Armが次世代プロセッサーアーキテクチャ「Arm9」を発表

米国時間3月30日、Armは同社の次世代チップアーキテクチャ「Arm9」を発表した。先代のArmv8は10年前に登場し、これまでにさまざまな変更やアップデートを経てきたが、今回の新しいアーキテクチャにはバージョンを上げるにふさわしい重要なアップデートがいくつかある。当然ながらArmv9はv8がベースで、後方互換性があるが、特に強調されているのは新しいセキュリティ機能とAI向けの機能、信号処理、そしてパフォーマンスのアップだ。

Armベースのチップは、過去5年間で1000億以上販売された。しかしArmは、同社のパートナーたちは次の10年で3000億以上を販売するだろうと考えている。なお、最初のArmv9ベースのチップが登場するのは2021年の後期だ。

Armのクライアントビジネス部門のマーケティング担当副社長であるIan Smythe(イアン・スマイス)氏は、この新しいアーキテクチャが次の10年間のコンピューティングを変えるだろう、と語っている。「まずパフォーマンスが上がり、、セキュリティも向上する。さらに、今日、計算処理に怒りつつある変化に合わせて、ワークロードのサポートが強化される。私たちがこの方向を採る理由は、データの急増と、それを処理するニーズ、移動するニーズ、そしてそれを保護するニーズに対応して、真剣にどうすれば最良のユーザー体験を提供できるかを考えたためだ」とスマイス氏はいう。

スマイス氏の発言は、今回のアップデートの中核にある基本的な考えをうまくまとめている。セキュリティに関してArm9は、同社社外秘のコンピュートアーキテクチャとRealmsコンセプトが導入される。Realmsとは、開発者が書くコードにおいてデータがオペレーティングシステムおよびデバイス上の他のアプリケーションから遮蔽される機能だ。例えば業務用アプリケーションは、Realmsを利用して機密データとコードをデバイスの他の部分から遮蔽できる。

画像クレジット:Arm

ArmのチーフアーキテクトであるRichard Grisenthwaite(リチャード・グリセンスウェイト)氏は次のように語っている。「ArmのConfidential Compute Architectureで我々が何をしているかというと、それはコンピューティングのすべてが、そのインフラストラクチャであるオペレーティングシステムとハイパーバイザーの上で行われていることに対する懸念だ。それらのコードは極めて複雑であり、何かまずいことが少し起きただけで侵害されてしまう。しかもそれ(OSなど)は、非常に信頼されているポジションにあるため、私たちはワークロードの一部を移動して、それがとても小さなコードで実行されるようにしている。データが実際にアクセスされているときにそれを見ることができるのは、Realmマネージャーだけだ。しかもそれは通常のハイパーバイザーの10分の1ほどのサイズで、オペレーティングシステムよりもずっと小さい」。

グリセンスウェイト氏によると、Armはこのセキュリティアーキテクチャの詳細設計に数年を投じ、十分に堅牢なものに仕上げたという。しかしその間にSpectreとMeltdownの騒動が起こり、Armの初期の開発成果もその対応で後退を余儀なくされた。

画像クレジット:Arm

チームがフォーカスしたもう1つの領域が、当然ながらCPUのAI機能強化だ。AIのワークロードは今や至るところにある。Armもすでに数年前、Scalable Vector Extension(SVE)を導入したが、当時、それはAIではなく、Armで動くスーパーコンピューターFugaku(富岳)のようなハイパフォーマンスコンピューティング用と見なされていた。

しかし、今回ArmはSVE2を導入し、AIとデジタル信号処理(digital signal processing、DSP)の能力を高めた。主な用途は画像処理のワークロードやIoT、スマートホームのソリューションなどとなる。もちろん市場にはすでにAI専用を自称するチップが登場しているが、Armの考えでは、そのようなワークロードにおいても全体的なコンピューティングスタックの最適化が求められるはずであり、そのために、同社のCPUが正しい選択となるユースケースが大量にあるという。

「機械学習は今や何にでもあると私たちは考えており、GPUで行われたり、専用のプロセッサーやニューラルプロセッサー、そして弊社のCPUでも行われている。本当に重要なのは、そうしたさまざまなコンポーネントのすべてが、現在よりも上手に機械学習ができるようにすることだ」とグリセンスウェイト氏はいう。

パフォーマンスそのものに関しては、Armの考えではその新しいアーキテクチャによりチップメーカーは今後二世代のチップの性能が30%以上アップするという。それはモバイル用CPUと、さまざまなインフラストラクチャ用CPUの両方で、後者はたとえばAWSのようなクラウドベンダーがユーザーに提供しているコンピューティングのインフラストラクチャーとなる。

サムスン電子のSoC開発担当執行副社長Min Goo Kim(キム・ミング)氏は、次のように述べている。「Armの次世代アーキテクチャArmv9はセキュリティと機械学習で重要な改善を果たしている。この2つの点は、明日のモバイルコミュニケーションデバイスでさらに強調される分野だ。Armのパートナーとして、私たちはこの新しいアーキテクチャが、サムスンのExynosモバイルプロセッサーの次世代に向けた大きなイノベーションをもたらしてくれることを期待している」。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:Armプロセッサー

画像クレジット:Simon Dawson/Bloomberg via Getty Images/Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hiroshi Iwatani)

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TechCrunch Japan

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