ARと3Dモデルを使えば知識の共有もスムーズ、無料アプリも提供するJigSpaceが約5.2億円調達

元アートディレクターのZac Duff(ザック・ダフ)氏は、2015年にゲーム開発コースをオンラインで教え始めたが、新型コロナウイルスの影響によるロックダウンが起きた後、世界中の教師が経験したのと同じ困難に直面した。そこでダフ氏は、自分の3Dデザインの経験を活かして、バーチャルリアリティの教室を構築し、生徒たちがリモート学習をもっと魅力的に感じられるようにした。この学校では、Zoom(ズーム)で講義を受ける代わりに、生徒たちはVRヘッドセットを装着して、ダフ氏が作った古代ギリシャ風の教室に移動する。

とはいえ、このような学習モデルを容易に普及させることはできないことも、ダフ氏にはわかっていた。ほとんどの学校にはVRヘッドセットの準備がないし、ほとんどの教師は10年を超えるゲームデザインの経験を持っていないため、緑の野原に蝶が舞う教室を(ダフ氏のように)作ることはできないからだ。しかし同氏は、誰もが3Dプレゼンテーションを作成し、ARで情報を共有できる、ユーザーフレンドリーなプログラムに可能性があると感じた。

「その中心にあるのは、知識の伝達です。ある人が別の人に知識を本当に効果的な方法で伝えることです」と、ダフ氏はTechCrunchに語った。同氏は、一般的なユーザーでもアイデアを伝えるためのプレゼンテーションやグラフィックを簡単に作成できる、Microsoft Powerpoint(マイクロソフト・パワーポイント)やCanva(キャンバ)のような製品に言及した。「2Dではそういったシステムがありますが、3Dではそれがありませんでした。何かを作るためには、本当に複雑で高価な技術的プロセスを経なければなりません。それが私の心に引っかかっていました」。

画像クレジット:JigSpace

それからすぐに、ダフ氏は金曜日に仕事を休んで、3Dにおける知識共有の標準を確立するための会社となるJigSpace(ジグスペース)の概要をまとめ上げた。2017年にローンチした同社のプラットフォームは、現在400万人以上のユーザーを抱え、App Store(アップ・ストア)における平均評価は4.8。JigSpaceのアプリをダウンロードすると、水漏れしたシンクを修理する方法や、乾いた壁の補修方法、あるいはLego(レゴ)Star Wars(スターウォーズ)の宇宙船の作り方などを示す3Dモデル(Jigと呼ばれる)に、ARで触れることができる。また、ピアノの構造や人間の目の仕組み、新型コロナウイルスの感染経路などを教える教育用モデルもある。JigSpaceの潜在的な使用例は多岐にわたる。ダフ氏はメーカーと協力し、自社製品のJigを作ってもらいたいと考えている。そうすれば、例えばエアコンのフィルターを交換する際に、説明書に載っている白黒の2次元の図面ではなく、3次元のモデルをARで見ることができるようになるというわけだ。

JigSpaceは米国時間6月30日、シリーズAラウンドで470万ドル(約5億2000万円)の資金を調達したと発表した。この投資ラウンドはRampersand(ランパーサンド)が主導し、Investible(インベスティブル)の他、Vulpes(ウルペス)、Roger Allen AM(ロジャー・アレンAM)などの新たな投資家も参加した。

JigSpaceのアプリは無料で利用でき、誰でも3Dモデル化されたオブジェクトのプリセットやテンプレートを組み合わせて独自のJigを作成することができる。技術的な知識を持った人なら、無料版でも30MBまでのファイルをアップロードして、よりカスタマイズされたJigを作ることもできる。しかし、Jigspaceの収益源は、商業ビジネスや製造会社向けに設計された「Jig Pro(ジグ・プロ)」プラットフォームだ。Jig Proの個人向けサブスクリプションは月額49ドル(約5450円)だが、企業向けの価格はオンラインに記載されていない。

画像クレジット:JigSpace

「当社にとって最適な分野は耐久消費財の製造業です。なぜなら、ほとんどの製造業の製品にはCADファイルがあり、3Dデータがすでに存在しているからです」と、ダフ氏はいう。「当社はそれらの企業と協力することで、製品の構造を示す素材を製作するためのツールを企業に提供することができます」。

JigSpaceはPro版を発表した直後、Apple(アップル)のiPhone 12発表イベントで取り上げられ、iPhone 12のLiDARスキャナーと5G機能を使って製造業の時間とコストを削減する方法の実例を示した。また、JigSpaceはSnapchat(スナップチャット)とも提携し、キッチン用品をスキャンすると、電子レンジやコーヒーメーカーなどがどのように動くかを示す3Dイメージ(Jig)が表示されるレンズを作成した。

Jig Proの顧客数は、2020年半ばの発売以来、毎月40%ずつ増加しており、平均的なユーザーは1日1回以上アプリにログインしているという。Verizon(ベライゾン)、Volkswagen(フォルクスワーゲン)、Medtronic(メドトロニック)などの企業は、JigSpaceを使って3Dモデルを開発し、関係者や顧客、遠隔地の従業員に提示する方法として活用している。アップルのCapture(キャプチャ)のような製品が出てくれば、自分の3DモデルをJigSpaceに取り込むことがさらに容易になるだろう。

商業的な可能性を秘めているにもかかわらず、JigSpaceは手軽にARを通して学べるように、無料版を維持している。これはダフ氏にとって重要なことであるという。

「私たちは、トップ技術者だけでなく、情報を共有したいと思っているすべての人々に、確実にサービスを提供できるようにしたいのです」と、ダフ氏はいう。「共同設立者のNuma Bertron(ヌマ・ベルトロン)と私は、最初から無料版を提供したいと考えていました。知識は可能な限り最善の方法で人々がアクセスできるようにすべきであり、そうすべきでない理由はありません」。

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カテゴリー:VR / AR / MR
タグ:JigSpace教育資金調達アプリ3D / 3Dモデル

画像クレジット:JigSpace

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

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TechCrunch Japan

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