Apple Musicはコンサートのストリーミングを強化する

音楽ストリーミングアプリは差別化に苦労している。その中でApple(アップル)は米国時間12月4日の夜、本社にあるSteve Jobs Theater(スティーブ・ジョブズ・シアター)で開催される、Billie Eilish(ビリー・アイリッシュ)の大規模なショーを使い、コンサートビデオを戦略の中心にしようとしている(訳注:コンサートはすでに終了しており、現在はオンデマンドで視聴できる)。このApple Music Awardsコンサートは、ライブストリーミングが行われた後、Apple Musicの6000万人の加入者に、オンデマンドでストリーミングされる。アップルは近い将来にも、こうしたストリーミングコンサートをもっと開催したいと考えている。

単なるコンサートのストリーミングを超えて、アップルはアートやアーティストの味方としての認知を強化しようとしている。Apple Musicは、iPhoneメーカーの巨大な収益のほんの一部に過ぎないため、Spotify のようなミュージシャンの成功に寄り添っている(と考える人がいる)、音楽専業のライバルと比較したときに、必要以上にビジネスライクで資本主義的なもののように見られる可能性もある。

真剣なリスナーによるチャンネル登録者数を増やし、クリエイターの信頼を勝ち取るには、Apple Musicは、単により多くのアップルハードウェアを販売するようにデザインされているように見られるわけにはいかない。そこで今夜、同社はアーティストたちへの敬意を示し、最初のApple Music Awardsをお披露目したいと考えたのだ。ビリー・アイリッシュはアーティスト・オブ・ザ・イヤーと、彼女の兄であるフィネアス・オコネルとともにソングライター・オブ・ザ・イヤーを獲得した。一方リゾ(Lizzo)はブレイクスルー・アーティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞した。さらに、Apple Musicのストリーミングカウントに基づいて、アイリッシュの「When We All Fall Asleep, Where Do We Go?」がアルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞し、Lil Nas X(リル・ナス・X)の「Old Town Road」がソング・オブ・ザ・イヤーとなった。

賞のトロフィー自身が特別に加工されたアップルの作品であり、WWDCでガジェットを作成するロボットのビデオで見られるような、非常に凝ったデザインのものだ。ナノメートル精度の平らなシリコンウエハーの単一の12インチディスクから加工されるが、これはAppleのiPhoneを駆動しているものと同じ種類のものだ。銅の層には紫外線リソグラフィーでパターンが刻まれ、ウェーハ上の数十億個のトランジスタ間をエッチングで接続する。その後、何百個ものチップに切断され、数カ月をかけてガラスと酸化皮膜で覆われたアルミニウムの間に吊るされた反射するトロフィーが作成される。一風変わったコレクターアイテムになることを予想させるものとして、それぞれの賞にはしっかりと設置するためのアップル特製の水準器が付属している。

受賞者とその仲間のアーティストたちが、アップルが音楽を本当に気にしているという認識とともに会場を去ることを期待しているように思われる。それに加えて、Apple Musicの規模は、アーティストたちに、このストリーミングサービスで曲へのリンクをより多く共有し、競合するリスニングアプリよりも優先してプロファイルを紹介したい気持ちにさせる役に立つだろう。

コンサート方面に関して言えば同社は2007年に、年次開催のApple Music Festival(以前はiTunes Festivalと)を開始した。しかし、10年目の2017年に、ブリトニー・スピアーズ、エルトン・ジョン、そしてチャンス・ザ・ラッパーのライブを大々的にストリーミングしたあと、アップルはイベントを中止していた。Apple Musicは昨年、専用のMusic Videosタブを追加したが、最近はいくつかのイベント(テイラー、ザ・クリエイター、ショーン・メンデス)以外でのコンサートストリーミングは実施しなかった。これらのコンサートビデオは、Apple Music内で見つけるのが難しいものもある。

しかし、今回の取り組みはアップルにとって大きなチャンスでもある。音楽ストリーミングサービス全体を眺めると、カタログはより似通ったものになり、誰もがお互いのパーソナライズされたプレイリストと発見メカニズムをコピーし合い、多くがラジオとポッドキャストを取り込んでいる。一方、数年前と比較して、ストリーム限定音楽やアーティストに対する包括的な支払いはそれほど流行っていない。音楽カタログの断片化はリスナーに対して不便を強いることになり、大量配信に失敗したアーティストにとって有害である可能性がある。そして複数の冗長なストリーミングサービスにお金を払いたくないアーティストファンからの反発を招く可能性がある。

その点、通常はカメラ付き携帯電話の揺れる画像としてしか見ることができないストリーミングコンサートビデオは、音楽のエコシステムに対する新しい追加要素と感じられる。もしプラットフォームがビデオの撮影と制作にお金を払う意思がある場合、プラットフォームのための強力な差別化要因となり得る。そして、今夜アップル本社で行われたビリー・アイリッシュの木で覆われたステージのように、記録されたショーが普通見られるツアーとは異なっている場合には、ファンを画面の前に釘付けにすることができる。単に一般的なアプリで音楽を聴くことに比べて、ビデオ視聴はショーを放送する会社への親しみを深める可能性がある。

Spotifyのような。コンサートビデオの面ではまだほとんど何もしていない競合他社に比べると、アップルはすでに先を行っている。今夜のような番組をさらにストリーミングすることで、Apple Musicは、従来の音楽ストリーミングにさまざまなレア動画やミュージックビデオ、およびCoachellaなどのストリーミングコンサートを統合しているYouTube Musicの、良きライバルになるだろう。幸運なことに同社は、世界中に小売店とオフィスを持っているため、より多くのショーの開催と記録のための移動の労力を減らすことが可能だ。

これまでのところ、Apple Musicはその成長を、同社の携帯電話、タブレット、コンピューターへの事前インストールに加えて、無料トライアルシステムに頼って来た。しかし、もしそれが業界のコンテンツ提供に欠けている部分を見つけて、その潤沢な資金を活用してプレミアムビデオに投資し、アーティストの役に立つことを示すことができたなら、Apple Musicはアップル自身から独立した、より多くの信頼を集めるブランドを構築することができるだろう。

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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