Beyond Nextが名古屋大・他4大学の公認ファンド運営へ、医師起業家ファンドも設立

独立系アクセラレーターBeyond Next Ventures(以下、BNV)は12月6日、名古屋大学ほか東海地区の5つの大学発スタートアップへ投資を行う、大学公式ファンド「名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー2号ファンド(仮称・以下、東海広域5大学ファンド)」の運営事業者として選定されたことを発表した。

BNVではまた、12月3日に同社のFacebookページ上で、医師起業家への出資を行う「アントレドクターファンド」への取り組みについても明らかにしている。

BNVは2014年の設立後、大学発の研究開発型ベンチャーを対象としてBNV1号ファンドを立ち上げ、2016年にクローズ。ファンド総額は55億円を超える規模となった。また今年の10月には1号ファンドを超える規模のBNV2号ファンドを設立。BNV2号ファンドでは「医療・ライフサイエンス領域へ重点的に支援を行う」としている。

BNVのアカデミア、そして医療・ライフサイエンスへの最近の取り組みについて、同社代表取締役社長の伊藤毅氏に聞いた。

大学発シーズを起業前から成長まで一貫して支援

写真右から名古屋大学総長 松尾清一氏、Beyond Next Ventures代表取締役社長 伊藤毅氏

2019年春に設立が予定されている東海広域5大学ファンドは、東海地区産学連携大学コンソーシアムに参画する名古屋大学、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学、岐阜大学、三重大学の5大学発スタートアップへの投資を目的とするものだ。

5大学では、2016年にも日本ベンチャーキャピタルを運営事業者として、名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー1号投資事業有限責任組合(名大ファンド)を設立。名大ファンドの組成が25億円規模で完了したことから、新規ファンドの設立を準備し、今年8月から運営事業者の公募を行っていた。

BNVは、BNV1号ファンドで研究シーズの事業化経験も多数ある。名古屋大学発スタートアップでは、電子ビーム発生装置・素子の開発・販売を手がけるPhotoelectron Soul や、新品種創出プラットフォーム技術を持つアグリバイオベンチャーのグランドグリーンといった企業へ、創業期から出資や事業化支援を行ってきた。

またBNVでは、2016年8月に複数の大手事業会社とアクセラレーションプログラム「BRAVE」をスタートし、実用化・事業化を目指す技術シーズに対して、知識やノウハウ、人的ネットワークを提供している。

伊藤氏は「アカデミアの技術シーズに対する起業前からの支援やアクセラレーションプログラムを持つことが評価されたのではないか」と、今回ファンド運営者として選定された背景について話している。

BNVは、早稲田大学発スタートアップへの出資を目的とした、総額20億円規模の大学公式ファンド組成に関しても、ウエルインベストメントとともに大学と提携して支援を行うことが決まっている(関連記事)。

「これまで培ってきたアカデミアシーズの事業化ノウハウの知見や経験を広く社会に還元するために、複数の大学の公認のアクセラレーターとして事業化支援を行っていく」というBNV。「東海5大学の特許取得件数は合計すると京都大学と同じぐらいある」と伊藤氏は述べ、最大20億円規模で東海広域5大学ファンドの組成と、5大学発スタートアップへの起業準備や事業化支援、出資・成長支援まで、一貫したサポートが可能な体制構築を進めるとしている。

医師起業家ファンドは「医療変革のためのメッセージ」

BNV1号ファンドの投資先企業は、「社長かつ医師」が創業した医療・ライフサイエンス領域スタートアップが約3分の1を占める。キュア・アップサスメドといった医師起業家が創業したスタートアップについて、伊藤氏は「新しい医療・ライフサイエンス分野のプロダクト開発を、スピード感と柔軟性を持って実施できる。臨床医療だけでは救えない患者も救うことが期待できる」と語る。

そうした考えのもと、BNVがスタートした取り組みが「アントレドクターファンド」、医師起業家スタートアップを対象とした投資ファンドだ。

伊藤氏は「医療の現場は、閉鎖的で外部が入りにくい構造もあり、なかなか効率化されてこなかった。医療費増大が問題になる中で、新しい医療機器を使った治療法の確立や、そもそも病気になりにくくするための予防的アプローチなどの担い手は、比較的若いドクター起業家であると僕は信じている」と語っている。

「それを僕はBNV1号ファンドでの投資で実感した。病院やクリニックに新しい治療方法や医療を効率化するプロダクトが浸透するためには、治験をはじめとしたデータが求められる。国の承認にしても、現場の医療関係者を説得するにしても、データとエビデンスがすべてだ。それをきちんと取って説得できる会社でなければ、病院やドクターに評価してもらえない」(伊藤氏)

ヘリオス、メドピア、ドクターシーラボなど、医師起業家が創業し、株式上場を果たした企業の事例も出ていることから「若手の医師起業家は少しずつ増えている」と伊藤氏。「そのチャレンジを後押ししたい」と話している。

ところでBNVでは、2018年から東京都の委託を受け、創薬系スタートアップの起業や成長を支援するアクセラレーションプログラム「Blockbuster TOKYO(ブロックバスタートーキョー)」を運営。BNV2号ファンド設立時にも「特に、医療・ライフサイエンス領域に注力する」とコメントしており、2019年2月には、東京・日本橋にシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」の開設も予定している。

こうして見ると、この領域への支援は、BNVでは既に十分に手当てが進んでいるのではないかと思えるのだが、さらにアントレドクターファンドという形でフィーチャーした理由について、伊藤氏は「社会へのメッセージでもある」と説明する。

「増大する医療費や非効率な医療現場といった課題は、破綻を迎えつつある日本の医療の実情を見れば、今こそ真剣に取り組むべき。これを世の中に知ってもらうために、あえて強調している。僕たちにしてみれば、秘密にしておけばほかの投資家とも競争にならないので、その方がいいのだけれど、あえて『おいしい投資分野があるよ』と教えることで、他者からも医師起業家への投資機会を得たい。そのための明確なメッセージだ」(伊藤氏)

また「ドクターで、起業に少しでも関心があるという人たちに、臨床医師という道だけでなく、起業家としての道もあると知らせることも、アントレドクターファンドの目的」と伊藤氏は言う。

「効率化で医療現場がよくなれば、医師・医療関係者の長時間労働問題の解決にもつながり、よい医療を受けることができる患者さんにもベネフィットがある。もちろん医療費にも大きなインパクトがあるはず。アントレドクターファンドの取り組みを、医療変革のためのメッセージとして届けたい」(伊藤氏)

アントレドクターファンドの規模は10億〜20億円を予定している。第1号投資案件として投資を受けたのは、人工知能技術を活用してインフルエンザの高精度・早期診断に対応した検査法を開発する医療スタートアップ、アイリスだ。アイリスは2017年11月に救急科専門医であり、医療スタートアップのメドレー執行役員も務めていた沖山翔氏が創業した。出資金額は非公開だが、伊藤氏は「BNVがリードインベスターとして、積極的に支援していく」と話している。

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TechCrunch Japan

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