Automataがラボオートメーションの野望を拡大、ラウンドBで57.5億円を調達

現在世界中のラボ(実験施設)は、新型コロナウイルス感染症(COVID)のためだけではなく、成長するバイオテクノロジーや医薬品開発の分野から、より多くのテストや材料の処理を行う必要に迫られている。自動化はそのために必要となる道筋だ。Automata(オートマタ)は、個々の作業を扱うロボットアームの製造からスタートした企業だが、研究室のプロセス全体を最初から最後まで自動化するために、新たに5000万ドル(約57億5000万円)を調達した。

前回Automataと話したのは2019年だったが、当時同社は740万ドル(約8億5000万円)のラウンドAを実施したばかりで、ガラス容器を移動させたり、簡単なサンプリングを実行したりといった、さまざまな一般的なタスクに使用できるEva(エバ)ロボットアームの開発と展開に注力していた。しかし彼らはすぐに、独自性の高い小規模なプロジェクトや研究室向けにロボットを提供するという事業が、ビジネスモデルとして成り立たないことに気づいた。

共同創業者でCEOのMostafa ElSayed(ムスタファ・エルセイード)氏は「ある段階で顧客と関わるだけでは十分ではありません。例えば『市場で最も手頃な価格のロボットアームがあります。あとは幸運を祈ります!』と売り込んで、お客さんが1〜2台のロボットを購入しても、ある程度のプロセスの最適化は行われますが、その企業の動きに革命を起こすことはありません。そこでここ数年は、当社の技術を大規模に採用してもらうにはどうすればよいかを検討してきました」と語っている。

彼らは、ほどなく自動化ブームが到来すると考えられる3つの大きな市場を特定した。それは、診断、創薬、そして合成生物学(特定の目的のための微生物の発見や合成培養)だった。

同社が最初の数百台のEvaアームを設置して発見したことは、これらの分野の企業には「部分的な自動化」が多いということだった。エルセイード氏は、これをキッチンにある食洗機にたとえた。たしかに食器を手で洗う必要はなくなったが、食器の出し入れ、洗剤の追加、設定操作などの作業が相変わらず必要なのだ。もちろん食洗機は便利だが、動作するためには完全に人間の作業に依存していることには変わりがない。

こうした部分的な自動化の限界は、パンデミックによって浮き彫りになった。特にPCRテストを行うラボは、最大の能力で稼働していたものの、それでも需要を満たすことはできなかった。同様に、医薬品開発や合成生物学の分野では、1つのプロセスの実行頻度に制限があるため、実行スパンが5〜7年に及ぶこともある。部分的な自動化から完全な自動化へと移行することで、大幅な時間短縮とスループットの向上を実現することができる。しかし、それは数少ないロボットアームだけでは実現できなかった。

Automata Labsの操作コンテナならびに、その横に並ぶEvaロボットアーム

「このような自動化を可能にするために、まったく新しいハードウェア群を開発しなければなりませんでした」とエルセイード氏は述べている。2021年末、彼らは新しいハードウェアプラットフォームAutomata Labs(オートマタラボ)を発表した。これは、内部の機械を連続的に動作させ、その結果を次のステップに渡すことができるように作られた、一種のモジュラーコンテナだ。「この作業台は、実際にあらゆるラボにある標準的なユニットですので、基本的には、自動化に対応した総合ラボ作業台なのです」。

同社の最も顕著な成功例は、NHS(英国国民保健サービス)の検査施設だ、現在は可能な限り自動化され(つまり、人間はまだそこにいるものの、膨大な量の作業がロボットによって行われている)、現在では100万以上のサンプルが処理されている。エルセイード氏は、この数字が大きいということも指摘しつつ、より重要なのは、自動化によって結果が出るまでの時間が半分に短縮されたことだという。ご想像の通り、これは時間的成約の厳しい検査には重要だ。それは、臨床医がロボットを一晩中働くように設定し、朝には結果が出るようにできるレベルまで自動化されていることに大きく依っている。

実験的な環境では、タイムラインを25〜40%削減することができた。これは大きな成果だが、製造業などの分野で生産性が大幅に向上したことを知っている人には控えめな数字に聞こえるかもしれない。エルセイード氏によれば、特定の数値をさらに向上させるためには、NHSの迅速ラボを可能にした「lights out laboratories(完全自動ラボ)」のような道が他にもあるという。

ムスタファ・エルセイードCEO

しかし、同時にエルセイード氏は、多くの研究者にとっては精度や再現性も重要な課題だと語る。

「そうしたユーザーの間には、明確なニーズがありました」と彼はいう。「基本は、ラボでの単純な作業を減らしながらスループットを向上させることが目標です……が、私たちは気が付いていなかったのですが、ラボには再現性の問題もあったのです。研究チームは研究論文を発表しますが、その結果を再現しようとしても失敗します。なぜなら、研究室でのプロセスは複雑な手作業であり、変動するからです」。

そのため、自動化によって得られる大きな利点は、体系的な追跡と実行、そしてエラーが少ないことだ。その目的のために、Automataはラボ装置やロボットを管理・運用するためのソフトウェアに投資してきた。

「これらの組織の科学者、特に将来大切になる自動化を担当する科学者の方は、単に私たちを呼んで自動化作業を依頼なさるのではなく、自分たちでシステムをプログラムし、自分たちでスクリーニングを設計できる能力を本当に求めていられるのです」とエルセイード氏は語る。科学者と交渉したことのある人ならわかると思うが、科学者の多くは、外部機関に主導権を奪われるくらいなら、従来のやり方を続けたいと考えている。そのため、現場のスタッフが展開・調整することを前提としたシステムを開発することに重点が置かれてきた。

彼は続ける「当社のハードウェアを採用なさっているラボの中には、ご自身でコンフィグレーションやデプロイメントを行ったり、エコシステムをご自身のデータシステムに接続したりすための、デジタルソリューションを求められるところが増えています」。

新世代のハードウェアが、パートナー企業との限定的なテストを経て、年内に公開される予定だ。また、Automataは、米国やヨーロッパの広い市場への進出の準備も進めている。この拡大のために必要となる膨大な雇用、製造、販売、サポートなどが、今回の5000万ドル(約57億5000万円)のラウンドBの理由だ。このラウンドは、Octopus Venturesが主導し、Hummingbird、Latitude Ventures、ABB Technology Ventures、Isomer Capital、In-Q-Telなどが参加した。

画像クレジット:Perchpeek app

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。