアップルなのだから、デジタル領域にも現実世界にも多大な経済的利益をもたらしているそのプラットフォームの収益を受け取る権利がアップルにはある。さらに、アップルが決済プラットフォームを管理することがセキュリティおよびプライバシー保護の観点から有益であることは疑う余地がない。

「でも確かにアップルは世間の反応を見て対応を変えている」と反応する人は、スケールの力を過小評価していると思う。アップルは毎週10万件ものアプリを承認しており、承認が拒否される理由のほとんどは簡単に修正可能な問題によるものだ。大海原に白く砕ける波がちらほら見えると、どうしても海より波の方に目が行ってしまう。それと同じように、メディアも承認が拒否されたアプリにばかり注目する。アップルが持つスケールの大きさが世間の見方を組織とそれをリードする人々に都合のよい方向に曲げてしまうことがしばしばある。

だが私はこの件について以下のように感じており、そこには世間一般で見落とされがちな点が含まれているように思う。

  1. App Storeに対する嫌悪感や苛立ちを自分の中に鬱積させる人が増えている気がする(私の情報筋のみならず他の記者の情報筋もこれが事実であることを裏付けている)。人々がその感情を表に出さない理由は、そうする度胸がないことと、App Storeには存続してもらう必要があるためだ。
  2. 誰に批判されるかによって反応が大きく異なる場合がある。ハンソン氏は声高に不満を叫ぶ面倒な人物かもしれないし、あんな意見の伝え方では言われた方も聞く気が失せるだろう。しかし、変化と自省のきっかけになるのは、何も友人や仲間からの言葉だけではない。そして、怒りに燃えて不親切に見える人から発せられた助言を当てはめて変化するのは、2倍辛い。しかし、そのような人の意見こそが正しい場合もある。

青臭いことを言っていると思われるかもしれないが、アップルはその偽りのない誠実な価値観を、大企業として他に類のない真に独特な方法でビジネスにおいて実践していると私は感じている。この意見に同意できない人がいくらかというよりも大勢いることはわかっている。しかしこれは、長年にわたってアップルへの取材を重ねる中で数えきれないほどの役員やあらゆる部署・役職の社員と公私にわたって実際に会って話してきた私が目撃してきたことである。John Gruber(ジョン・グルーバー)氏が書いているように、「われわれは正しいことをしている」という論点を「何が正しいことなのか」という論点にすり替える無駄な努力に意味があるとは思えない。

この電話取材の直前に、TechCrunchはアップルから1通のレターを受け取った。アップルがフリード氏とヘイに宛てて書いたレターと同じものだ。

このレターでは、ヘイがApp Storeの現行ポリシーに違反しているというアップルの主張が繰り返されていた。以下はその抜粋だ。

「iOS用Appを開発してくださり感謝いたします。App審査委員会は、ベースキャンプがこれまで長年にわたり数々のAppとその後継バージョンを開発してApp Storeで提供してくださり、そしてApp StoreがそうしたAppを幾百万ものiOSユーザーに配布してきたことを理解しています。これらのAppではApp内課金の機能が提供されていません。結果として、過去8年間にわたりApp Storeには何の収益ももたらされませんでした。現行の『App Store Reviewガイドライン』とすべての開発者に順守が義務付けられている条件を貴社が順守してくださる限り、App審査委員会は今後も貴社のAppビジネスを支援させていただきたいと考えており、貴社のサービスを無料で提供するためのソリューションを提案させていただく所存です。

この文面からわかるとおり、今のところアップルの姿勢が変わる気配はない。

以下がこのレターの全文である:

ジェイソン・フリード様

貴社のAppであるHEY Emailに関する申し立ての審査結果についてご報告いたします。

App Review Board(App審査委員会)は、貴社のAppについて審査を行った結果、先日の承認拒否は有効であると判断いたしました。貴社のAppは、下記に詳述するApp Store Reviewガイドラインに抵触しています。お気づきのとおり、HEY Emailが2020年6月11日にMac App Storeに提出された際に拒否されたのも同じ理由によるものです。

HEY EmailはApp Storeにおいてメール用Appとして提供されていますが、ユーザーが同Appをダウンロードしても使うことができません。ユーザーは、ベースキャンプのHEY Email用ウェブサイトでHEY Emailの使用ライセンスを購入するまでは、同Appを使うことができません。これは、App Store Reviewガイドラインに記載されている以下の条項に違反します。

ガイドライン 3.1.1 – ビジネス – 支払い – App内課金

Appのコンテンツまたは機能をリリースするには、App内課金を使用していただく必要があります。貴社のAppでは、ユーザーはコンテンツ、サブスクリプション、機能をアプリ外で購入することが必要ですが、そうしたアイテムをApp Store Reviewガイドラインに従ってApp内でApp内課金を使用して購入できるようになっていません。

ガイドライン 3.1. 3(a) – ビジネス – 支払い – 「リーダー」App

リーダーAppは、ユーザーがApp外ですでに購入したコンテンツやコンテンツのサブスクリプションにApp内からアクセスできるようにするものです。貴社のメール用Appは「リーダー」Appに関するこのガイドラインの下で許可されているコンテンツタイプ(具体的には、雑誌、新聞、書籍、オーディオ、音楽、動画、プロ向けデータベースへのアクセス、VoIP、クラウドストレージ、授業管理Appなどの承認済みサービス)には該当しません。そのため、貴社のApp内でApp内課金を使用してコンテンツまたは機能へのアクセスを購入するオプションをユーザーに提供する必要があります。

ガイドライン 3.1. 3(b) – ビジネス – 支払い – マルチプラットフォームサービス

複数のプラットフォームで動作するAppでは、ユーザーは別のプラットフォーム上または開発者のWebサイトで入手したコンテンツ、サブスクリプション、機能にアクセスできます。ただし、そうしたアイテムをApp内のApp内課金アイテムとしても購入できるようにする必要があります。貴社のHEY Email Appでは、コンテンツ、サブスクリプション、機能がApp内のApp内課金アイテムとして購入できるようになっていません。実際のところ同Appは、ユーザーがベースキャンプのHEY Email用ウェブサイトにアクセスして無料トライアルを開始するか、意図された用途で同Appを使用するための別途ライセンスを購入するまで、メールや他のいかなる用途でもAppとして機能しません。

対策

この問題を解決するために、App Store Reviewガイドラインのいかなる条項にも違反しないように貴社のAppを修正していただくようお願いします。

App Store Reviewガイドラインを順守するよう貴社のAppまたはサービスを修正する方法はいくつもあります。これまでにコンテンツ、サブスクリプション、機能をApp外で購入したユーザーは、App内でも引き続きこうしたアイテムを利用できます。ただし、App Store Reviewガイドラインに従って新規のiOSユーザーがApp内課金を使用してアクセスを購入するオプションが提供される場合に限ります。

貴社がユーザーにApp内課金のオプションを提供することを希望しない場合は、提示されているApp機能のとおりに、標準的なIMAPとPOPのメールアカウントを使用するメールクライアントとしてAppを提供し、ユーザーが任意でメールサービスプロバイダーとしてHEY Emailサービスを使う設定ができるようにすることも可能です。これにより、コンテンツや機能を使用するためにユーザーが追加の支払いを行わなくても、同Appはメールクライアントとして機能します。このアプローチでは、貴社が貴社のWebサイトで販売するメールサービスは、App Storeで提供されている貴社のAppとは明らかに別のメールサービスとなります。

App審査委員会は、貴社がこうした方法や別のアイデアを活用し、HEY Email AppをApp Store Reviewガイドラインに準じたものにするために役立つ情報を提供したいと考えています。

iOS用Appを開発してくださり感謝いたします。App審査委員会は、ベースキャンプがこれまで長年にわたり数々のAppとその後継バージョンを開発してApp Storeで提供してくださり、そしてApp StoreがそうしたAppを幾百万ものiOSユーザーに配布してきたことを理解しています。これらのAppではApp内課金の機能が提供されていません。結果として、過去 8 年間にわたりApp Storeには何の収益ももたらされませんでした。現行の『App Store Reviewガイドライン』とすべての開発者に順守が義務付けられている条件を貴社が順守してくださる限り、App審査委員会は今後も貴社のAppビジネスを支援させていただきたいと考えており、貴社のサービスを無料で提供するためのソリューションを提案させていただく所存です。

App審査委員会は、貴社がHEY Email AppをApp Storeで提供できるよう、今後もサポートさせていただきたいと考えております。

どうぞよろしくお願いいたします。

App審査委員会

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カテゴリー:ソフトウェア

タグ:Apple App Store インタビュー

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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