B2B向け融資のFundboxがシリーズCで約188億円を調達

クレジットカードは消費者に広く使われている。理由は簡単だ。Visaのような決済ネットワークが買い手(消費者)と売り手の取引を仲介し、買い手の信用リスクがわからなくても、売り手がお金と引き換えに商品やサービスを提供することを可能にしているからだ。消費者はすべての売り手にクレジットを申請する必要はなく、クレジット発行機関で一度申請すれば、決済ネットワーク上のすべての売り手と取引できる。これは次のような簡単な公式で表せる。摩擦を減らすことでより多くの売り上げと利益がもたらされる。

経済の中で消費者が利用できるイノベーションに比べて、B2Bの世界で利用可能な手段は極めて限られている。企業間の決済は請求書を通じて行われる。回収サイトが90日を超えるのに顧客の財務リスクについてほとんど知らないこともある。消費者のFICOスコア(米国でクレジットカードの審査などに利用される個人の信用の指標)に相当するものが企業にはない。企業間の取引を仲介して摩擦を減らすシステムもない。

そこでFundbox(ファンドボックス)の出番だ。サンフランシスコ本社のスタートアップで、Visaのような決済ネットワークを構築してB2Bの決済の形を変えたいと考えている。顧客の信用リスクをがわからなくても取引を進められるだけでなく、顧客からの早期回収も可能にするネットワークの構築を目指す。

この構想に多くのベンチャーキャピタルが注目した。2013年創業の同社は9月24日、シリーズCのエクイティファイナンスで1億7600万ドル(約188億円)を調達したと発表した。Allianz X、Healthcare of Ontario Pension Plan、HarbourVestなどで構成されるコンソーシアムがラウンドをリードした。既存株主である、Khosla、General Catalyst、Spark Capital Growthも参加した。調達総額は3億ドル(約321億円)を超えた。

エクイティに加えて、債権引き受けに使う1億5000万ドル(約161億円)の信用枠を確保したことも発表した。

FundboxのCEOであるEyal Shinar(エヤル・シナー)氏は、今回の資金調達における投資家選択で重視した点としてエクイティ投資ができるだけでなく、Fundboxが成長するにつれ増えるであろう債権引き受けをサポートする十分な資金力を挙げた。

Fundboxの主なサービスは中小企業向けのリボルビングクレジットライン(一定限度の信用枠内で自由に借り入れや返済ができる契約)だ。資金繰りが大きな悩みになっている会社は多い。顧客から入金されるまでは、次のプロジェクトへの投資や新たな雇用ができないといったことが頻繁に起こる。リボルビングクレジットラインが使えれば柔軟な資金の借り入れや返済が可能になるし、手数料は借り入れた分のみ払えばいい。

融資を申請するには、QuickBooks(米国の中小企業向け財務会計ソフトウェアの定番)などの会社の財務データにFundboxがアクセスできるようにする。Fundboxがデータを分析し数分で審査結果を提示する。審査に通ればすぐにクレジットライン(信用枠)から運転資金を引き出せる。顧客から入金されたら、引き出したお金を返済して手数料の支払いも終えることができる。

シナー氏は、Fundboxの融資の仕組みから考えると、Fundboxが狙うマーケットは究極的にはGDPの規模に近いとみている。企業や経済が実現し切れていない経済的価値があるからだ。「活用できる売掛債権が3兆ドル(約320兆円)以上あるはずだ」とシナー氏は説明する。「世の中の取引のうち、3.4兆ドル(約370兆円)が消費者クレジットカードで支払われるが、23兆ドルが請求書払いだ。中小企業だけでも9兆ドル(約970兆円)ある」

Fundboxは市場のあらゆるプレーヤーからデータを収集している。集めたデータが生み出すネットワーク効果を活用して、最終的にはB2Bの決済プラットフォームを運営したいと考えている。売り手側にクレジットラインを提供するのではなく、売り手と買い手双方の手間を省き、取引を複雑にしている根本の原因を取り除く構想だ。

大胆な青写真だが、多様なプレーヤーが同様の壮大なビジョンを携えて業界に参入してきた。スタートアップの世界では、Kabbageがクレジットラインを中心にビジネスを構築し、Fundboxと同様にベンチャーキャピタルから多額の資金を調達した。なお筆者は、Kabbageの共同創業者兼社長のKathryn Petralia(キャスリン・ペトラリア)氏に10月2日から始まるDisrupt SFでインタビューする予定だ。

Square、PayPay、Intuit(QuickBooksを所有)などの大企業が、B2Bの顧客にさまざまな貸付サービスを提供している。支払いに関しては、Stripeが新しいクレジットカードを、Brexが従業員による立て替え払いを容易にする手段を提供している。

Fundboxの最優先事項は引き受けの効率化だ、とシナー氏は言う。同社の従業員の大部分を占めるデータサイエンティストが、中小企業に広がるデジタル化を活用する。「どの会社にも一通りのAPIがある。データはアクセス可能であり粒度も細かい」とシナー氏は説明する。Fundboxは既存のデータを利用して金融事業に一般的な人間による審査を回避している。

同社の取り組みの1つに「X-Ray」と呼ばれるツールがある。機械学習モデルが行う審査の判断過程を詳しく説明するツールだ。シナー氏は、決済業界は規制が厳しいため、会社は意思決定について説明できるだけでなく、会社に質問してくるどの規制当局に対しても偏りなく対応していると説明できる必要があるとの見解を示した。

同社は現在、サンフランシスコ、テルアビブ、および最近開設されたダラスを含め240人の従業員を抱える。シナー氏は、新しい資金を使って「果敢に攻め」「順調な取り組みにはさらに力を入れる」と強調した。

画像クレジット:GlobalStock / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

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TechCrunch Japan

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